ジロ・デ・イタリア2023

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ジロ・デ・イタリアとは

ジロがやってきた

ジロ・デ・イタリアとは

ジロ・デ・イタリアとは 栄誉ある「マリア・ローザ」こと、ばら色に輝くリーダージャージを目指して男たちが凌ぎを削る

真夏のツール・ド・フランス、晩夏のブエルタ・ア・エスパーニャに先駆けて行われる、シーズン最初のグランツール。5月のイタリアを、3週間かけて駆け巡り、たった1人の勝者を選び出す。それがジロ・デ・イタリアであり、「コルサ・ローザ(ばら色のレース)」だ。

フランス一周が自転車界最高峰のレースなのだとしたら、ジロは最も美しく、最も過酷な大会と言われる。初夏の抜けるような青い空、きらめく碧い海。悠久の歴史を感じさせる旧市街を駆け抜け、いまだ頂に白き冠を抱く標高2000m級の山々を目指す。そして勇者を讃えるピンクのリーダージャージ。全てがカラフルで、華やかで。

もちろん総合覇者の証「マリア・ローザ」を手に入れるためには、あらゆる地形を乗り越え、アルプスやドロミテの恐ろしき峠群を征服せねばならない。しかも、難しい山越えステージに、時には未舗装登坂路、勾配20%超の激坂、距離200km超え……の難条件さえ詰め込まれる。

だからこそ1909年に産声を上げたイタリア一周は、いつだってクライマーたちを讃えてきた。第2次世界大戦前後に大会を5度制したファウスト・コッピは、今でも大会最高標高地点を意味する「チーマ・コッピ」に名を残す。トスカーナ地方を通過するステージは、総合優勝3度のジーノ・バルタリにちなんで必ず「バルタリ区間」と呼ばれるし、夭逝の山岳王マルコ・パンターニにゆかりある山が、毎年1つずつ「パンターニの山」に指定される。

一方で、あらゆる脚質に輝く機会を与えるのも、ジロの良き伝統だ。スプリンターはシクラメン色の「マリア・チクラミーノ」を争い、クライマーは青の「マリア・アッズーラ」を追い求める。平坦ステージを活気づけるのは、「フーガ賞」や「中間スプリント賞」目当ての逃げ選手。正々堂々と戦い抜いたチームは、「フェアプレー賞」で称賛される。たくさんの賞と、たくさんの英雄たち。フィニッシュ後の表彰台では、スプマンテシャワーがきらきらと弾け飛ぶ。

そして21日間の激戦の終わりに、マリア・ローザを身にまとっていたチャンピオンには、黄金の螺旋型オブジェ「トロフェオ・センサ・フィーネ」に自らの名を刻む権利が与えられる。この「終わりのないトロフィー」と共に、永遠に、ジロ・デ・イタリアの歴史の一部となる。

2023年ジロ・デ・イタリアのコース概要

アドリア海岸線での個人タイムトライアル19.6kmから、2023年のイタリア一周は全速力で走り出す。5月6日から28日までの3週間の長旅は、間違いなく、このストップウォッチ相手の孤独な戦いが鍵になる。

第106回ジロ・デ・イタリアは、そもそもあらゆる脚質に均等にチャンスが用意されている。平地ステージは、前大会より1区間増えて全8日間。例年大会半ばで大量リアイアを余儀なくされるスプリンターたちも……今年は最後まで居残る価値あり。なにしろ3週目に平地ステージが2回も組み込まれている上に、最終日には4年ぶりの大集団スプリントフィニッシュが予定されている。

もちろんばら色の戦いを華やかに盛り上げるのは、山の男たち。開幕地アブルッツォ州から一旦南下し、イタリア半島の「長靴の足首」までたどり着いた大会4日目、アペニン山脈で最初の山頂フィニッシュが繰り広げられる。そこから北上し、再びアブルッツォ州を通過する第7ステージで、畳み掛けるように2度目の山頂フィニッシュ。グラン・サッソの標高2000mを超える山道で、開幕1週目にして、早くも総合争いは大きく絞り込まれることだろう。

さらに北へと向かうジロ一行は、2週目の半ば第13ステージでイタリアを抜け出すと、今大会唯一の国外となるスイスで山頂フィニッシュを争う。また国境線上にそびえるグラン・サンベルナールは、標高2469mの大会最高標高地点、いわゆる「チーマ・コッピ」。しかも巨大な山が3つ組み込まれた今ステージの累積獲得標高は、なんと5100mにも至る。

いつもなら容赦なく長距離ステージをねじ込んでくることで知られるジロ開催員会だけれど(2018年は最長ステージが244km、2019年大会は220km超が7日間、2021年大会にも231kmステージが登場した)、今大会は少々控えめ。そうは言っても200kmを超えるステージは6日間も用意されているし、第7ステージと第13ステージの高山の戦いは、それぞれ218kmと208kmという長く苦しい戦いでもある。

むしろクレイジーなまでの累積獲得標高の戦いは、大会3週目がいよいよ本番。大会2度目の休息日の翌日、ドロミテ山塊へと足を踏み入れる第16ステージは、5つの峠を上って下りて5200m。第18ステージの山頂フィニッシュを経て、同じく5つの難関峠が立ちはだかる第19ステージは、今大会最高の5400m。大会3週間の累積獲得標高も51400mと、一昨年から4000m増えた昨大会より、またさらに400mも増えてしまった……!

ちなみに第16ステージのフィニッシュ地モンテ・ボンドーネが、1956年大会の大雪で、長いジロの歴史の中でも屈指の伝説として語り継がれているのだとしたら、第19ステージのフィニッシュ地トレ・チーメ・ディ・ラヴァレードは、10年前、やはり牡丹雪の中でヴィンチェンツォ・ニバリが制した山でもある。

いつにも増して恐ろしい山々を攻略しただけでは、残念ながら、2023年大会の王者として君臨することは不可能だ。初日リーダージャージも、最終的なマリア・ローザも、個人タイムトライアルこそが持ち主を選び出す。昨大会はたったの26.6kmしかなかった独走種目は、今年は総計73.2kmにも伸びた。

2013年大会以来初めてトータルが70kmを超える上に、3回に分けて行われる単独走は、それぞれにタイプが異なる。第1ステージはほぼ平坦かつほぼ直線。しかし最終盤に約1kmの厳しい上り坂が差し込まれた。第1週目の最終日の、第9ステージはど平坦。一方で距離は35kmと比較的長めで、直角カーブも多発する、いわゆるTTスペシャリスト向けと言えそうだ。そして最終日前日の第20ステージは……前半はフラットで、後半はひたすら山登り。最終7.3kmは平均勾配12.1%で、うち5kmは平均15.3%、最大22%という超がつくほどの激坂だ。

つまり計3回目の個人タイムトライアルにして、計7回目の山頂フィニッシュの終わりに、ようやく2023年ジロ・デ・イタリアの総合争いは決する。最終日のプロトンは、久しぶりに、パレード走行も楽しめるだろうか。最後はイタリアの首都ローマを6周回。コロッセオを代表とする遺跡群の間を駆け抜けて……通算3489.2kmの長く美しい戦いは、幕を閉じる。

text:宮本あさか

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