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大会3連覇を目指す絶対王者
ヨナス・ヴィンゲゴー- チーム
- ヴィスマ・リースアバイク
- 身長・体重
- 175cm/60kg
- 国籍
- デンマーク
現役ツール王者の歩みが始まったのは、2021年大会。落車による負傷で途中離脱したプリモシュ・ログリッチに代わって総合エースを担ったのがきっかけだった。3週間を戦い抜き、終わってみれば個人総合2位。それから続く、タデイ・ポガチャルとのライバル関係。過去2大会はブレーキに見舞われているポガチャルに対し、大きな取りこぼしがなく大会制覇へつなげてきたヴィンゲゴー。何より、山岳の強さだけでなく個人タイムトライアルでの安定感も武器にするあたりにグランツールレーサーの神髄を見る。
今季はティレーノ~アドリアティコ快勝でツール3連覇へ順風満帆に思われたが、イツリア・バスクカントリーで不覚。激しいクラッシュで複数箇所を骨折し暗雲が立ち込める。すでにトレーニングを再開し、アシスト陣との高地キャンプにも臨んでいるが、「100%じゃない限りはツールを走らせることはない」とはチーム首脳陣の談。仮にツール出場がかなっても、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネなどの前哨戦は走らない予定で、実質ぶっつけ本番となる見通し。そんな状態で3連覇が実現したならば…“ヴィンゲゴー超人伝説”として長く語り継がれることになるだろう。
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3年ぶりの覇権奪回へ
タデイ・ポガチャル- チーム
- UAEチームエミレーツ
- 身長・体重
- 176cm/66kg
- 国籍
- スロベニア
2023年末に、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの2冠「ダブルツール」を目指すと宣言。まず、ジロを制し目標へ大きく前進した。このときの2位との総合タイム差は9分56秒。ステージ6勝し、ボーナスタイムを多く稼いだとはいえその差は歴史的大差と言えるものだった。これまでは山岳での圧倒的な登坂力を武器にしてきたが、小集団のスプリントであれば勝てるだけの勝負強さを高め、さらにはタイムトライアル能力も大きく向上。ジロではスプリンターのリードアウトまで務めたほどで、新時代のオールラウンダーとしてその走りに一層磨きがかかっている。
よりハードな戦いとなるツールに向けては、ジロ後1週間の休養ののち、フレンチアルプスでの高地トレーニングへ。その後モナコの自宅へ一度帰宅し、フィレンツェでの開幕に備えるという。1998年のマルコ・パンターニ以来となるダブルツールの実現は、同時に3年ぶりのマイヨ・ジョーヌ戴冠を意味する。参謀にはアダム・イェーツにジョアン・アルメイダ、フアン・アユソといったグランツール総合表彰台経験者がズラリ。過去に類を見ない、ドリームチームを編成して大きな、大きな頂きに挑む。
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グランツール完全制覇なるか?
プリモシュ・ログリッチ- チーム
- ボーラ・ハンスグローエ
- 身長・体重
- 177cm/65kg
- 国籍
- スロベニア
ブエルタ・ア・エスパーニャでは2019年から3連覇(2019年以降5年間でステージ12勝!)、ジロ・デ・イタリア2023制覇、東京五輪個人TT金メダル、その他タイトルは枚挙に暇がない。それでも、いまだ手が届いていないのがツール・ド・フランスの頂点。2021年、2022年と、当時チームメートだったヨナス・ヴィンゲゴーに総合エースの座を譲り、2023年はチーム事情により出場を断念。ノルディックスキー・ジャンプ競技からの転向で遅咲きのキャリアとはいえ、現時点で34歳と、決して残りキャリアが長く残されているわけではない。ログリッチみずから下した決断は、環境を変えて充実したアシスト陣のもと戦うことだった。
2年ぶりの出場となるツールへは、ジャイ・ヒンドレーやアレクサンドル・ウラソフといった、総合成績を狙えるだけの実力者をアシストにしたがえて参戦。山岳比重の高い今大会を戦い抜く下地は整っている。4月のイツリア・バスクカントリーではリーダージャージ着用のまま落車でリタイアしたが、ダメージはさほどなく、早々にトレーニングを再開。クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで脚慣らしして、ツール本番へ向かう。
