ツール・ド・フランス2023

黄色い栄光を追い求める旅は、国境の向こう側、スペインのバスク地方で幕を明ける。120年前に誕生したフランス一周が、外国からスタートを切るのは2年連続通算25回目。隣国スペインにとっては1992年、同じくバスク地方のサン・セバスティアン開幕以来、31年ぶり2回目のグランデパールを祝う。

2日前の木曜日に、現代建築の傑作とも称されるグッゲンハイム美術館にてプレゼンテーションを行った全22チーム・176人のプロトンは、アスレティック・ビルバオのホーム、サン・マメス競技場から3週間の熱戦へと走り出す。その後は岩と波で作られた魅惑的なビスケー湾の風景を堪能したり、まさにバスク人の自由の象徴とも言えるゲルニカを駆け抜けたり。つまりコース全体に渡って、バスクの誇りと美しさが惜しげもなく披露される。

しかも、いかにもバスクらしい地形が、選手たちを待ち受ける。レース委員長が「初日コースとしては史上最難関」と断言するように、ビルバオ起点の大きな周回コースは、クラシック要素満載にして起伏もたっぷり。いきなり獲得標高差は3300mにも至る。

中でも等級のつく山岳は全部で5つ。大会最初の山岳ジャージ争奪戦は、スタート直後から素晴らしく加熱するだろう。一方でラスト30kmを切ってから登場する2つの上りこそが、初日ステージの行方を左右する。まずは2級ビベロ坂（登坂距離4.2km・平均勾配7.3％）が、脚のない者たちを後方から切り捨てていく。さらには最終3級ピケ坂（2km、10％）の、なにより後半1km12％超、ラスト500m15.6％……のまさしく「壁」ゾーンが、爆発的なアタックを引き起こすに違いない。

ピケ坂のてっぺんで、ボーナスポイント（上位通過3名に8秒、5秒、2秒のボーナスタイム）をさらい取ったら ※ 残すは9.6km。スピードとテクニックを要するダウンヒルを経て、ビルバオ市内へと帰還すると、ラスト600mは再び軽い上り坂。エチェバリア公園脇に引かれたフィニッシュライン（上位3名に10秒、6秒、4秒のボーナスタイム）を越えるその瞬間まで、初日マイヨ・ジョーヌを巡って、手に汗握る戦いが繰り広げられる。

※第1ステージのボーナスポイントはなしになりました

グランツール初日は選手としては静かに始まってほしいものなんですけど、この第1ステージは、まるでワンデーレースのような動きのあるステージになるんじゃないかな。早くも集団内で少しタイム差が生まれるはずです。

ステージ最終盤に連続して3つの上りが登場する上に、第2カテゴリーの上りは距離が長いし、最後の3級はかなりの急勾配。しかもラストが一気に公園の上まで駆け上がるフィニッシュです。つまり勝ちを争うのは、ジュリアン・アラフィリップ選手に代表されるようなパンチャーのはず。ワウト・ファンアールト選手やマチュー・ファンデルプール選手のような突き抜けた力を持っていなければ、単なる「上れる」スプリンターにはちょっときつい。もしかしたら、タデイ・ポガチャル選手も、今まで通りなら初日からガンガン行っちゃうかもしれません。

起伏が厳しいのはもちろんですが、むしろ狭い道でのポジション取りやフィニッシュへ向けた下りのほうが、選手にとってはストレスになるんじゃないかなと思いますね。初日だから特に落車にも気をつけなければならない。延々と集中が必要なので、油断できないステージになると思います。

とにかくバスクは熱狂的なファンが多い。特に上りは観客で埋め尽くされるはずなんで、コースの道幅はなおさら狭くなっちゃうかもですね。あ、あと「バスクあるある」なんですけど、なぜか沿道でもくもく煙をたかれることが多いです。あの煙の中を突っ切ると、ああ、バスクに帰ってきたなぁと実感します（笑）。

解説：別府史之 / 文：宮本あさか