コースの特徴
2020年ツール最長ステージ。そもそも今大会で唯一、200kmを超えた理由は、どうしても立ち寄るべき2つの場所があったから。
1つ目が103km地点のサン・レオナール・ド・ノブラ。「永遠の2番手」レイモン・プリドールが、25歳で結婚して以来、生涯を過ごした村だ。そして2つ目がフィニッシュ地のサラン。元フランス大統領ジャック・シラクはこの村のビティー城の所有者であり、長年に渡り同地方の議員も務めてきた。奇遇にもこの2人は、昨年秋、その長い人生の幕を閉じた。2020年のコースが描かれた後に……!
想い出にゆっくり浸っていられるのは前半まで。「ププ」の村を通過する前後から、道は徐々に起伏を増していく。しかも4級×2→3級→2級と難度もクレシェンド。なにしろここはリムーザン。短い急坂が点在する土地である。2012年に我らが新城幸也がこの地方名を冠したレースで総合優勝を飾っているから、日本の自転車ファンには馴染みのある地名かもしれない。
残り25.5km地点の2級シュク・オ・メイ(3.8km、7.7%、ボーナスポイント)には、12%の急勾配ゾーンも待ち構える。その後もフィニッシュまで道は決して平坦にはならない。ちなみに19年前、人口275人という今大会で最も小さな村サランに初めてツール一行が到着した時には、25分以上もの大差がつく大逃げが決まっている。
文:宮本あさか
【こぼれ話】逃げの芸術家
スプリンターでも、クライマーでも、パンチャーでも、タイムトライアリストでもない選手にとって、勝つための方法はひとつ。ただスタート直後から逃げること。フランスではこんな選手のことを「バルドゥール(Baroudeur)」と呼ぶ。言葉の本来の意味は「冒険人生を送る旅人」であり、「戦いに自ら飛び込む人」。そう、逃げる、と言う行為は、サイクルロードレースにおいては積極果敢な攻撃なのだ。
もちろん逃げにも色々種類はある。ツール・ド・フランスの初日数日間に多く見られるのは、山岳ジャージ着用目的のポイント収集タイプ。平坦ステージで時に見られるのは、逃げ切り不可能と悟った上でのジャージアピール。起伏ステージを利用したマイヨ・ヴェール用ポイント収集逃げは、ジャージ2回獲得のトール・フースホフトが発明し、7回獲得のペーター・サガンが流行らせた。
そして大会終盤の難関山岳ステージでの、前待ち。ある程度逃げたところで、突然減速して(ときにはペダルを漕ぎ止めて)、後方からチームリーダーが合流してくるのを待つ。この極めて高度な戦術は、上手くさえ行けば、総合をひっくり返すほどの破壊力がある。2012年ブエルタでアルベルト・コンタドールが、2016年ジロではヴィンチェンツォ・ニバリが、前待ちを成功させ逆転優勝を収めている。
大逃げで、自らの名声を築き上げた選手もいる。近年ではトマ・ヴォクレールが代表格だろう。2004年大会序盤の大逃げで、マイヨ・ジョーヌを10日間着用し、2011年大会序盤の大逃げで、さらに10日間も黄色の日々を堪能した。2012年には逃げを繰り返し、山岳ジャージさえ獲得している。このヴォクレールに言わせると、逃げはフィジカルの問題ではない。ノウハウだ。
逃げはゲーム。こう語るのは現役最高の逃げ男、トーマス・デヘントである。大逃げでグランツール区間4勝をもぎ取り、大逃げで標高2758mのステルヴィオを制し、大逃げでジロ・デ・イタリア総合3位に滑り込んだ。2017年ツールでは3週間で1000km以上も逃げた。2018年は年間で3000km、2019年は1月から6月までに1400km逃げている。
なんでも後方から追いかけてくる集団に必死で抵抗する時に、アドレナリンがどっと出るんだとか。ただしデヘントは決して快感を求めて逃げているわけではない。逃げは荒々しく、ただ辛く、ひたすら勝つためだけに行うものだとも語る。むやみやたらに飛び出すのではない。地形と戦況とを冷静に判断して、行動に移す。
面白いことに、数年前のデヘントは「自分が逃げようと思ってる日に、アレッサンドロ・デマルキが逃げ準備していると、『ああ、これは間違いない!』って安心するよ」と語っていた。2019年大会の第8ステージでは、この2人は一緒に逃げて……そしてデヘントが勝った!
文:宮本あさか
距離 | ポイント | 現地時間 | 日本時間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
40KM/H | 42KM/H | 44KM/H | 40KM/H | 42KM/H | 44KM/H | ||
0km地点 | スタート地点 | 12:00 | 12:00 | 12:00 | 19:00 | 19:00 | 19:00 |
51km地点 | 中間スプリント | 13:16 | 13:12 | 13:09 | 20:16 | 20:12 | 20:09 |
104.5km地点 | 4級山岳 | 14:36 | 14:29 | 14:22 | 21:36 | 21:29 | 21:22 |
121.5km地点 | 4級山岳 | 15:02 | 14:53 | 14:45 | 22:02 | 21:53 | 21:45 |
177.5km地点 | 3級山岳 | 16:26 | 16:13 | 16:02 | 23:26 | 23:13 | 23:02 |
192.5km地点 | 2級山岳 ボーナスタイム |
16:48 | 16:34 | 16:22 | 23:48 | 23:34 | 23:22 |
218km地点 | ゴール地点 | 17:27 | 17:11 | 16:57 | 25:27 | 24:11 | 23:57 |