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サイクル界の至宝
レムコ・エヴェネプール- チーム
- スーダル・クイックステップ
- 身長・体重
- 171cm/61kg
- 国籍
- ベルギー
プロへの登竜門とされてきたアンダー23カテゴリーを飛び越え、ジュニアから直接トップシーンへチャレンジする選手が増えてきている昨今。その先駆けとなったのが、レムコ・エヴェネプールである。2018年にロード・TT両種目でジュニア世界王者となり、翌年プロ入り。大けがを乗り越えて、2022年にはブエルタ・ア・エスパーニャでグランツール初制覇。直後のロード世界選手権では驚異の独走劇。昨年のジロ・デ・イタリアでは新型コロナ感染でマリア・ローザ着用のまま大会を去ったが、長期的な育成プログラムは順調に進行。満を持して、今年はツール・ド・フランスに挑む。
4月のイツリア・バスクカントリーでの落車で鎖骨と肩甲骨を骨折し手術を受けたが、回復は順調そのもの。ツールを前に、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで戦線に復帰する。アシスト陣とともにスペイン・シエラネバダ山脈での高地トレーニングに励み、コンディションは良好。目下の課題は、バスクでの骨折に起因するTTポジションの崩れ。これが改善されれば、鬼に金棒。安定感のある山岳での走りに、絶対的な武器であるTTとを融合し、マイヨ・ジョーヌ獲得へ大きく近づく。
世界最速のマン島超特急
歴代最多35回目のステージ優勝は目前
ツール・ド・フランス2023第7ステージ。混沌とするフィニッシュ前のスプリントポジション争いから、乾坤一擲の飛び出し。沿道で、そしてテレビで観戦していたファンのみならず、現地で取材していたジャーナリストたちも、奇跡の瞬間がやってくるのではと大声を上げた。結果はあと一歩届かず2位。それでも、ツール史上最多のステージ通算35勝目が確実に近づいていることを誰もが実感した。あの、翌日の落車がなければ、われわれはきっとすでに歴史の目撃者となっていたはず…。
早くからトラック競技で台頭し、培ったスピードをロードシーンで生かし始めたのが2008年。そこから、マーク・カヴェンディッシュによるツールの歩みが始まった。初出場でいきなりステージ4勝と鮮烈なデビューを飾ると、2009年には6勝、2010年は5勝。同じく5勝を挙げた2011年には悲願のマイヨ・ヴェール(ポイント賞)を獲得。2016年には第1ステージを勝ち、夢であったマイヨ・ジョーヌにも袖を通した。
年々ツールで勝利を重ねただけでなく、2009年にはミラノ~サンレモ、2011年にはロード世界選手権で優勝。その他獲得タイトルは数知れず。ただ、2016年にツールで3勝を挙げたのを境に成績は下降線。落車負傷や体調不良も相次ぎ、ツールのスタートラインに立つことすら難しくなった時期もあった。
それでも、転んでもただでは起きないのがこの男である。2021年ツールで華麗に復活。ステージ4勝を挙げマイヨ・ヴェールへ10年ぶりに返り咲くと、エディ・メルクスが持つツールステージ優勝記録34に並んだ。しかし、引退を表明し「最後のチャンス」にかけた2023年、新記録が目前に迫りながら思わぬ落車がチャレンジの機会を奪った。
引退を撤回し、もう1年走ることを決めたカヴェンディッシュ。所属するアスタナ・カザクスタンチームを率いるアレクサンドル・ヴィノクロフ氏は、「こんな形で終わるマークは見たくないんだ」と本人に直接伝えたという。
新記録達成へ、どのステージに狙いを定めるか。当然しっかり調整してくるだろうが、できれば限りなくフラットに近いレイアウトで力を発揮したい。となれば、フォーカスすべきは今大会最初の平坦路となる第3ステージか、序盤の4級山岳以降はフラットな第6ステージとなるか。消耗が少ない前半戦こそが、大記録を打ち立てる最高の道筋といえるだろう。
第111回目となるツール・ド・フランス。これだけの歴史がありながら、今大会は意外にも初もの尽くし。
まず、イタリアがグランデパール(開幕地)となるのが史上初。さらに、イタリア領土の中にある小国・サンマリノに初入国。第1ステージの後半部でレースが通過する。そして何より、パリ以外の都市でツール閉幕を迎えるのも史上初! パリ五輪の開催により、同地の交通事情に配慮して南仏ニースで2024年大会を締めることとなった。
3週間での総距離3492km。急峻な山岳はもとより、第9ステージでのグラベル区間採用など、いつも以上にタフなコース設定がなされる。獲得標高差は52230m。「クライマーズ・ツール」といった趣きが強い印象だ。
