ツール・ド・フランス2022

クレイジーな短距離決戦。ステージ距離は、タイムトライアルと最終日シャンゼリゼを除けば最短の130kmで、しかもスーテージ後半に4つの難峠がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。加えてフィニッシュはとてつもない激坂だ！

サンゴダンスを走り出すと、序盤約55kmは、ほぼ平坦な道を進む。33km地点に中間ポイントも待ち構えているから、緑のジャージを争う者たちが、ちょっとしたスプリントを繰り広げるかもしれない。

その後はすぐにグルペットに備えるべきだ。なにしろ以降はひたすらクライマー天国。54km地点で1級アスパン（登坂距離12km、平均勾配6.5％）の山道に足を踏み入れたら、息つく間もなく2級ウルケット・ダンシザン（8.2km、5.1％）、1級ヴァル・ルーロン・アゼ（10.7km、6.8％）を上がって下りて上がって下りての繰り返し。

ところでこの10年で登場6回目と、すっかりツール常連となったヴァル・ルーロン・アゼ峠だが、反対側から攻めることのほうが多い。つまり今回はダウンヒル側が-8.3％の急勾配で、しかも極めて間隔の短いヘアピンカーブが連続で襲いかかるという意味になる。

テクニカルな下りの遅れを取り戻す間もなく、選手たちはすぐに、最終1級ペイラギュードの全長8kmの山道へと突っ込んでいく。平均勾配こそ7.8％と平凡だが、この山の恐ろしさは、ラスト300に凝縮されている。なにしろフィニッシュラインが引かれる山岳飛行場への進入とほぼ同時に、いきなり勾配は13％に跳ね上がり、最大で16％に達するのだ！

007シリーズ『トゥモロー・ネヴァー・ダイ』撮影地として知られる同飛行場は、映画発表20周年を記念して、今から5年前にツールで初めて使用された。あの日、幅の広い滑走路で、強豪10人がもがき苦しむ姿は衝撃的だった。なによりたったの300mで約30秒差がついてしまうほどの激坂で、フルームが4度のツール総合制覇中に、唯一、マイヨ・ジョーヌを一旦失った場所でもあった。

あいかわらず、きつい山ばかりですね。ツールって毎年こんなに厳しいステージばかりでした？今年のツールは一切ゆとりがない。イメージ的には、ジロとかブエルタのような、過激なコースが多いように思えます。もはや総合リーダー系の選手しかレースしてない……みたいな。

総合がそろそろがっちり決まり始めてきてる頃ですから、ここは耐え忍ぶしかない。スプリンターも、アシストたちも、総合系リーダーも、誰もが我慢です。とにかく最後の山の麓まではアシストががんばって仕事をして、あとは後方から少しずつ振り落としていく展開になりそうです。

チーム単位でしっかりコントロールできれば、総合順位を上げていくこともまだまだ可能なはず。ただ、ここまで連日きついステージが続くと、アシストがもはやは機能しなくなってきてる可能性も。そうすると、やっぱり、総合系リーダーの力量のみにかかってきます。リーダーが孤立しちゃう、なんていう場面も見られるかも。最終的に失速するリスクも出てきてしまう。

もしかしたら大きな差がついてしまうことだってありますよ。もうシャンゼリゼも目の前に見えてきているのに、ミラクル……が起こってしまうかも。

いや、どこのステージかは分からないんですけど、今年のツールは総合を脅かしてしまうようなとんでもない大逃げが見られそうな気がします。以前ジロでリッチー・ポートが大逃げで新人賞を取って、ツールではトマ・ヴォクレールがマイヨ・ジョーヌを頑張って守り続けましたけど、ああいう、予想外の選手が予想外の展開を実現させてしまうこともありえます。普段のツールではめったに起こらないミラクルが、今年は起こるかもしれない。だって、ほんと、総合系が無茶するしかないステージばかりですから。

解説：別府史之 / 文：宮本あさか