ジロ・デ・イタリア2024

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ジロ・デ・イタリアとは

ジロがやってきた

ジロ・デ・イタリアとは

ジロ・デ・イタリアとは 栄誉ある「マリア・ローザ」こと、ばら色に輝くリーダージャージを目指して男たちが凌ぎを削る

真夏のツール・ド・フランス、晩夏のブエルタ・ア・エスパーニャに先駆けて行われる、シーズン最初のグランツール。5月のイタリアを、3週間かけて駆け巡り、たった1人の勝者を選び出す。それがジロ・デ・イタリアであり、「コルサ・ローザ(ばら色のレース)」だ。

フランス一周が自転車界最高峰のレースなのだとしたら、ジロは最も美しく、最も過酷な大会と言われる。初夏の抜けるような青い空、きらめく碧い海。悠久の歴史を感じさせる旧市街を駆け抜け、いまだ頂に白き冠を抱く標高2000m級の山々を目指す。そして勇者を讃えるピンクのリーダージャージ。全てがカラフルで、華やかで。

もちろん総合覇者の証「マリア・ローザ」を手に入れるためには、あらゆる地形を乗り越え、アルプスやドロミテの恐ろしき峠群を征服せねばならない。しかも、難しい山越えステージに、時には未舗装登坂路、勾配20%超の激坂、距離200km超え……の難条件さえ詰め込まれる。

だからこそ1909年に産声を上げたイタリア一周は、いつだってクライマーたちを讃えてきた。第2次世界大戦前後に大会を5度制したファウスト・コッピは、今でも大会最高標高地点を意味する「チーマ・コッピ」に名を残す。トスカーナ地方を通過するステージは、総合優勝3度のジーノ・バルタリにちなんで必ず「バルタリ区間」と呼ばれるし、夭逝の山岳王マルコ・パンターニにゆかりある山が、毎年1つずつ「パンターニの山」に指定される。

一方で、あらゆる脚質に輝く機会を与えるのも、ジロの良き伝統だ。スプリンターはシクラメン色の「マリア・チクラミーノ」を争い、クライマーは青の「マリア・アッズーラ」を追い求める。平坦ステージを活気づけるのは、「フーガ賞」や「中間スプリント賞」目当ての逃げ選手。正々堂々と戦い抜いたチームは、「フェアプレー賞」で称賛される。たくさんの賞と、たくさんの英雄たち。フィニッシュ後の表彰台では、スプマンテシャワーがきらきらと弾け飛ぶ。

そして21日間の激戦の終わりに、マリア・ローザを身にまとっていたチャンピオンには、黄金の螺旋型オブジェ「トロフェオ・センサ・フィーネ」に自らの名を刻む権利が与えられる。この「終わりのないトロフィー」と共に、永遠に、ジロ・デ・イタリアの歴史の一部となる。

2024年ジロ・デ・イタリアのコース概要

壮大なる戦いの幕が、北イタリアの古都トリノ近郊で切って落とされる。ユネスコの世界遺産ヴェナリア・レアーレの王宮に集結する全22チーム・176選手は、2024年5月4日、全長3400.8kmの長く美しき旅へと走り出す。

伝統と激闘のグランデ・パルテンツァ(開幕)。ミラノ〜トリノの勝負地スペルガ寺院への激坂と2級マッダレーナ峠が初日にいきなり立ちはだかり、第2ステージでは伝統オローパの聖なる山が、マリア・ローザ候補たちをふるいにかける。大会2日目に早々と山頂フィニッシュが組み込まれたのは、実に1989年以来35年ぶり!

