コースの特徴
アルプスの中継地としておなじみのギャップから走り出し、東へとひたすら向かういわゆる「移動ステージ」。スプリンター向きと呼ばれてはいるけれど……この地方独特の強風+軽い上りフィニッシュが、展開をひっくり返してしまう可能性は大いにある。
前夜本格的に踏み込んだばかりのアルプスをあっさり抜け出して、プロトンは次なる山地=中央山塊へと急ぐ。スタート直後こそほんの少しの上り基調ながら、その後はほぼ下り気味。自ずとスピードは上がるはずだ。
注意すべきは「ミストラル」。なにしろステージ半ばまで、プロトンの進行方向手前左手には、延々とモン・ヴァントゥの禿げ上がった神々しい姿が拝める。つまり風が強い地方であるということ。果たして選手たちの背中を押す追い風か、それとも嫌な横風か。いずれにせよ40km地点、65km地点の軽いコース変更と……なにより80km地点と100km地点の「直角」カーブで、風向きは大きく変わる。もしも強風が吹き荒れていれば、いくつかのチームが必ずや分断を試みるはずだ。
後半に待ち構える2つの4級峠は、風さえ吹いていなければ、スプリンターたちにとって大した難関ではない。たとえ2つ目の山頂からフィニッシュまで、わずか16kmしか離れていないとしても。ただしラスト数キロは「フォー・プラ・モンタン」、日本語で言えば「平坦とは名ばかりの上り基調」。いずれにせよ強力な脚を持つスプリンターでなければ、史上2度目のプリヴァス区間を勝ち取ることなどできないのだ。
文:宮本あさか
【こぼれ話】強風警報
どんなに平坦な道でも、風向きひとつで、戦いは地獄に変わる。風を制した者が、自転車を制す。
自転車ロードレースの選手たちが、プロトンと呼ばれる大きな集団で走る理由とは、風による負担を最小限に抑えるためである。最前列で走る選手はもろに風を食らうけれど、おかげで後方の選手は、勝負の時まで体力をしっかり温存することができる。
しかも全ての選手が密着して走ることで、スリップストリームが発生する。気圧が下がり、前方へと引き寄せる空気の流れが生まれ、後方は余計な力を使わずとも前に進むこともできるのだ。なんとプロトン内にうっかり飛び込んでしまった虫が、時速40kmで走る選手たちと一緒に延々旅をすることさえあるという。
逃げ選手たちが先頭交代を重要視するのも、すべては風の影響を均等に振り分けるため。タイムトライアルスペシャリストたちは、最適なポジションを追い求め風洞の中を走る。また各マテリアルメーカーは、エアロダイナミクスの研究開発に余念がない。フレームやヘルメットはもちろん、近年はジャージ素材や個人タイムトライアル用ボトルさえも、風の抵抗を最小限に抑えるタイプの製品が生み出されている。
向かい風は辛いし、強い追い風はスピードが出すぎて危険な時もあるけれど、自転車にとって最も厄介なのはやはり横風だ。特に斜め前から強い風が吹いてきたら……もう大変!
突如として集団前方でスピードが上がり、一気にプロトンはずたずたに分解される。風向きに合わせた道幅いっぱいの斜め隊列が出来上がり、そこに入りこむ体力のない者たちは、道路の端で一列棒状になる。つまり数珠つなぎのように長く長く連なり、一瞬でも前との距離を開けてしまったが最後、あとはずるずると風の中をむなしく千切れていくだけ。これぞ自転車用語で言うところの「扇子を広げ、縁に追いやる」だ。
こんな作戦が得意なのは、ドゥクーニンク・クイックステップの横風職人たち。そもそも風の強い地域に差し掛かる日には、コースの進行方向と曲がり角、風向や風速の関係を踏まえて、監督が最適な加速ポイントを割り出すのだという。しかも2013年第13ステージは、なんと朝のスタート地でベルキン(現ユンボ)と密談し、同時に作戦を決行した。こちらはマーク・カヴェンディッシュ区間勝利を手に入れ、あちらはバウケ・モレマの総合順位を3位→2位に上げることに成功。まさにWin-Winだった。
昨大会では第10ステージで、またしてもドゥクーニンクは非情な横風作戦に踏み切った。前日まで総合3位と絶好調で走ってきたティボー・ピノが、罠にはまった。被害は甚大だった。最終35㎞で、なんと1分40秒ものタイムを失った。
文:宮本あさか
距離 | ポイント | 現地時間 | 日本時間 | ||||
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42KM/H | 44KM/H | 46KM/H | 42KM/H | 44KM/H | 46KM/H | ||
0km地点 | スタート地点 | 13:20 | 13:20 | 13:20 | 20:20 | 20:20 | 20:20 |
47.5km地点 | 中間スプリント | 14:28 | 14:25 | 14:22 | 21:28 | 21:25 | 21:22 |
130km地点 | 4級山岳 | 16:25 | 16:17 | 16:09 | 23:25 | 23:17 | 23:09 |
167km地点 | 4級山岳 | 17:18 | 17:07 | 16:58 | 24:18 | 24:07 | 23:58 |
183km地点 | ゴール地点 | 17:41 | 17:29 | 17:18 | 24:41 | 24:29 | 24:18 |