最初の3日間はイタリアを走行。フランスに入国するのは第4ステージから。いきなりの本格山岳で、マイヨ・ジョーヌ有資格者を測る1回目の機会になる。前述した第9ステージは、レース距離199kmに全14セクションのグラベルがひしめく。とりわけ、最後の6セクションはフィニッシュまでの35kmに凝縮。個人総合争いにおいて、山岳やTT以上の試練となる可能性も。
第2週後半では中央山塊を抜け、ピレネー山脈へ。50年前にレイモン・プリドールがエディ・メルクスを圧倒したサン=ラリ=スランのプラ・ダデを上るのが第14ステージ。続く第15ステージがフランス革命記念日(7月14日)にあたり、獲得標高差4850mの最後にプラトー・ド・ベイユの頂上を目指す。ここできっと、マイヨ・ジョーヌ争いの形勢が大筋見えているはず。
運命の大会第3週は、南仏からアルプスへ。イゾラ2000mを目指す第19ステージ、コル・ド・ラ・クイヨールの頂上に向かう第20ステージが山岳での最終決戦。
ただ、今年のツールはそれだけでは終わらない。ニースでのフィニッシュによって実現するのが、モナコをスタートする34km個人タイムトライアル。ラ・トゥルビーとエズ峠の上りをこなし、長くテクニカルなダウンヒルを経てのフィニッシュで何かが起こる。1989年大会でグレッグ・レモンが8秒差で総合をひっくり返したように、劇的な幕切れとなる可能性は十分。
前日を終えた時点で個人総合上位陣が僅差だと、衝撃の展開となることは必至。いつもはパレード走行で華やかに終えるツールだけど、今年ばかりはそうはならない。最後の最後まで見逃せない戦いがそこにはあるのだ!
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- Jasper PHILIPSEN ヤスペル・フィリプセン
- チーム アルペシン・ドゥクーニンク
- 身長/体重 176cm/75kg
- 国籍 ベルギー
前回大会はステージ4勝を挙げ、文句なしのマイヨ・ヴェール(ポイント賞)。今回は同賞2連覇がかかる。名実ともに、現在のプロトンNo.1スプリンターだ。フィニッシュ前で他を圧倒するスピードと勝負強さに注目しよう。彼を支えるアシスト陣、とりわけマチュー・ファンデルプールとのホットラインは今年のツールでも機能することだろう。小さな上りなら難なくこなし、うまくいけば第1ステージの優勝争いにも加わる可能性も。
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- Mathieu VAN DER POEL マチュー・ファンデルプール
- チーム アルペシン・ドゥクーニンク
- 身長/体重 184cm/75kg
- 国籍 オランダ
現・ロード世界王者。同様に世界を制しているシクロクロス、さらにはマウンテンバイクでもワールドクラスの実力を誇る。本記執筆段階で今季はロードで7レースのみの出場だが、すでに3勝。北のクラシックで見せた圧勝劇は“マチュー時代”の漸進を印象付けた。パリ五輪ではロードレースに絞って金メダルを目指すと表明。ツール参戦は最終調整の意味合いも含む。平坦でのヤスペル・フィリプセンとのコンビネーションにも注目だ。
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- Richard CARAPAZ リチャル・カラパス
- チーム EFエデュケーション・イージーポスト
- 身長/体重 170cm/62kg
- 国籍 エクアドル
ジロ・デ・イタリアでは2019年に個人総合優勝。ツール・ド・フランスでも2021年に個人総合3位と、グランツールレーサーとして確たる地位を得る。期待された前回は第1ステージでの落車により、早々に大会を離脱。その悔しさは今も忘れていない。3年ぶりの総合表彰台へ、信頼できるアシスト陣をそろえて開幕を迎える。連覇がかかっていた五輪ロードは、自国の選手派遣事情により断念。この夏はツールに集中する。
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- David GAUDU ダヴィド・ゴデュ
- チーム グルパマ・エフデジ
- 身長/体重 172cm/53kg
- 国籍 フランス
ティボー・ピノがプロトンを去った今、グランツールにおいて王国・フランスを引っ張る存在は、紛れもなくこの男である。2022年大会では個人総合4位。悲願の総合表彰台へ、27歳で迎えている今大会こそ機が熟したといえよう。これまでは「みずからにプレッシャーをかけすぎていた」と自省。今回は1日1日を大切にしながら、攻撃チャンスを探っていく心づもり。山岳の安定感は誰もが知るところで、ポイントはTTだ。
