コースの特徴
個人タイムトライアルと最終ステージを除けば、2020年ツールで最も短いステージ。140kmという短距離に、しかし大きな峠が3つそびえ立つ。いよいよ3つ目の山地、ピレネーでの戦いに突入だ。
ツール初登場、人口5000人の小さな町から、プロトンは勇んで走り出す。山の突入前にマイヨ・ヴェール候補たちが中間ポイントを争ったら、あとはクライマーたちの時間。まずは1級マンテ(登坂距離6.9km、平均勾配8.1%)の急な上りと、さらに勾配のきつい下り(−9.1%)で、集団はふるいにかけられる。
軽く谷間で体制を立て直したら、超級ポール・ド・バレス(11.7km、7.7%)と1級ペイルスルド(9.7km、7.8%、ボーナスポイント配置)へと連続で挑みかかる。前者は中腹に10%超が計2kmあり。後者は突出した激勾配こそないものの、7.5〜8%の急勾配が延々7kmほど続く。大部分の選手は、おそらく両峠の隅々まで知り尽くしているに違いない。特にペイルスルドは、ピレネーに初めてツールが足を踏み入れた1910年以来の「伝統峠」で、今回が68回目の通過。しかも過去10年で7回使用され、うち5回は同じ方向から上っている。
しかしペイルスルド山頂からの11.5kmの「ダウンヒルフィニッシュ」は、2016年フルームや2012年ヴォクレールが猛烈に下って勝利をさらった方角ではない。反対側だ。
山頂からしばらくはこれといったカーブはないから、とてつもないスピードが出るだろう。だからこそ下り終盤に突然現れるヘアピンカーブ群には、極度に注意せねばならない。たどり着く先は人口300人の小さな小さな村。13年ぶり4度目のステージフィニッシュを見届ける。
文:宮本あさか
【こぼれ話】ダウンヒル
2020年ツール・ド・フランスのピレネー山脈越えは、2日とも下りフィニッシュが用意された。開催位委員会は戦いをかき回し、サスペンスをより持続させるために、あえてこの形態を選んだと言われている。
賛否両論あるはずだ。「下りで勝敗が決まるレースなんて、ファンたちは見たくないと思うよ。下りフィニッシュなんて認められるべきではない」。こうはっきりと言い放ったのは、2009年から3年連続総合2位に入ったアンディ・シュレクだった(2010年は繰り上がり優勝)。素晴らしいクライマー能力を持っていたけれど、たしかにダウンヒラーとしては、いつだってふらふらと危なっかしかった。
でも実際のところ、下りフィニッシュは、ファンにはむしろ人気が高い。ハラハラドキドキ手に汗握るせいで、いわゆる「つり橋効果」をもたらすのだろうか?なにより下りスペシャリストたちの、あの伝家の宝刀を抜く感じ……がたまらない。
かつて下りと言えば一直線に急降下していくパオロ・サヴォルデッリであり、ダブルサンチェス(山頂直前からの奇襲派サムエルと完璧なるポジション派ルイスレオン)であった。2013年世界選手権U23部門でマテイ・モホリッチが、今まで誰も見たことのないようなダウンヒルテクニックを披露すると、新しい流派が誕生する。
これぞトップチューブに腰を下ろし、ペダルをくるくる回すという奇妙な離れ業。2016年ツールの第8ステージでは、この不思議な技を習得したクリス・フルームが、下り奇襲をまんまと成功させる。このフルームに個人レッスンをつけたのが、ミハウ・クフィアトコフスキーだという。2014年、雨の世界選手権を、下りアタックで一発で勝ち取った指折りの下りテクニシャンだ。
マウンテンバイク出身のペーター・サガンや、シクロクロス世界王者×3のワウト・ファンアールトも、さすがのハンドルさばきを披露する。またスキージャンプ出身のプリモシュ・ログリッチは、下半身が安定しているのだろうか。2018年第19ステージで、下っている最中にどんどんどんどんライバルたちを引き離してくシーンは、何度見返しても小気味良い。痩身のロマン・バルデは、度胸満点。2016年大会では、大雨の中で下りアタックを決めている。
一方のティボー・ピノは、かつて「下りが苦手」の烙印を押されていた。大昔の落車の影響で、スピードを出すのが怖くなってしまったせいだった。幸いにもメンタルトレーニングで克服したことになってはいるけれど、ふむ、どうやらヴィンチェンツォ・ニバリとは人種が異なるようだ。だってニバリが下りで無茶して転ぶシーンを、我々はいったい何度目撃しただろうか。しかも、それにも関わらず、すぐに立ち上がると、よりいっそうクレイジーなダウンヒルを再開してしまうのが……ニバリなのだ。
文:宮本あさか
距離 | ポイント | 現地時間 | 日本時間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
36KM/H | 38KM/H | 40KM/H | 36KM/H | 38KM/H | 40KM/H | ||
0km地点 | スタート地点 | 13:35 | 13:35 | 13:35 | 20:35 | 20:35 | 20:35 |
42.5km地点 | 中間スプリント | 14:38 | 14:35 | 14:32 | 21:38 | 21:35 | 21:32 |
59.5km地点 | 1級山岳 | 15:11 | 15:06 | 15:02 | 22:11 | 22:06 | 22:02 |
104.5km地点 | 超級山岳 | 16:32 | 16:21 | 16:14 | 23:32 | 23:21 | 23:14 |
129.5km地点 | ボーナスタイム 1級山岳 |
17:15 | 17:02 | 16:52 | 24:15 | 24:02 | 23:52 |
141km地点 | ゴール地点 | 17:28 | 17:14 | 17:04 | 24:28 | 24:14 | 24:04 |