ツール・ド・フランス2023

今大会3つ目の山地＝ジュラ山脈で迎える、今大会3つ目の山頂フィニッシュ。しかも140kmに満たない短いステージに登場するのは、締めくくりの超級峠1つだけ。グラン・コロンビエの山道で、凝縮された激戦が繰り広げられるに違いない。

7月14日は、ご存知、フランス革命記念日。午前中にはパリ・シャンゼリゼ大通りで大規模パレードが行われ、フランス人選手の愛国精神は、いつも以上に高まっている。2017年大会第13ステージには、ワレン・バルギルがフランス人として12年ぶりに「キャトーズ・ジュイエ（7月14日）」を制したが、あれから6年、フレンチトリコロールは祖国に新たな歓喜をもたらせるだろうか。

極めて平坦な道からステージは始まる。大小約1100もの沼が点在するドンブ地方を横切り、来る第18ステージでも使用される道を10kmほど逆走もする。75kmほど走ると、ようやく道は上り始めるけれど……15kmほどだらだら上った先にあるのは山岳ポイントではなく、なんと中間スプリントポイント。それでも4％弱の緩やかな上り坂は、来る超級登坂へ向けて格好のウォームアップとなるはずだ。

一旦道は再び平坦に戻るものの、キュロズの町中に差し掛かると、いよいよ本格的な上りへと突入する。2012年大会に初めてツールで使用されて以来、5回目の登場となるグラン・コロンビエは、「ビュジェのピラミッド」と呼ばれる通り4つの山肌と4つの登坂ルートを持つのだが、キュロズ側から攻めるのは今回で4回目。全長17.4km・平均勾配7.1％の山道だ。

長い山道には3つの難ゾーンと、2つのゆるいパートが、交互に登場する。序盤7kmは8.5％を超える急勾配が延々と続き、うち2kmは10％前後にまで跳ね上がる。その後にほんの少し息を整えたら、今度は3kmにわたって9％超。改めて一旦休んで、ラスト4kmの猛ダッシュ。特に山頂手前に10％ゾーンが待ち構えているから、最後の最後まで、爆発力を保持しておかねばならない。3年前のタデイ・ポガチャルが、鮮やかな山頂スプリントで勝利をさらったように！

ステージ序盤は、まさに去年まで僕が住んでた地域。この一帯は「ドンブ」と呼ばれて、池がすごくたくさんあって、ど平坦です。ここで飛び出す選手もいるんじゃないかな。だって7月14日ですから。近ごろはすべてがシステム化されて、ジャージアピール逃げも減ってはきたけど、それでも地元フランス勢は動いてくるでしょう。狙いは平坦で出来る限りタイム差を広げて、そのアドバンテージで上り切っちゃおうみたいな。

で、中間スプリントに向けて、ようやく道が上り始めるという……。等級はついてないけど、本来なら4級山岳、いや、3級山岳でもいいような山です。ただ、勝負はやっぱり、最後のグラン・コロンビエで決まります。

グラン・コロンビエって、近ごろツールに何度も登場していますが、まさにアン県の「ブランド」的な山。インフラもしっかり整備されていて、夏はサイクリストで賑わいます。山の上にある売店の人も、自転車がすごく大好きで、しかもティボー・ピノ選手のファンなんですよ。だから革命記念日だし、ピノ選手にはがんばってほしいです。ギヨーム・マルタン選手も学生時代にリヨンに住んでいて、この辺はよく練習で走っていたから、道は熟知しているはず。ダヴィド・ゴデュ選手は逆に総合争いがあるので、攻撃には出にくいのではないかな。

今回はキュロズから入る、いわゆる「表」からの上り。グラン・コロンビエには反対側にも3カ所登坂ルートがあるんですが、この表からの上りは、序盤から勾配が結構きつくて、しかも長い。ただ麓の道幅は十分あるので、位置取りにそれほどナーバスになる必要はないです。もちろん、しばらく上るとスイッチバックのようなコーナーがたくさん連続して登場するので、やっぱり前にいたほうが有利ではあります。

とにかく、総合争いにとっては重要なステージ。タデイ・ポガチャル選手やヨナス・ヴィンゲゴー選手といった、マイヨ・ジョーヌ本命が本気で争うでしょう。ただ1つしか山がないので、失速する選手も少ないでしょうね。結局のところ、総合系はまとまったままで、タイム差が意外とつかないんじゃないかもです。

解説：別府史之 / 文：宮本あさか