つまり俊足たちの競演は、3日目まで待たねばならない。それでもスプリンターたちが勝利を引き寄せる可能性を秘めたステージは、1年前と同じく8日間用意されている(第3、4、5、9、11、13、18、21ステージ)。最後までしがみつく理由もある。なにしろ最終日は2年連続ローマでの平坦周回コースで、華々しくフィナーレを祝うのだから。

ピエモンテからスタートしたプロトンは、まずは長靴に比されるイタリア半島の、足首まで大急ぎで南下していく。第5ステージではティレニア海の青を楽しみ、トスカーナで執り行われる第6ステージ後半では、ストラーデ・ビアンケでおなじみ「白い道」も全3セクター・通算11.6km拝借する。

個人タイムトライアルは7日目に登場だ。ITTの距離が40kmを超えるのは8年ぶりで、その上ラストは、中世の趣を色濃く残すペルージャへと向かう上り坂。特に途中1.3kmにわたる平均勾配11.8%・最大16%の激坂ゾーンが恐ろしい。総合系選手たちは、脚の調整もマテリアルのチョイスに関しても、決してミスは許されない。一方で今大会2回目にして最後の個人TTは、いわゆるスペシャリスト向け。ガルダ湖畔へと誘う第14ステージ31.2kmの行程は、長く平坦な直線路の組み合わせだ。

40.1kmの全力疾走の翌日の第8ステージ、いよいよ今大会最初の難関山岳に突入する。152kmの短いコースの果てに待ち受けるのは、1級山岳プラティ・ディ・ティーヴォ。なんと49年ぶりにジロに戻ってきたアブルッツォの難峰は、ティレーノ〜アドリアティコでは、2012年大会以来3度使用され、いずれも独走勝利で終わってきた。3年前の春にここで両手を挙げたのは、他でもない、今ジロの優勝候補タデイ・ポガチャルだった。

たいして変哲のない、しかし2年前はトーマス・デヘントが巧みな逃げ切り勝利を飾ったナポリで1週目を終えたプロトンは、1回目の休息日が明けた翌日、すぐさま新たな1級山頂フィニッシュへと立ち向かわねばならない。その後は北上を始めつつ、幸いにも4日間は、比較的平らな土地──うち個人TT1回──で過ごすことができる。ただし2週目は締めくくりも1級山頂フィニッシュ。走行距離は今大会最長の220kmにして、累積獲得標高もやはり今大会最多5400mで、フィニッシュ地リヴィンニョの標高2385mは、今大会のフィニッシュとしては最も標高の高い場所である。

2024年のジロは、決して選手たちに体を慣らす時間を与えない。大会2日目、第2週初日に続いて、第3週目は立ち上がりから2日連続の山頂フィニッシュを突きつける。しかも2回目の休息日明け第16ステージは上り基調で始まり、休息日明け最初の山岳はステルヴィオ。今大会最高標高地点「チーマコッピ」の標高2758m目指して、約20kmの長く苦しい山道をよじ登らねばならない。

2日連続山頂フィニッシュの2日目は、200km超えの前日とは対照的に、159kmの短距離決戦。そこに5つの山岳がぎゅうぎゅうにねじ込まれ、累積獲得標高は4200mにも達する。文字通りスタートと同時に2級峠への登りに入ると、あとはフィニッシュまでひたすら上って下りてを繰り返すだけ。ちなみに山頂フィニッシュは全部で6回争われ(第2、8、10、15、16、17ステージ、登坂TTの第7ステージを除く)、つまりこの水曜日の第17ステージが、早くも今大会最後となる。また大会全体の総獲得標高は44650mと、たしかに昨大会より約6600mも少ない。

もちろんジロの山の熾烈さに、なんら変わりはないのだ。金曜日は山頂フィニッシュでこそないものの、フィニッシュの手前約6kmに勾配のキツイ2級峠が立ちはだかる。さらに最終日前夜の土曜日は、泣く子も黙るダウンヒルステージ。1級モンテ・グラッパの長く(18km超)、険しい(平均勾配勾配8%超、ラスト3kmは9.5%)上りの後に、同じほど長く、同じほど険しい下りが待っている。しかも上って下りては……2回も繰り返す!3週間こつこつと積み上げてきたヒエラルキーをひっくり返そうと、凄まじいダウンヒルに挑む勇者の姿が、見られるのかもしれない。

そしてモンテ・グラッパから猛スピードで駆け下りたら、2024年ジロ・デ・イタリアのマリア・ローザ争いは晴れて終了。あとは550kmもの大移動を経て、5月最後の日曜日に、ローマにて戴冠式を執り行うだけだ。

text:宮本あさか

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