2025年秋のロードレースシーンの注目は、東アフリカの国・ルワンダの首都キガリに集まる。初開催から103年の歴史を持つUCI世界選手権大会ロードレースは史上初めて、アフリカ大陸へ。キガリは、大会の歴史に新たな一歩を踏み出す地となる。
ルワンダではサイクリングが国技のひとつとされ、ロードレース競技はもとより、日常生活のひとつとして文化を形成しつつある。UCI世界選手権の開催は、同国における自転車競技の発展を促すとともに、人々に雇用を提供し、国を挙げての経済活動を高める役割も担っている。
今大会のスローガンは、「Riding New Heights,」(新たな高みを目指して)。“Land of a Thousand Hills”(千の丘の国)とも言われるルワンダの丘陵地形にチャレンジする選手たちの姿勢と合わせて、自転車競技界全体の進歩と達成を目標とする意味合いが込められている。9月21日から28日までの開催期間は、キガリの街がサイクリングにおける世界の中心地となり、大会史上最も過酷だと言われるコースで世界中のライダーが競い合う。
主催者に言わせれば「限界に挑戦するためのコース。チャレンジャーたちは歴史に名を刻むことになるだろう」。大会最終日・28日に行われる男子エリート ロードレースは267.5kmで争われる。1周15.1kmのサーキットをベースにしながら、中盤では42.5kmの大周回へ。これがなかなかの難所で、登坂距離5.9km・平均勾配6.9%の「Mont Kigali」と、登坂距離0.4km・勾配11%の石畳の上り「Mur de Kigali」をアタックする。
長丁場の戦いは平坦区間がほとんどなく、ひたすらアップダウンが連続する。下った勢いのまま上りをこなせるかというと決してそうではなく、次々とやってくる急坂をいかにして乗り越えるかがポイント。サバイバル化することが予想されている。
初のアフリカ開催にあたり、渡航費用や移動時間を考慮し派遣を見送る国が出ているほか、優勝争いに加わると見られていた有力選手の欠場発表も相次いでいる。しかし、昨年大会の覇者タデイ・ポガチャル(スロベニア)はやる気満々だ。連覇へ向けて早い段階から出場を表明し、個人総合優勝を果たしたツール・ド・フランス以降はこの大会にフォーカス。個人タイムトライアルへの出場も決め、その視野は2冠達成に向けられている。同国代表チームはベストメンバーを組む意向を固め、盟友プリモシュ・ログリッチもダブルリーダーの一翼として出場を決めた。
3年前のロード世界王者レムコ・エヴェネプール(ベルギー)も、復権をかけて参戦を表明。変化が厳しいキガリのコースへの適性は、ポガチャルと遜色ない。共闘が期待されていたワウト・ファンアールトの欠場は痛いが、その分上りに強い選手の厚みを増して代表チームを編成する。現在2連覇中の個人タイムトライアルにももちろん出場。3年連続の頂点へ視界は良好だ。
出場国の中では早くに代表メンバーを発表したオーストラリアは、ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ3勝を挙げたジェイ・ヴァインや、同じくブエルタで個人総合上位争いに加わったジャイ・ヒンドレーが軸。ジロ・デ・イタリア個人総合10位のマイケル・ストーラーも控え、複数メンバーの上位入りも可能性十分。
オランダはツールでステージ2勝のテイメン・アレンスマン、アメリカは出走6人ながらマグナス・シェフィールドを中心にまとまりのある布陣。スペインはフアン・アユソが上位進出を狙える態勢を整えている。
また、女子エリート ロードレースは男子に先だって27日に行われ、11周回・164.6kmで争われる。獲得標高3350mで、やはり登坂力とスピードに長ける選手が中心の展開になりそう。今年のツール・ド・フランス ファムを制したポーリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)や、初の女王の座を目指すデミ・フォレリング(オランダ)らの走りが見もの。一発勝負に強いキンバリー・ルコート(モーリシャス)もアウトサイダーとして注目しておきたい。
このほか、男女エリートの個人タイムトライアルは大会初日・21日に行われる。こちらも複数の丘越えが控える、ルワンダならではのコース設定。女子は31.2km、男子は40.6kmで勝者を決める。
いずれの種目も、勝者には“世界王者の証”マイヨ・アルカンシエルが授与され、次回大会までのおおよそ1年間、純白に5色の虹があしらわれたスペシャルジャージを着用する。
文:福光 俊介