ツール・ド・フランス2021

シャンゼリゼ到着まであと1週間。大会最後の休息日を終え、最終決戦地ピレネーへと片足を踏み入れるこの日は、2022年大会初のダウンヒルフィニッシュが争われる。

2日前にスプリント勝負を見守ったカルカッソンヌから、さらに西を目指す。序盤2つの山岳で逃げの形成を見送ったら、しばらくはなだらかな道が続く。この時間を利用して、休息日で崩れたリズムを、できる限り取り戻しておかねばならない。

走行距離も110kmを過ぎると、いよいよ本格的な起伏に突入だ。つまり1級ポール・ド・レルス（登坂距離11.4km、平均勾配7％）と1級ミュール・ド・ペゲール（9.3km、7.9％）の連続登坂。レルス峠は上り始めに10％超ゾーンが登場し、後半に9％超もあり。おまけに下りは極細で、ヘアピンカーブが至るところに散りばめられている。

そこから「ミュール＝壁」へ。序盤6kmは変哲のない上りだが、山頂手前の3.3kmで、突如として勾配18％ゾーンが訪れる。そこから勾配は11％以下には決して下がらない。壁の呼び名は決して伊達ではないのだ。

フィニッシュラインが引かれるのは、壁のてっぺんから27.2km先。曲がりくねった細道を、大急ぎで、しかし安全に下りきらねばならない。

このペゲールからの下りフィニッシュは、2012年と2017年にも使用された。ただし10年前の初登場時はコース上に釘がばらまかれ、メイン集団は「ノーアタック」の態度を貫いた。一方の5年前はコンタドール、ランダ、キンタナ、バルギルが壁を先頭で抜け出し、スプリントを争う……という超豪華版フィニッシュ。ちなみに勝利の決め手は、今年もラスト250mに待ち受ける「U」カーブ。大外から遠心力を利用して加速したバルギルが、鮮やかに勝利をさらっている。

最後の上りは曲者ですね。ラスト3.5kmの勾配が半端ない。16％、18％って、もはや別世界ですから。で、そこからの勇気あるアタックが、チャンスを引き寄せるんじゃないかな。

最初の平坦区間が長いので、序盤から逃げ切る可能性があるステージですね。総合系は無理して追いかけないんじゃなかな……いや、どうだろう。最後は下りなので、タイム差も、そこまで開くわけじゃない。ただピレネーならではのリスクがあります。アルプスに比べると、道が細くて危険です。それにアルプスは寒さや悪天候で体調を崩す選手が多いんですけど、ピレネーは暑さにやられてしまう。直射日光も強い。

例えばグランツール1週目というのは、山岳賞狙いとかの選手が、少人数で飛び出すことが多いじゃないですか。でも3週目になると疲労も溜まってくるし、しかもピレネーですから、少人数で飛び出すのはリスクでしかありません。だからチームミーティングとかでも、できる限り大きい集団で逃げろ、とたいてい指示が出ます。

大きい逃げが出来たほうがみんな助かるんです。集団が大きければ大きいほど、体力温存しながら走れる。総合系もあまりに大きい逃げはそもそも追いきれないから、できる限りチームから前に誰かを滑り込ませて、そして後ろは無理に引かない。困るのはそこに乗れなかったチームだけ。

だから終盤の上りに入る前には、逃げはかなりのアドバンテージを手にしている可能性があります。最後の山頂からたしかに距離は30km近く残ってますけど、この上りで仕掛けて生まれたタイム差は、フィニッシュまで保てるかもしれません。個人的には、ピレネーのこういう区間では、最後は独走フィニッシュに持ち込まれるイメージです。

解説：別府史之 / 文：宮本あさか