コースの特徴
5つの山地巡りが待ち受ける2020年ツール。この日の最終盤に、早くも2つ目の山地、中央山塊へと足を踏み入れる。表向きは山頂フィニッシュではない。しかし実質的には、ラスト30kmほぼ上りっぱなしのステージだ。
実は序盤140kmだけなら、地形的には「平坦ステージ」。スタートから3時間ほどは、いわゆる平地を走る。ただしフランス本土で最も「秘境」度の高いアルデッシュ県の細道を、甘く見てはならない。来たるべき山場を睨んで、総合系チームが緊迫した場所取り合戦を繰り広げるはずだ。
146km地点の3級峠で足慣らしを済ませたら、163kmの3級峠ムレゼスからいよいよ勝負本番。あとは標高1560m地点のフィニッシュまで、息つく暇などない。なにしろ3級山頂を越えても、道を下らずに、そのまま次の1級リュゼット峠へと突入するのだ。登坂距離11.7km、平均勾配7.3%の山道を、ツールのプロトンは初めて上る。中盤に約9%のゾーンが2km続き、直後に11%が2km続く、かなりの激坂だ。山頂にはボーナスポイント(8秒、5秒、2秒)も配置されている。
ここで6日目の山岳ポイントは打ち止め。しかし山頂を越えても、上りは終わらない。ほんの軽く下った直後に、さらにフィニッシュまで続く8.3km、4%の山道が待っている!
もしも運が良ければ、初登場エグアル山のてっぺんでは、見事なパノラマが堪能できるだろう。アルプスからピレネーまで、さらには地中海まで見渡せる。ただし気象観測所が居を構えるこの山は……天候の悪さで知られている。年間170日は雨、240日は霧、265日は強風!時にモン・ヴァントゥ顔負けの暴風が吹き荒れるこの地では、つまり敵は、ライバルや勾配だけではない。
文:宮本あさか
【こぼれ話】個人戦?チーム戦?
はるか昔から常に議論の的となってきた。果たして自転車ロードレースとは団体競技だろうか。それとも個人競技だろうか。
プロ選手たちは、一人残らずチームと年間契約を結び、チームの一員としてレースに出場する。たとえ世界選手権や五輪でも、強い一個人に、出場権利がもたらされるわけではない(大陸別チャンピオン等の例外を除く)。あくまでも国に対して「出場枠」が配分され、その枠の数によって、代表チームが組み上げられる。
一方で、結果欄に並ぶのは、選手の個人名。ツール・ド・フランス総合勝者の証マイヨ・ジョーヌを受け取るのだって、たった1人だけだ。3週間同じチームで走ってきたメンバーは、ただ「総合覇者のチームメート」という名誉ある呼称がもらえるだけ。後世まで数字として残る記録など、一切与えられない。
ちなみにツールの国フランスでは、自転車競技は「チーム単位で行われる個人競技」と表現されることがある。また一般的な団体競技(sport collectif)ではなく、むしろ「チーム競技」(sport d’equipes)と呼ばれる。
そう、自転車レースにおいて、チームは大切だ。チームメートがいるからこそ、小さな個人でも、大きな勝利をつかみとることができる。
例えば平坦ステージの大集団スプリントでは、複数の選手が列車のように縦一列に連なり、フィニッシュラインぎりぎりで前方に1人を発射させる。風が吹き荒れる日には、仲間たちが風よけを務めてくれるおかげで、体力消耗を最小限に抑えられる。チームメートが自らの個人成績を犠牲にしてまで、集団前方で高速巡航したり、後方へ補給食や雨具を取りに行ったりしてくれるからこそ、「チームリーダー」は自分の勝負に集中できる。
それぞれのチームは、地形や大会規模に合わせて、リーダーを指名する。ステージ毎に異なる場合もあるし、大会を通して同じリーダーで戦い抜く場合もある。ときには特にリーダーなし!なんていう時もあるけれど、かといって好き勝手にやるわけでもない。レースの流れでチーム内の1人が好位置につけたら、すぐに残り全員は、急造リーダーのために力を尽くす。
1人はみんなのために、みんなは1人のために。2020年、そんな前提を根源から揺るがすような、大胆な取り組みを打ち出したチームもある。それがトリプルエース制。しかもマイヨ・ジョーヌ大本命を擁する2強、イネオスとユンボ・ヴィスマが、揃って3人のエースをツール前哨戦に引き連れてきた!
話題持ち切りの3×3は、相次ぐ負傷や不調のせいで、残念ながら未完成に終わった。もしもツール本番でも実現していれば、チーム内の人間関係や、各リーダーの仕事哲学が、はっきりと見えてきたはずだった。自転車ロードレースが「チーム単位で行われる個人競技」なのか、それとも「チーム競技」なのかも、ひとつの答えが導き出されていたかもしれない。
文:宮本あさか
距離 | ポイント | 現地時間 | 日本時間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
38KM/H | 40KM/H | 42KM/H | 38KM/H | 40KM/H | 42KM/H | ||
0km地点 | スタート地点 | 12:10 | 12:10 | 12:10 | 19:10 | 19:10 | 19:10 |
125.5km地点 | 中間スプリント | 15:09 | 15:01 | 14:54 | 22:09 | 22:01 | 21:54 |
146km地点 | 3級山岳 | 15:41 | 15:31 | 15:22 | 22:41 | 22:31 | 22:22 |
163km地点 | 3級山岳 | 16:12 | 16:01 | 15:50 | 23:12 | 23:01 | 22:50 |
177.5km地点 | ボーナスタイム 1級山岳 |
16:50 | 16:36 | 16:23 | 23:50 | 23:36 | 23:23 |
191km地点 | ゴール地点 | 17:14 | 17:00 | 16:45 | 24:14 | 24:00 | 23:45 |