ツール・ド・フランスを知るための100の入り口
ツール・ド・フランスを知るための100の入り口:スポンサーのお得感
毎月発行のフランスのロードレース雑誌『ヴェロ』は、かつてこんな試算を出した。
-1978年、プロチームの選手一人当たりを1年間雇用する場合、平均コストは192,000フラン。
-同年、国営放送におけるテレビCMの単価は、平日20時の場合、30秒当たり110,000フラン。
単純に考えると、1年間の一人当たり人件費は、1分のテレビCMよりお安い、ということになる。
さらに、選手たちはジャージにスポンサーロゴを背負って走るので、走行自体が宣伝になる。中には年間ひとりで200日近いレースをこなす選手もいるのである。
レースの中でもとりわけツール・ド・フランスは、最大の広告空間だ。なにより視聴者、沿道のファンも含め、人の数が違う。メディア数が違う。放映は世界規模だ。
となれば、次の現象も大いに納得がいく。
-2008年、チームCSCのサブスポンサーとしてサクソバンクがジョインしたのは、6月だった。
-2012年、チームガーミンのサブスポンサーにシャープがついたのも、やはり6月。
駆け込みで、7月開催のツールに間に合わせ、ジャージにロゴをのせることを狙ったのだ。反対に、ツール終了後のスポンサー入りは、費用対効果がガクっと落ちることになる。
レース途中に暑さからジャージをはだける選手も、報道を含め多くの視線がそそがれるステージ優勝のゴールシーンでは、チャックをしめ直してスポンサーのアピール効果を高める。(2012年大会)
年間予算10億円以下のUCIプロチームもあるが、有力選手の争奪戦や、スタッフの専門細分化、機材の革新化などもあり、チーム予算規模は増大傾向にある。年間総予算額25億円強と言われるチームスカイは、2012年にブラッドレー・ウィギンスがツール優勝、ロンドンオリンピック・タイムトライアル種目で金メダルを獲得。投資額に報いるリザルトを出した。
とはいえ、むろん、サクセスストーリーばかりではない。ツールで目いっぱい広告効果を発揮したにも関わらず、思わぬ誤算が生じることも、やはりある。好例が、2013年いっぱいでスポンサーを降りることになったヴァカンソレイユ。2011年、負傷した選手がテレビで何度も大写しになりジャージのロゴは世界中を駆け巡った。
おかげで旅行業を営むスポンサーの知名度は急上昇。しかし、ターゲットのひとつだったドイツでの市場拡大には至らなかった。過去の英雄のスキャンダル以来、同国ではジャーナリストの間でロードレースへの拒否感が漂っているせいだ。
このように、認知度が広がっても市場の好転に直結するとは限らない。さらに所属する選手の成績低迷やスキャンダルという、予測不能の要素もつきまとう。特定のチームに特化することを諦め、ツールなどのレーススポンサーとなる道を選ぶ企業もある。例えば、フェスティナのように。
※本企画は2013年6月に実施されたものです。現在と情報が異なる場合がございますが、予めご了承ください。