コースの特徴
3週間前にニースから走り出したプロトンは、19日間かけて、3300km以上の野山を駆け巡ってきた。しかしこの36.2kmが、おそらく最も濃密だ。2020年ツールの総合争いの全てが、この短距離走の果てに決まる。
決戦の種目は個人タイムトライアル。ストップウォッチとの戦いがパリ到着前夜に組み込まれたのは、過去10年で6回。そのうち5回、表彰台の顔ぶれ、もしくは順番が入れ替わっている。2011年はマイヨ・ジョーヌ交代劇さえあった。つまりただでさえ極めて重要なステージである上に、なんと今年はプランシュ・デ・ベルフィーユ登坂が待ち受ける。2012年にツール初登場して以来、選手たちを震え上がらせてきた、いわゆる「激坂」だ!
1時間弱の全力疾走は、3つのパートに分けられる。第1部はティボー・ピノが生まれたリュール村から、9km地点でそのピノが現在暮らす(父上が村長を務める)メリゼ村を通過して、14.5kmの第1回計測地点まで。道は比較的真っ直ぐで、起伏もほとんどない。つまりスピードの出るパートだ。
第2部は30.3kmの第2計測地点プランシェ・レ・ミーヌまでの、緩やかな上りと下り。下りはヘアピンカーブが連続し、街中も通過するため、少々テクニカル。
そしてラスト第3部は、ひたすら登坂力を要する。プランシュ・デ・ベルフィーユの全長5.9kmの山道に入る前に、自転車を変える作戦を取る選手も多いだろう。平均勾配は8.5%。登坂口にいきなり13%の急勾配が待ち受け、中盤には9.5%ゾーンが2kmにも渡って続く。なによりフィニッシュ直前は20%!
一瞬でもよろめいたら、運悪くメカトラが発生したら..再出発は困難な急坂だ。だからこそ最終走者=マイヨ・ジョーヌが山頂のラインを越えるその瞬間まで、ジャージの行方は分からない。
文:宮本あさか
【こぼれ話】決戦のタイムトライアル
選手が1人ずつ道に走り出していく。敵はただストップウォッチの数字だけ。
そんな個人タイムトライアル(以下TT)は、2020年ツール・ド・フランスでは、たった1回しか行われない。しかも距離は36.2kmと、過去20年では、1大会あたりのTT総距離としては最も短い。残る20ステージは全て「マスドスタート」。つまり大会出走者全員が一斉にスタートを切り、人間同士のぶつかり合いで勝負を決める方式だ。
21世紀に入ったばかりの頃は、TTはなんと4回も行われていた。ツールにある種の「定形」が存在した時代である。つまり「プロローグ」と呼ばれる短距離個人TTで大会は走り出し、序盤にチームTT、中盤に個人TTが争われる。そして最終盤(たいていは最終日前夜)に、決戦の個人TT。
回数が多いだけではなく、距離もやたらと長かった。あの頃のチームTTで65km以下なんてあり得なかったし、個人TTは平気で50kmを超えていた。2002年大会はトータル176.5kmもTTを走った。一方でこの5年間に3度行われたチームTTの平均距離は30.4kmで、一番長い個人TTが37.5km。かつては、とにかく、タイムトライアルの重要性が極めて高かったのである。
脱TT化は少しずつ進んでいった。2004年からは3回以上タイムトライアルが行われることはなくなったし、2014年大会の「1回」を皮切りに、以降最大でも2回しかお目にかからなくなった。2012年を最後にプロローグは行われていない。
実は脱プロローグ化の原因を作った、1人の選手がいる。それがファビアン・カンチェッラーラだ。個人TTで4度の世界王者に上り詰め、2016年、2度目の五輪金メダルを手土産に現役を去った稀代のTTスペシャリスト。この彼がツール初日のTTを5回もさらい取り、しかもうち4回は約1週間もマイヨ・ジョーヌを着続けてしまったのだから……主催者が困ってしまうのも当然だ!「1週目から活発なレースを」というのが近年の大会モットーなのに、カンチェがあまりに強すぎるゆえに、1週目がいつも同じ展開になってしまうという皮肉。
それでも大会最終盤のサスペンスとして、TTはいまだに存在感を放つ。 1989年最終日のシャンゼリゼで8秒差の逆転……なんていうドラマチックな幕切れも、TTならでは。「5、4、3、2、1……ローラン・フィニョンがツールを落としました!」というTV実況のカウントダウンと共に、フィニッシュエリアで待っていたグレッグ・レモンが目を丸くする映像は、いまだツール史上最高のシーンとして語り継がれている。
文:宮本あさか
距離 | ポイント | 現地時間 | 日本時間 | ||||
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第1走者 | 最終走者 | 第1走者 | 最終走者 | ||||
0km地点 | スタート地点 | 13:00 | 17:14 | 20:00 | 24:12 | ||
14.45km地点 | 中間タイム計測地点 | 13:19 | 17:33 | 20:19 | 24:33 | ||
30.3km地点 | 中間タイム計測地点 | 13:40 | 17:54 | 20:40 | 24:54 | ||
36.2km地点 | 1級山岳 ゴール地点 |
13:55 | 18:09 | 20:55 | 25:09 |