ツール・ド・フランス2020

4日目にして早くも、大会最初の山頂フィニッシュが争われる。たしかに2015年は大会3日目でユイの「激坂」が、2011年大会は初日からいきなり4級峠が、フィニッシュの舞台に選ばれたいる。しかし「1級」フィニッシュがこれほど早い段階で組み込まれたのは、21世紀では初めての大事件だ。

前日のフィニッシュ地をスタートすると、まずはゆっくりと、しかし確実に標高を上げていく。約68kmの上り基調を経て最初の3級山岳を終えたら、そこからは細かいアップダウンとくねくね道の繰り返し。4級→3級→3級と脚を慣らしながら、かつては暴れ川として恐れられたドラック川（語源はラテン語のドラゴン）のほとりをつかず離れず、最後の難関へと接近していく。

オルシエール・メルレットの小さなスキー場へと誘うつづら折りの山道は、残り7.1kmから突入する。1989年以来、この南アルプスの難関に、プロトンは脚を踏み入れていない。つまりあらるゆ選手にとって、初めての難関となる。平均勾配は6.7％。登坂口1kmこそ比較的緩めながら、その後は7〜8％の勾配が延々と続く。

31年ぶりにツールに復活したこの山の名はなにより、1971年初登場時にルイス・オカニャがあのメルクスから黄色いジャージを奪い取った地として、自転車界にその名を轟かせている。山腹に小さな湖が点在するミステリアスなこの山が……2020年もまた、総合争いに大きな役割を果たすかもしれない。

文：宮本あさか

毎年10月、パリの国際会議場パレ・デ・コングレにて、翌夏のツール・ド・フランスのコースが発表される。全貌が徐々に明らかになっていく過程で、出席者の中から、思わずざわめきが上がる。そんな時、たいていは、ステージ上の大スクリーンに山頂フィニッシュステージの断面図が映し出されている。

ツール・ド・フランスにおいて、やはり最大の見せ場は山頂フィニッシュなのだ。だからこそコースリストが出た瞬間に、多くのファンは山頂フィニッシュの数を確認するし、他のグランツールとその数を比較しては、勝手に興奮したり失望したりする。

2020年大ツールは、公式データによれば4つ。ただ実質的な上りフィニッシュがあと2つに、最後の個人タイムトライアルも最後は上りっぱなし。つまり7つと考えても良いだろう。奇遇にも今年はジロもブエルタも山頂フィニッシュは7つずつなのだが、ツールとしてはかなり多い印象なのに、ブエルタとしてはちょっと少なめな気がしてしまうのが可笑しい。

偉大なる山の王として、人々の記憶に永遠に残りたいなら、やはり山の頂で輝かねばならない。2004年に早逝したマルコ・パンターニは、今でも稀代のクライマーとして崇められている。なにしろツール区間8勝全てが、山の上で勝ち取ったもの。これはエディ・メルクス山頂10勝、ジーノ・バルタリ山頂9勝に次ぐ、史上3番目の記録だ。さらにはモン・ヴァントゥとラルプ・デュエズ、つまりツールで最も有名な2つの山頂フィニッシュを両方制した史上唯一の存在でもある。

フランス人をとてつもなく熱狂させ、「ヴィランクマニア」なる現象まで生み出したリシャール・ヴィランクもまた、7勝中6勝が山頂フィニッシュ。しかも4勝は独走で、ひときわ華やかな勝利だった。

過去4度マイヨ・ジョーヌを持ち帰ったクリス・フルームは、「大会最初の難関山頂フィニッシュ」にめっぽう強かった。2013年は第8ステージでエクス・トロワドメーヌを、2015年は第10ステージでピエール・サンマルタンを制して、早々とライバルたちの息の根を止めた。また総合2位に終わった2012年でも、第7ステージでプランシュ・デ・ベルフィーユを勝っている。同じ場所での2017年第5ステージは3位と勝利は逃したが、さすが、狙い通りマイヨ・ジョーヌはきっちり手に入れている。

文：宮本あさか