コースの特徴
ぐるりと迂回したプロトンが、1週間ぶりに、中央山塊へと立ち返る。2020年マイヨ・ジョーヌの行方を大きく左右する、そんな1日になるだろう。なにしろ7つの山岳がステージ全体に均等に散らばり、累計獲得標高は今大会最高の4400mに達する。
多くの文化人が湯治に訪れたという温泉地から、厳しい山巡りの1日は始まる。しかもスタート直後に1級峠が待ち受けるから、スプリンターたちは大急ぎでグルペットを作り上げねばならない。中央山塊ではしばし「1mの平地もない」とか「カス・パット(脚壊し)」との枕詞が用いられるが、その後もまさに細かく厳しいアップダウンが、選手たちの脚に休みなく襲いかかる。
ラスト30kmはほぼ上りっぱなし。なにより最終2峠は、とびきり急坂だ。2級ヌロンヌの3.8kmの山道の、平均勾配は9.1%。山頂ではボーナスポイント(8、5、2秒)も発生するから、取れるものは取っておきたい。山頂を越えた後にほんの一息(4kmの平地と2kmの軽い下り)ついたら、いよいよ最終峠の1級パ・ド・ペイロル(5.4km、8.1%)へ。序盤3kmは勾配5%と少々緩めだから、休火山の山肌に広がる雄大な自然を、堪能している暇も少しはあるかもしれない。しかしそこから勾配は一気に跳ね上がる。続く1kmが11.3%、残る1.4kmが11.9%。ところにより15%ゾーンもあり!
すでに2016年大会5日目に、大多数の選手はこのヌロンヌ→ペイロルの連続登坂を経験済み。4年前は区間終盤の一難関に過ぎなかったが、ここで逃げ集団は小さく絞り込まれ、メイン集団からは、その年のジロ覇者ニバリが振り落とされた。
今回は11回目のツール通過にして、ペイロル……つまりピュイ・マリー山は、史上初めての区間フィニッシュを受け入れる。パリ到着まであと10日。本格的な激戦勃発には最高のタイミングだ。
文:宮本あさか
【こぼれ話】想い出は写真の中だけに
ツール・ド・フランスがこの一帯……つまりフランスの真ん中に突き出る中央山塊を通過するときに、いつも引き合いに出される名前がある。それがピュイ・ド・ドーム。標高1465mの死火山で、山頂には天文観測塔が高くそびえる。なによりてっぺんまで連れて行ってくれる山岳列車のおかげで、年間55万人もの訪問客が素晴らしいパノラマを堪能できる。
ただしツール・ド・フランスにとっては、ピュイ・ド・ドームといえば大会史上屈指の難峠であり、1964年の伝説的な一騎打ちである。
1964年大会と言えば、ファン投票で「史上最も面白かったツール」に選ばれたこともあるほど、熾烈な総合争いが繰り広げられたことで有名だ。そして同年の大会を紹介する際に必ず添えられるのが、第20ステージ、最終日2日前のピュイ・ド・ドームの写真。そう、マイヨ・ジョーヌのジャック・アンクティルと、総合2位レイモン・プリドールとが、文字通り肩と肩とをぶつけ合いながら山道を上っていくあのシーンだ!
映像には、両者が間隔を明けて並走する場面と、ラスト900mでプリドールが独走を始めた後のものしか、残されていない。ただ連続写真は存在するため、幸いにも、まるでパラパラ漫画のように「肉弾戦」を振り返ることができる。
こんな歴史的激戦の舞台に、しかも山頂までの最終5kmが平均勾配13%という桁外れの激坂に、1988年を最後に、ツールは足を踏み入れていない。
理由は2つ。1つ目はピュイ・ド・ドームには山頂まで続く道が1本しかなく、つまり一切の緊急事態に対応できないこと。そして2つ目は、この地が2008年に「グラン・シット・ド・フランス(フランスの偉大なる景勝地)」に登録されたこと。環境保護が最優先となり、2012年には本格的な山岳列車が敷かれ、山頂への自動車侵入は完全に禁じられた。しかも2018年にはこの一帯の火山帯は、ユネスコの世界遺産にさえ登録された。
ツール・ド・フランス主催者側は、「かの地でのステージ開催を諦めない」とアピールを続ける。昨季には地元の有志が「ツールのピュイ・ド・ドーム帰還支援」団体を立ち上げた。しかし自治体側は「アンチツールでは決してないけれど……受け入れは単純に不可能なんだよ」と繰り返す。
昨11月にプリドールが天に召され、ピュイ・ド・ドームの想い出が、またひとつこの世から消えた。ただ写真の中だけで、伝説は永遠に語り継がれる。
文:宮本あさか
距離 | ポイント | 現地時間 | 日本時間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
39KM/H | 41KM/H | 43KM/H | 39KM/H | 41KM/H | 43KM/H | ||
0km地点 | スタート地点 | 12:05 | 12:05 | 12:05 | 19:05 | 19:05 | 19:05 |
36km地点 | 1級山岳 | 13:07 | 13:05 | 13:02 | 20:07 | 20:05 | 20:02 |
63.5km地点 | 3級山岳 | 13:53 | 13:49 | 13:43 | 20:53 | 20:49 | 20:43 |
85.5km地点 | 2級山岳 | 14:31 | 14:24 | 14:16 | 21:31 | 21:24 | 21:16 |
111km地点 | 中間スプリント | 15:07 | 14:58 | 14:49 | 22:07 | 21:58 | 21:49 |
130.5km地点 | 3級山岳 | 15:40 | 15:29 | 15:19 | 22:40 | 22:29 | 22:19 |
157km地点 | 3級山岳 | 16:18 | 16:06 | 15:53 | 23:18 | 23:06 | 22:53 |
180.5km地点 | 2級山岳 ボーナスタイム |
16:57 | 16:43 | 16:28 | 23:57 | 23:43 | 23:28 |
191.5km地点 | ゴール地点 1級山岳 |
17:18 | 17:02 | 16:47 | 24:18 | 24:02 | 23:47 |