ツール・ド・フランス2020



ツール・ド・フランスとは

ツール・ド・フランスとは 栄誉ある「マイヨ・ジョーヌ」こと、黄色に輝くリーダージャージを目指して男たちが凌ぎを削る

ツール・ド・フランスは、1903年にこの世に生を受けて以来、いつだって「7月の風物詩」だった。カレンダーの関係で6月末に開幕することは多々あれど、8月開幕はいまだかつて一度たりともない。閉幕さえ、8月にずれ込んだのは、過去106回でわずか6回のみ。最も遅くまでプロトンが走っていたのが1908年大会の8月9日だから……2020年大会の8月29日開幕は、まさに前代未聞の事態なのである。

今年は東京五輪の開幕に合わせて、本来なら、6月27日の土曜日にスタートが切られていたはずだ。ところが新型コロナウイルスの感染拡大のせいで、3月上旬から次々とあらゆるイベントが中止に追い込まれ、自転車ロードレース界も長い空白の時を過ごす。そして4月15日、開催委員長クリスティアン・プリュドムにより、ついに延期が発表された。2度の中断を余儀なくされた世界大戦以降初めて、人類は「ツールのない7月」を過ごした。

かろうじて夏のバカンスが終わる直前に、2020年ツールは幕を開ける。ほんの1ヶ月前にシーズンを再開したばかりの、いつもよりフレッシュで、いつもより勝負に飢えた全22チーム・176選手が、南フランスのニースに集結。21日間、全長3470kmの長き戦いへと走り出していく。

今大会の特徴はずばり「山の多さ」。なにしろ初日から早くもニースの裏山=アルプス山脈に軽く上り、2日目にはいきなり1級峠×2が待ち受ける。しかも大会4日目には、「上り坂フィニッシュ」ではなく、本物の「山頂フィニッシュ」が争われる。その後も中央山塊→ピレネー山脈→ジュラ山脈→ヴォージュ山脈と、昨年より1つ多い「5つの山地」を訪問。そのせいかプロトンは最後まで国境を一度も越えることなく、ひたすらフランス国内の、ほぼ南半分のみを駆け巡る。

また昨大会が「標高の高さ」にこだわったのだとしたら、今年のテーマは「未知なる山」だろう。第6ステージの最終峠リュゼット(+フィニッシュ地エグワル山への上り)や、第17ステージフィニッシュ峠ロゼは、正真正銘ツール初登場。過去2回ツールで「通過」したグラン・コロンビエは、今年の第15ステージで、初めて山頂フィッシュの舞台となる。過去13度もプロトンがよじ登ってきた伝統峠マドレーヌさえも、この第17ステージで、新たなる登坂路を開拓する。そもそも第4ステージフィニッシュのオルシエール=メルレットさえ、31年ぶりのツール登場だから、現役選手にとっては未知なる山だ。

さらには2年前に初めてツールの仲間入りを果たした「激坂+未舗装」グリエール峠(第18ステージ)や、2012年の初登場以来あっという間に常連と化した「激坂」ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ(第20ステージ)など、新しい山が戦略的要地として用いられる。一方で、有名な伝統峠たちは、今回はお休みを取った。アルプスとピレネーの両巨峰、ガリビエとトゥルマレのいずれも通過しないのは、21世紀に入ってわずか3回目。アルプデュエズやモン・ヴァントゥさえ、2020年大会には登場しない。

起伏ステージは3つ、山岳ステージは8つ。ピレネーにはあえてダウンヒルフィニッシュが2つ組み込まれたが、山頂フィニッシュは全部で4区間用意された(第4、13、15、17ステージ)。ただし第6・16ステージは、実質的には山頂フィニシュと言える。つまり開催委員会のデータに騙されてはならない。21ステージのうち、9ステージが平坦に分類されているが、「ピュア」なスプリンターが力を発揮できるのはおそらく3区間(10、11、21ステージ)。残す6区間は、「上れる」能力がなければ、勝負には絡めない。

もちろん3週間に渡る山岳大戦の勝負は、登坂で決する。パリ到着前夜の第20ステージ、今大会唯一の個人タイムトライアルは、プランシュ・デ・ベル・フィーユへ。勾配20%超ゾーンを抜けたその先で、ようやく2020年大会のマイヨ・ジョーヌが確定する。

おなじみシャンゼリゼが、ツール一行に開放されるのは、9月20日の日曜日。例年ならば世界で一番美しい大通りには、世界中の自転車ファンたちがつめかけ、華やかなスプリント列車に大歓声を上げる。アフターコロナ時代の最終日、果たしてどんな光景が広がっているだろうか。












SHARE

  • Facebook
  • LINE
  • Twitter