ツール・ド・フランスを知るための100の入り口
ツール・ド・フランスを知るための100の入り口:ルート作り
主催者A.S.O.は、ツール・ド・フランス以外のロードレースも手掛けているが、言うまでもなく、ツールのルート作成に一番時間をかける。構想が具体的なかたちになっていくのは約2年前。1年前にはルートはほぼできあがり、微調整を待つだけとなる。だから、前年ツールに対する公衆の意見を斟酌する、といったことは行わない。
複数レースを手掛けることにはメリットも多い。斬新な行程を投入する前に、まずは他のレースで取り入れ、状況を把握することも可能だ。2013年の開幕地コルシカ島ポルト=ヴェッキオはツールにとっては未知の場所だが、2010年以来、A.S.O.主催のクリテリウム・アンテルナシオナルのルートに使用されてきた。春先のクラシックレースの石畳区間が一部取り入れられることもある。
レースディレクターが重視するのは「意外性」。心がけているのは、巻き返しのチャンスが誰にでも与えられるよう、バランスのよいレイアウト。ある脚質の選手のみが有利となるような偏りはご法度だ。独走を許し、決着が早々につくことほど、主催者が忌み嫌うことはない。とはいえ想像どおりにいかないのは世の常だ。満を持して送り込んだステージで、なにも動きがないこともある。
自治体からのラブコールにこたえて、土地ありきでルートが決定することもあるが、あくまで競技的なアスペクトを優先する。主催者の方がルートへの含入を望んでも、インフラが整っていないからという理由で自治体が二の足を踏むこともある。投資が必要となる場合などは、説得に5年ほどかかることもある。
節目の年のルート作成には、とくに気を遣う。事前にたやすく見破られるものは作らない。2013年の100回記念の際は、初回大会に含まれたボルドーやナントが登場するものと誰もが思っていた。しかし期待は裏切られる。2003年、100周年記念大会で第一回大会をすでに再現してみせた。二番煎じに興味はない。
めくるめくような挑戦的な展開を目論みつつも、レースディレクターのジャン・フランソワ・ペシューには、山岳コース導入前の初心に立ち返りたいという思いもある。難しいコースはいらない。念頭にあるのは、いにしえの巡歴職人の足跡をたどり、フランス各地を行脚するような自転車レース。スポーツでありながら、地方色を重視し、土地と密接につながってきたツール。競争の名のもとに薄れつつある巡回という当初の要素を全面に押し出すのもたまにはよいではないか。競技として進化してしまったツールで、もはやそれは実現できそうもないが。
※本企画は2013年6月に実施されたものです。現在と情報が異なる場合がございますが、予めご了承ください。