ツール・ド・フランスを知るための100の入り口
ツール・ド・フランスを知るための100の入り口:スタッフもファンも体力勝負
ロードレースはチーム戦、とよく言われるが、それはレース中だけの話ではない。選手を支えるスタッフがいて、初めて闘いが成立する。3週間もの長丁場では、ケガや故障は日常茶飯事。
施術をする「マッサー」は、フル回転。最新の疲労回復手法を探求しつつ、レース後の選手の身体のケアのみならず、朝、補給食やドリンクを用意するなど、本業以外の仕事も任される。
機材を調整するのはメカニック。朝から晩まで出番は絶えない。機材交換の手際よさや、事前の調整の出来不出来など、責任は重大。メカニカルトラブル発生時、機材に八つ当たりして、バイクを放り投げる選手を見るのはさぞかし辛かろう。
地味ながら重責をこなすのは、チームバスドライバー。連日の長距離移動をスムーズにこなして当たり前。遅刻できないプレッシャーがあり、単調さとの闘いでもある。
広報担当者はマスコミ対応だけでなく、周囲に目を光らせ、ときに取材合戦から選手たちをガードする。選手の誰かがスキャンダルに巻き込まれようものなら、あっという間にジャーナリストに取り囲まれる。
それら歯車の核となる監督のミッションは、多岐にわたる。とくにレース中の守備範囲は半端でない。無線に神経をとがらせ、落車情報が入ると運転しながらゼッケン番号をメモしていく。特殊情報をキャッチしたスタッフから、携帯電話にメッセージが入ったり、小型テレビで実況中継を見ながら、戦況を確認したり。左手にメモ帳、右手にペン、手のひらでハンドルを抑え、無線越しに指示を与えつつ、合間にサンドイッチを口に放り込む、という曲芸ぶり。最終兵器は、ライバルチームの無線傍受システムだ。
動きのない1日、車内の雰囲気がまったりして、後部座席の広報担当者が疲労のあまり居眠りをしても、監督だけは四方八方にアンテナを張り巡らせ続ける。身内の逃げや落車の情報が入った瞬間、駆けつけねばならない。その瞬発力たるや、目を見張るものがある。ツールは一般のステージレースよりも日程が長い。酷暑の中を移動するだけでも体力を消耗するが、彼らの集中力は決して途切れない、つくづくプロの技を感じる次第。
体力勝負なのは、沿道のファンもまたしかり。とくに山岳の観戦スポットは、足の確保が大変なのだ。公共交通機関を乗り継いであとは徒歩10km、などもザラにある。運よくクルマを確保できても、早朝、道路封鎖前に観戦ポイントに到着せねばならない。トイレがないと知ったときの絶望感、“場所探し”の憂うつ。街の中心部での観戦ですら、苦労はつきまとう。ゴール地点は黒山の人だかり。し烈な場所取り合戦を制するために、待ち時間4時間、プロトンの通過時間30秒、そんなこともある。
ツールの厳しさは、これまでの様々な武勇伝が雄弁に語ってきた。参戦する選手たちは英雄視され、タフガイと認められる。しかし実は、それを取り巻く関係者にも同じことが言える。根性がなければ絶対に務まらない。ファンたちだって、粘り強さが試される。ツールという魔物に魅せられた者たちは、みなそれぞれ、なんらかのチャレンジを受けて立つ。
※本企画は2013年6月に実施されたものです。現在と情報が異なる場合がございますが、予めご了承ください。