ツール・ド・フランス2024

泣いても笑っても、今大会最後の「直接バトル」の機会がやってきた。第111回ツールの閉幕24時間前に組み込まれた、本格派難関山岳ステージ。わずか132.8kmの短距離コース上に、4つの難峠が、まるでのこぎりの歯のように並んでいる。しかし今ステージが終わっても、パリで大団円を迎える例年とは違って、正確な総合順位はいまだ確定しない。翌日にはストップウォッチとの孤独な勝負を控えている。

スタートは海の高さから。ニースのランピア港から走り出す黄色いプロトンは、すぐさま後背地のアルプスへと切り込んでいく。なんと63年ぶりのツール登場だという2級山岳ブロスで、早くも戦いが勃発するかもしれない。フォトジェニックなヘアピンカーブで知られ、なにより勾配は上がったり下がったりと、大胆なアタック向きの山道だ。

パリ〜ニースでもおなじみの勝負地

続く3峠は、近年のパリ〜ニースでもおなじみの勝負地。2022年ログリッチと2019年ダニエル・マルティネスが栄光をつかんだ1級テュリニ（登坂距離20.7km、平均勾配5.7％）に、2020年にキンタナが勝ち取った1級コルミアーニ（7.5km、7.1％）。そして最終峠の1級クイヨール（15.7km、7.1％）は、2023年大会でポガチャルの手に落ちた。いずれ劣らぬ山頂フィニッシュにふさわしい山岳が、つまり3つ連続で次々と襲い掛かるのだ！

獲得標高は4600m。シャンゼリゼには乗り込めない上に、第16ステージを最後にただ山越えの苦痛だけを強いられているスプリンターたちに、開催委員会はちょっとした配慮も忘れない。このクレイジーな山岳ステージに限って、制限タイムは、通常よりも3％プラスされる。おかげで最後くらいは、足切りの心配をせずに、3週間の余韻を噛みしめながら、後方でのんびりと完走することができるだろう。

僕もエタップ・デュ・ツールでこのコースを走るんですけど、実は、スタートとフィニッシュは逆だと勘違いしてたという……。山からスタートしてニースに到着するなんて最高だよなぁって思ってたら、走行距離132kmで獲得標高4600mってなにそれ？？？って感じです。

ひたすら上りと下りだけ。そして距離がとにかく短い。だからパリ〜ニースの最終日と同じような感覚で、ドカーン！と爆発的にレースが進んでいくんじゃないかな。タイム差がそれほど開いていないのであれば、最終日のタイムトライアルにすべてを賭けてもいいけど、もしも大逆転を狙うとしたらもうこのステージしかない。タイム差4分、5分の選手がどんどんと飛び出して行っちゃったら、他の選手たちも黙ってはいないだろうし、そうするとおそらく総合表彰台の選手たちにも「追わなければならない」という心理が働いてしまう。翌日TTだから足を温存しておけばいいや、なんて簡単に考えることはできなくなってしまいます。

幸いにもアシストたちは、次の日はTTなので、全力を出し尽くすことが可能です。目いっぱい働けるだけ働いて、あとは翌日どうなってしまっても、チームやリーダーにとっては万々歳なわけですから。

本当に強い選手だけが勝つ、本来はそれが理想形

大会最後のハードな戦いになりそうです。ただ、ここでマイヨ・ジョーヌが移動するかって言われたら、そういうわけでもないと思う。蓋を開けてみれば、結局は総合ワンツースリーがトップフィニッシュとか、総合上位5人だけの争いとか、そういう結末になるのかもしれない。ジロやブエルタのようなサプライズたっぷりのスペクタクルではなく、ツールは王道を求めているような気がします。本当に強い選手だけが勝つ。本来はそれが理想形なんですよ。

解説：別府史之／文：宮本あさか