ツール・ド・フランスを知るための100の入り口

ツール・ド・フランスを知るための100の入り口:チームコック



レース中の食事は重要だ。昨今、専用コックを帯同させるケースが増えているが、中でもスイス人のウィリーは、先がけ的存在。モトローラやUSポスタルサービスチームの料理長を始め、アスタナ、サーヴェロ、ガーミンなど、あちこちのチームを渡り歩いてきた名物シェフだ。

なにより言葉が達者で、どこのチームでもつぶしが効くのが強み。さらに、接客にもたけている。それもそのハズ、元スイス航空のフライトアテンダントなのだ。

[写真] チームコックのウィリー(2008年)

この世界に入ったキッカケは、ひょうたんから駒だった。機内で、「一番厳しいスポーツは、アメフトなんかより、自転車競技だよ!」、と乗客に向かって話すのを、偶然居合わせた元セブンイレブンチーム監督J・オシュヴィッツが聞いていた。ツールの期間中限定でシェフになることを勧められ、セブンイレブンの後身となるモトローラに帯同してみた。

当初は有給を取得してパートタイマーとしての参画だったが、20年間働いた職場を退職し、今ではチームお抱え料理人の道を歩んでいる。携帯しているナイフ一式は、ほとんどが自国スイス製。でも、中には日本の包丁もまじっている。

大物選手たちからじかに勧誘されたこともある。「ヴィノクロフは実業家として手広くやっていて、ニースに素晴らしいレストランを所有してるんだ。そこの専属シェフにならないか?と誘われたことがある。でも、自由が欲しいから、と断ったよ。カンチェッラーラからは北京五輪の料理人として声がかかった。でもこっちも断った。場所柄、自分が望む食材がなかったからね。」

腕前と人懐こさで、選手たちから人望が厚く、ジョージ・ヒンカピーも、彼の料理の大ファンだった。2003年ツールの最中には、こんな秘話を紹介してくれた。

「いまやウィリーを知らない者はいないぐらい有名人だよ。ただし、得意料理はトップシークレットだけどね。実は昨日、『レース中、カレーライスの食べ過ぎは禁物だぞ』、とランスからクギを刺されたんだけど、無視してウィリーのカレーを腹いっぱい食べたんだ。おかげで今日の調子は最高さ!」

※本企画は2013年6月に実施されたものです。現在と情報が異なる場合がございますが、予めご了承ください。

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