ジロ・デ・イタリア2025
ABOUT
ジロ・デ・イタリアとは

ジロ・デ・イタリアとは

最も美しく、最も過酷な最初のグランツール「ジロ・デ・イタリア」
真夏のツール・ド・フランス、晩夏のブエルタ・ア・エスパーニャに先駆けて行われる、シーズン最初のグランツール。5月のイタリアを、3週間かけて駆け巡り、たった1人の勝者を選び出す。それがジロ・デ・イタリアであり、「コルサ・ローザ(ばら色のレース)」だ。
フランス一周が自転車界最高峰のレースなのだとしたら、ジロは最も美しく、最も過酷な大会と言われる。初夏の抜けるような青い空、きらめく碧い海。悠久の歴史を感じさせる旧市街を駆け抜け、いまだ頂に白き冠を抱く標高2000m級の山々を目指す。そして勇者を讃えるピンクのリーダージャージ。全てがカラフルで、華やかで。
もちろん総合覇者の証「マリア・ローザ」を手に入れるためには、あらゆる地形を乗り越え、アルプスやドロミテの恐ろしき峠群を征服せねばならない。しかも、難しい山越えステージに、時には未舗装登坂路、勾配20%超の激坂、距離200km超え……の難条件さえ詰め込まれる。
だからこそ1909年に産声を上げたイタリア一周は、いつだってクライマーたちを讃えてきた。第2次世界大戦前後に大会を5度制したファウスト・コッピは、今でも大会最高標高地点を意味する「チーマ・コッピ」に名を残す。トスカーナ地方を通過するステージは、総合優勝3度のジーノ・バルタリにちなんで必ず「バルタリ区間」と呼ばれるし、夭逝の山岳王マルコ・パンターニにゆかりある山が、毎年1つずつ「パンターニの山」に指定される。
「終わりのないトロフィー」に刻まれる王者の名と歴史

一方で、あらゆる脚質に輝く機会を与えるのも、ジロの良き伝統だ。スプリンターはシクラメン色の「マリア・チクラミーノ」を争い、クライマーは青の「マリア・アッズーラ」を追い求める。平坦ステージを活気づけるのは、「フーガ賞」や「中間スプリント賞」目当ての逃げ選手。たくさんの賞と、たくさんの英雄たち。フィニッシュ後の表彰台では、スプマンテシャワーがきらきらと弾け飛ぶ。
そして21日間の激戦の終わりに、マリア・ローザを身にまとっていたチャンピオンには、黄金の螺旋型オブジェ「トロフェオ・センサ・フィーネ」に自らの名を刻む権利が与えられる。この「終わりのないトロフィー」と共に、永遠に、ジロ・デ・イタリアの歴史の一部となる。
2025年ジロ・デ・イタリアのコース概要
3年ぶり15回目の外国開幕
2025年のジロは、アドリア海対岸の国アルバニアから走り出す。ジロにとっては3年ぶり15回目の外国開幕であり、スタートは通常よりも1日早い金曜日。5月9日(金)から6月1日(日)まで、全21ステージ+休息日3日の日程で、第108回大会の熾烈なバトルは繰り広げられる。
つまりバルカン半島の南西部に位置する「白い土地」が、全23チーム・1チームあたり8選手で構成されたプロトンの中から、2025年最初のリーダージャージ「マリア・ローザ」の持ち主を選び出す。しかも異国で過ごす3日間は、起伏ステージで始まり、起伏ステージで終わる。中日には全長13.7kmの個人タイムトライアル──途中に4級峠を越える──も組み込まれた。すると最終的なピンクジャージの行方を占うような戦いが、見知らぬ土地のエキゾチックな風景の中で、早くも巻き起こるに違いない。
異国での3日間が終わると、船旅と休息日を経て、ジロ一行はイタリア半島の「長靴のかかと」部分に到着する。本格的なイタリア一周の始まりだ。

ピュアスプリンターの出番もようやくここから。第4ステージから3日間連続で平地区間がやってくる。ただ、この機会を逃すと、残すチャンスは第12ステージ、第18ステージ、最終第21ステージの3回だけ。脚がフレッシュなうちに、大急ぎで区間勝利を競り落とさねばならない。
俊足が輝いた後は、お待ちかね、クライマーの時間。「イタリアの背骨」であるアペニン中央山脈で、第7ステージ、大会初の難関山岳ステージ&初の山頂フィニッシュが争われる。開幕2日目に難関山頂勝負を組み込み、そこで完全に総合争いが終わってしまった昨大会の反動か。今年の本格派山岳バトルは、例年以上に遅い幕開けとなる。
総距離3443.3km、累積獲得標高52350mもの長い巡礼の旅
続いて北東ヴェネト州にもたっぷり滞在する。そこを起点にスロベニアにも入国。過去2大会の総合覇者……プリモシュ・ログリッチとタデイ・ポガチャルの母国が舞台ではあるものの、地形はアタッカー向き。果たして逃げ切りは実現するだろうか。今大会には全部で8回の起伏ステージが散りばめられている。
閉幕まで1週間に迫った日曜日、いよいよドロミテ山塊に足を踏み入れる。第7ステージ以来、実に8日ぶりに、プロトンは本物の山岳ステージを戦う。だが、これも、あくまで予告編に過ぎない。なにしろ大会3度目の休息日が明けると、突如として難度は跳ね上がる。計5つの山岳ステージのうち3つが、全部で3つしかない山頂フィニッシュのうち2つが、最終週に待ち受けている。しかも激烈さは日を追うごとにクレシェンドしていく。
第16ステージには4峠がのこぎりの歯のように突き立ち、今大会2度目の山頂フィニッシュ。続く第17ステージでは、ジロ伝統の激峠パッソ・デル・モルティローロと対峙せねばならない。ほんの1日だけ平地でリズムを整え直した後、第19ステージはスイスとの国境にまたがる「モンテ・ローザ山塊」へ。166kmと短いステージながら、登坂距離が長い巨大な峠が4つも待ち構え、標高差は今大会最多の4950mにも至る。

5月最後の土曜日、大会最後の山岳ステージでは、終盤のコッレ・デッラ・フィネストレが最後の試練を与える。しかも選手たちに課されるのは、「激勾配」「未舗装」「チーマコッピ(今大会の最高標高地点、2178m)」という3重苦。受難の道を耐え抜いた先の、フランス国境にほど近いセストリエーレの山頂で、ついにマリア・ローザ争いは決する。
2025年ジロ・デ・イタリア総合覇者は、最終日、ローマへと凱旋を果たす。永遠の都を誇らしげに駆け巡り、大集団スプリントフィニッシュですべての戦いが幕を下ろした後には、自らの名が刻み込まれた「永遠に終わらないトロフィー」を高く掲げ持つ。黄金色に光り輝く栄光と、世界中の自転車ファンの称賛を、この瞬間だけは独り占めにする!

幸いにも今年は、カトリック教会が四半世紀ごとに祝う「ジュビレオ(聖年)」にあたる。復活祭翌日に天に召されたフランシスコ教皇の寛大な配慮により、ジロ一行は特別に、パレード走行中にバチカン市国を通過する。総距離3443.3km、累積獲得標高52350mもの長い巡礼を、最後まで走り抜いた一人ひとりに、きっと等しく祝福は降り注ぐことだろう。
text:宮本あさか