ツール・ド・フランス2023

マイヨ・ジョーヌ争いは、前夜のヴォージュ最終山岳バトルですでに決した。3週間にわたって熾烈な戦いを繰り広げてきた総合エースたちは、笑顔で、最終日恒例のパレードランへと走り出していく。

この日のツールは早くも2024年パリ五輪モード。トラック＆BMX開催地であり、フランス自転車競技連盟が本部を置くサン・カンタン・アン・イヴリーヌの自転車競技場脇に、スタートラインが引かれる。五輪ロードレースのコースが描かれる予定のイヴリーヌ県を駆け抜けながら、マウンテンバイク会場のエランクールやゴルフ会場ギュイヤンクール、さらには乗馬会場となるヴェルサイユを走る。

残り約66kmでパリに入場してからも、五輪会場巡りは続く。室内球技が開催されるサウスアリーナの脇を通過し、BMXフリースタイル会場のコンコルド広場を駆け抜け……いざ、シャンゼリゼへ！

パラリンピック開会式もこのシャンゼリゼで行われるそうだが、アスファルトと石畳が混ざった荒れた路面と、凱旋門に向けて長い上り基調の直線を、毎年ツールのプロトンは贅沢に独り占めしてきた。しかし1903年第1回大会から変わらずパリで最終日を迎え、1975年以降は「世界で一番美しい大通り」でフィナーレを迎えてきた長い伝統は、この2023年を最後に、一旦閉じられる。そう、来年2024年は、パリ五輪に場を譲り、最終第21ステージは史上初めてパリ以外の都市……南仏ニースで執り行われる。

だからこそ、最終日まで生き残ったすべてのスプリンターは、例年以上にモチベーションを燃やしているはずなのだ。だって、いわゆる「スプリンターズ世界選手権」の栄光を追い求めるチャンスは、もしかしたらもう2度と巡ってこないかもしれないから。全長6.8kmのサーキットコースを、8周回した果てには、きっと例年以上に熾烈で壮観なる大集団スプリントが繰り広げられるのだ。

2024年は五輪の関係でニースフィニッシュになるので、長らく続いたこのパリの閉幕も最後ですか……。まあ、また戻ってくるとは思うんですけど、一旦は途切れます。だからこそスプリンターたちは奮闘します。スプリンターにとってこのシャンゼリゼは夢の舞台ですし、ステータスもあるので、絶対に勝っておきたい。

ツール・フランスの厳しい3週間を生き抜いてきた選手だけが、迎えることができるステージです。しかもスプリンターなら、誰でも、このシャンゼリゼで勝ちたいと願ってます。簡単ではないです。十分に列車要員が残っているのか。チームによってはアシストが少なくなっているだろうし、エーススプリンター自身さえ途中で帰ったチームもある。色々なストーリーがあります。だから今ツール最初のスプリントステージとは、まるで状況が違います。

コースとしては凱旋門へ向けて上り、ロータリーを周って、そこから下り基調。ここでは時速70km/hくらいは出ますし、石畳だから跳ねますよ。最終8周目のジャンヌ・ダルク像前からは、ポジションニングが極めて大事です。最初に最終コーナーを抜けたチームが、限りなく勝利に近づく。果たしてどのチームが主導権を握り、前に出ていくのか。そう、最終日は、列車がないとかなり厳しいです。コンコルド広場を抜けて、最後のストレートに入る時点で、5番手くらいにつけてないと、もはや前には出れないですから。観覧車が回ってるあたりからチームにしっかり牽引してもらうことで、チャンスは限りなく大きくなる。そもそも例年のこの勝ちパターンですね。

もちろん、この第21ステージまで、チームと脚を残している選手が一番強いんです。ただ、貪欲に、「このステージを勝ちたい！」っていう選手こそが、やっぱりここで勝つことができる。総合争いは昨日で決着がついているからこそ、「終わった〜」ってほっとしている選手も多い。だから、ただ貪欲に。前へ前へという気持ちでこのステージを戦う選手だけが、パリで勝つことができるんです。

解説：別府史之 / 文：宮本あさか