WECの楽しみ方

 スポーツカーレースの最高峰として、毎年大きな注目を集めているのが、FIA 世界耐久選手権(World Endurance Championship=WEC)。2024年からはレギュレーションも大きく変更され、毎戦のようにドラマチックな展開となっているシリーズだが、いったいどんなレースで、そしてどんなマシンが戦うレースなのだろうか。生中継を見る前に、簡単ではあるがおさらいしておこう。

WECは2025年、世界中を舞台に8戦が行われるが、すべてが長距離レースで、3名のドライバーたちが交代しながら戦う。その8戦のうち、シリーズのハイライトに位置づけられているのが、第4戦のル・マン24時間耐久レースだ。

1923年に始まったル・マン24時間は、世界三大レースのひとつであり、耐久レースの頂点。そしてこのレースの規定がWEC世界耐久選手権の大元だ。もともとほとんどが陸続きのヨーロッパでは、若者がヨーロッパ大陸を旅行する『グランドツアラー』という文化があった。古くは馬車が使われていたが、自動車の登場とともに高速で長距離を移動できるスポーツカー(グランドツアラー、グランツーリスモ等さまざまな呼び方があるが、略して『GT』)が生まれ、長距離を安全に、かつ速く走れる車両を比べるという意味で、ル・マンは高性能スポーツカーが覇を競うレースとなった。

そのため、ル・マン24時間を戦うことができるのは、『二座席のスポーツカー』というのが基本。レギュレーションの狭間で一座席のレーシングカーが戦ったこともあるが、かなり例外的だ。そしてル・マンのもうひとつの側面として、レースに勝つため、自動車の技術革新のための新しい技術が磨かれてきた場所というものがある。市販車ではない純粋なレーシングカーで、新技術を取り入れていたものを『プロトタイプカー』と呼ぶようになった。

ル・マン24時間はその特殊性、過酷さ、築かれた数多くの伝説とともにそのステータスが築かれ、2023年には初開催から100年を迎えたが、ル・マン24時間を戦うことができる規定に則ったレーシングカーで争われる世界選手権が、2012年にル・マン24時間の主催者のACOフランス西部自動車クラブと、FIA国際自動車連盟により復活したWECだ。

2012年からレギュレーションは小変更を繰り返してきたが、シリーズ史上最大の変化となったのが2024年。シリーズ開始当初はLMP1/LMP2というプロトタイプカー2クラス、LM-GTEプロ/LM-GTEアマとGTカーが2クラスと分かれていたが、その後ハイパーカー/LMP2/LM-GTEアマに、そして2024年からはハイパーカーと、LMGT3という2クラスになっている。

WECに参戦できる=ル・マン24時間への参加権を得るということだが、近年ル・マンの人気の高さから、この参戦権利を得ることは並大抵のことではできない。アメリカで開催されているIMSAウェザーテック・スポーツカーチャンピオンシップ、ヨーロピアン・ル・マン・シリーズといったカテゴリーが盛況になっているのも、ル・マンの参戦権を得たいがためだ。こういった世界的なシリーズと規定の共通項があり、車両の行き来ができるのもメリット。各シリーズ含め自動車メーカーがこぞって参戦しており、ハイパーカー、LMGT3ともかつてないほどに高レベルとなっている。

■史上まれにみる戦いが展開された2024年。2025年はさらなる盛り上がりも

ル・マン24時間では前述のようにGTカー、さらにそこから派生するプロトタイプカーというふたつのカテゴリーで争われ、最高峰のクラスは長い歴史のなかで紆余曲折を経ながらも、プロトタイプカーが使用されてきた。近年では2004年からLMP1、LMP2という2クラスが存在し、LMP1はメーカー、LMP2はプライベーター向けとされた。

ただ、LMP1は参戦メーカーが少しずつ減少し、TOYOTA GAZOO Racingをのぞくブランドが姿を消してしまった。そこで、シリーズを運営するACOフランス西部自動車クラブとFIA国際自動車連盟、さらにアメリカで開催されているIMSAと三者により新たな規定が作り上げられた。

ひとつはハイパーカー。市販の超ハイパフォーマンスカーをベースにした車両、もしくは純レーシングプロトタイプで、比較的自由度がある設計ができるが、コストが厳しく制限される。ハイブリッド搭載は任意で、バランス・オブ・パフォーマンスが用いられる。ハイパーカーはTOYOTA GAZOO Racingが走らせるトヨタGR010 HYBRIDをはじめ、斬新なデザインが特徴のプジョー9X8、登場以来強力なパフォーマンスをみせるフェラーリ499Pといった車両が挙げられる。また、2025年から登場するアストンマーティン・ヴァルキリー AMR-LMHは、市販されたハイパーカーをベースにしている。

そしてもうひとつが、LMDh(ル・マン・デイトナ・h)。アメリカのIMSAで人気を博していたDPiをベースとしたもので、4種類のLMP2用シャシーをベースに、自動車メーカーが独自のカウル、エンジンを組み合わせることができる。またハイブリッドは共通で、メーカーは自社のスポーツカーのイメージを反映したマシンを安価で製作できる。また、かつてのグループCレースのように、プライベーターへの販売も可能になった。2025年はキャデラックVシリーズ.R、ポルシェ963、アルピーヌA424、BMW MハイブリッドV8といった車両が参戦。アメリカではアキュラARX-06、ランボルギーニSC63といった車両も走っている。

ハイパーカーとLMDhは、WECとIMSAのどちらにも行き来することができ、性能が揃えられることから、これが多くのメーカーの関心を呼んだ。なお、WECではハイパーカー、LMDhすべてを総称してハイパーカーと呼ばれ、アメリカでは往年の呼称を受け継ぎGTPと呼ばれている。

2025年は、8車種18台がハイパーカーにエントリーしている。新たな顔ぶれを加え、盛り上がりは必至。今シーズンも見逃せないシリーズとなりそうだ。

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