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- Stefan KÜNG シュテファン・キュング
- チーム グルパマ・エフデジ
- 身長/体重 193cm/83kg
- 国籍 スイス
“筆者特別推薦枠”での紹介!現在のプロトンで指折りの「取材対応に長けた男」で、その物腰の柔らかさと丁寧な受け答えが魅力的。それでいてワンデーレースや個人タイムトライアルに強いのだから、男性から見ても「ズルい」のひと言。北のクラシックでおなじみの“キュング応援団”を見ても、人気と人柄が分かる。今大会は2つのTTステージでの活躍に期待。パリ五輪の個人タイムトライアルの金メダル候補でもある。
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- Thomas PIDCOCK トーマス・ピドコック
- チーム イネオス・グレナディアーズ
- 身長/体重 170cm/58kg
- 国籍 イギリス
マウンテンバイクとシクロクロスでは世界王者を経験。また、前者では東京五輪の金メダリストでもある。オフロードで培ったバイクテクニックと小さな体から繰り出すパワーで、ロードでも上位戦線をにぎわせる。前回大会は個人総合13位。総合リーダーとしての資質があると自己分析し、今大会もカルロス・ロドリゲスとの双頭体制を組みたいと望む。パリ五輪でのロード、MTBの2冠を目指し、ツールを最終テストの場とする。
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- Carlos RODRIGUEZ カルロス・ロドリゲス
- チーム イネオス・グレナディアーズ
- 身長/体重 183cm/67kg
- 国籍 スペイン
昨年、初出場で個人総合5位。ステージ1勝を挙げ、一時は総合表彰台も視野に入るほどの快走を見せた。今季はツール・ド・ロマンディを制覇。チーム首脳陣の一部はグランツールの総合リーダーとして最も信頼できる選手に彼の名を挙げており、今年もビッグチームの主軸として走る公算が高い。タデイ・ポガチャルが“卒業”したマイヨ・ブラン争いにおいても、レムコ・エヴェネプールやフアン・アユソと好勝負を演じることだろう。
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- Sepp KUSS セップ・クス
- チーム ヴィスマ・リースアバイク
- 身長/体重 182cm/61kg
- 国籍 アメリカ
数々のリーダーを勝利に導いてきた“名参謀”に、明るく輝くスポットライトが当たったのは昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ。ヨナス・ヴィンゲゴーらの護衛を受けて、マイヨ・ロホをマドリードまで運んでみせた。グランツールを制してもなお、「僕はこれからも山岳アシストの任務をまっとうする」と強調。ヴィンゲゴーが戦列復帰となればツールは“本職”に戻る。他チームのエースクラスをも振り落とす上りのペーシングは必見だ。
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- Mads PEDERSEN マッズ・ピーダスン
- チーム リドル・トレック
- 身長/体重 180cm/70kg
- 国籍 デンマーク
スプリントも逃げもお手のもの。丘陵コースに対応する登坂力もあるから、変化の多い今回のコースは得意とするところだ。前回はポイント賞争いで2位。その気にさえなれば、ありとあらゆる方法でポイント収集に走ることだってできる。今年のマイヨ・ヴェール最有力との声もあり、ヤスペル・フィリプセンとの勝負は見もの。パリ五輪ロードレースも目標に据えていて、ツールで勢いに乗って五輪金メダル…というシナリオも大いにある。
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- Juan AYUSO フアン・アユソ
- チーム UAEチームエミレーツ
- 身長/体重 183cm/65kg
- 国籍 スペイン
タデイ・ポガチャルという絶対エースを存在するなかで、どのような立ち位置で走ることになるだろうか。あくまで山岳アシストに徹するのか、ポガチャルを支えつつ自身の成績も追い求めるのか、ポガチャルとのダブルリーダー体制を敷くのか…。ひとつ確かなのは、アユソにもツール総合上位入りができるだけの実力があること。ポイント賞のマイヨ・ブラン争いではレムコ・エヴェネプールやカルロス・ロドリゲスと競うことになる。