ツール・ド・フランスを知るための100の入り口
ツール・ド・フランスを知るための100の入り口:アシスト秘話
チーム内の連携プレイが認められるようになると、献身的なアシストによる美談も登場する。1934年、アスペ峠で集団と逆行しながら走るひとりの選手がいた。名前をルネ・ヴィエットという。
20歳の若者は、アスペ峠でパンクしたチームメイトのアントナン・マーニュの叫び声を聞きつけ、逆走していた。そして自分のホイールを差出し、エースを先に行かせたのだ。自分は新たなホイールをニュートラルカーから受け取るまで、その場にたたずんだ。
岩に腰をかけて待つ間、時間は刻々と過ぎ、自分の総合順位は落ちていく。うつむいて涙を流す彼の姿に、人々は胸を打たれた。この犠牲行為のおかげで、マーニュは総合首位を死守することができた。
アシストという立場の悲哀をにじませる話だが、まったく救いがないわけでもない。ヒロイックな行いとして、この出来事は後世まで語り継がれ、ヴィエットの名前は歴史に刻まれた。
普段主役の影に隠れがちなアシストがスポットライトを浴びる、そんなこともある。
※本企画は2013年6月に実施されたものです。現在と情報が異なる場合がございますが、予めご了承ください。