「人間の条件/マーラー・アダージェット」@カーニバル・オン・アイス2018

——カーニバル・オン・アイスのプログラムの話を聞きたいんやけど、俺のメモの中に「輪廻」「十字架」「氷」「黄色」ってあるんやけど、これどういうこと?(笑)

町田:輪廻はどういうことでしょうね…。それはマーラーの「アダージェット(交響曲第5番第4楽章)」のほうなんですけれども、どんなに過酷で不条理な人生であったとしても、それでもなお立ち上がって生きていく人間の尊厳みたいなのをテーマにした作品で、結構照明にこだわったので、そのあたりの印象がメモによって残されているのではないかと思うんですけれども。

——ぐ〜っと回って寝転んでシュ〜ッといったやん?真ん中で。あのときの照明の形が十字架に見えたのはおかしい話なの?

町田:いや、あの、十字架に見えると思います。まっすぐに光のラインを照明によって作って、そこに私がこう入っていく演出です。で、私のピンスポットとその照明が重なり合って、ちょうど十字の形になるみたいな照明になっていたと思います。

——う〜ん、なるほどね

町田:黄色というのは、あの「人間の条件」というプログラムの照明は空の情景をモチーフにしていて、最初のシーンは日の出なんだけど分厚い雲の隙間から「ヤコブの階梯」っていって光の柱がパーッと空から地上へ降り注いでいくイメージだったので、たぶん黄色という印象が。

——なるほどね。じゃああの、手を出したときの水色は、雨ではなく空の色なの?

町田:いや、あれはまた難しくて、人間の生命の源みたいなイメージですね。アイディアの源みたいな。エネルギーに満ちた光として使っていたので、青でした。

——なるほどね。で、「イーグル」「手」「力」「抜ける」って書いてあんねんけど、あのときイーグルで何してたっけ?

町田:イーグルをやってパッと力を抜くシーンがあったんですけれども。常にあのプログラムは、神だったり自分の運命の支配者みたいなものとの対話で振り付けをしていったんですけれども。例えば最初の振りで、天に祈りを捧げる問いかけをするんだけれども、天からは何も返ってこない。で、また立ち上がって滑っていって、また問いかけるんだけれども、それでも返ってこないっていう苦しい心情が最初のほうでは描かれていて。そのイーグルのところも、パッと神に必死に問いかけるんだけれども「ああ、やっぱだめだ」っていうような虚無感みたいなのを、そこの振り付けで表現しました。

——なんかね、振り付けって考えると、いろいろ動いて表現するっていったときに、何もしないことが表現とか力を抜くっていうのがあんまりないやん?試合とかでは。だからそれがすごい印象に残っていて、どういうあれなのかなって思って聞きたかったところなの

町田:でも私もKENJI先生の振り付けで印象的なのは、やっぱり緩急で。きれいにポジションを取った後にふっと抜けるところを必ず作っていて、そこが印象的だなと感じてるんですけど、KENJI先生もそのへんの緩急みたいなのは気を付けてるんですか?

——そうですね(笑)。緩急、うん、気を付けてる。町田くんの言うとおりに、俺は今までやってきた!それを思ってやってきました(笑)

町田:なんかよくKENJI先生は、物に例えて「こう、ぐっと絞って」っていう指導方法というか表現を使っていて、すごくわかりやすいんですけれども。KENJI先生も、何か美しいポジションを取った後に、脱力で緩急をつけていくっていう工夫をいつもされているんじゃないかなって思っていたんですけど。

——うん、してる(笑)。で、カーニバル・オン・アイスで演技中に2回失敗してしまったやん?あれはやっぱりやり直したいっていう気持ちはあるんかな?

町田:マーラーの「アダージェット」という作品は9分30秒あるので、まあ体力的にも精神的にも厳しく、実は転倒は覚悟していました。けれども、あのプログラムのコンセプト自体が、挫折してもなお立ち上がっていく人間の尊厳をテーマにしたものですので、その2回の失敗さえも表現行為の一部になったなと思い、納得はしています。

——あの、そうだと思います。見ててそう思ったし、失敗も含めての表現だなっというふうに見てた

町田:フィギュアスケートはスポーツでもありますから。普通の舞踊の舞台はもちろん失敗は許されないと思いますし、アイスショーの世界もそれはないほうがいいですし、本来であればミスは許されないと思うんですけれども。それでもミスを恐れて無難で簡単な構成のプログラムをしても、会場も広いですしお客さんの心に届くのかと考えたときに「う〜ん」って悩むんですよね。だから最後まで自分ができる最大限の技を組み込んで、常にギリギリのところの作品を提示したいと私は考えていましたので、最後までそういう意味では挑戦できたことに誇りを持っています。

——素晴らしかったと思う

町田:常にフィギュアスケートのジャンプは失敗と成功が表裏一体っていうほど運動強度の高い身体運動なので、今回の「人間の条件」っていう作品では、失敗も成功も表現行為として昇華できるようにとの意図を込めて振り付けをしました。なので、私がこれまで振り付けてきたプログラムの中で唯一、即興だとかハプニングによる表現の余地を残した作品と言えるかもしれないです。

——なるほど。そう言われるとちょっと納得するね

町田:いつもはなんか、この性格はちょっと改めないといけないなと思う面もあって、ほんとに完璧主義なんですよ。完全無欠が美だっていうふうに考えちゃう節があるんですけれども。これまでのプログラムは「なるべくミスがないように」って、もちろんミスはあったときもあるんですが、そういうふうに演じていたんですけども、今回のマーラーの「アダージェット」は自然体で、失敗してもそれも受け入れて、でもすぐに立って次に進んでいくというような覚悟で演じていたので、そういう運命だったんだなと思います。

——うん

町田:それにあの、実はフリップジャンプとルッツジャンプを転倒してしまったんですけれども、自分の中ではほんとに完璧なアプローチでした。空中でも「絶対これは成功する」っていうようなジャンプだったんですね。それで失敗したから「あ、これは運命なんだ」と思ってすんなり受け入れられました。

——そういうもんなんだ、と

町田:例えばこれが、自分の練習不足とかで体力がなくて、最後9分くらいのときにトリプルルッツが入っているんですけど、もう体力不足で力なくてパーンってパンクしちゃったみたいなジャンプだったら、たぶん私は一生後悔したと思います。もっと稽古積んで体力つけてやっておくべきだったじゃないかって思ったと思うんですけれども、もうアプローチもスピードも十分だったし、何も心配いらないっていうようなジャンプで、実際に空中では「あ、きた!」って思ったのに転んでしまったから。

——結構豪快にコケたもんね

町田:そうなんです。だから「あ、うん、こういう運命だった」ってすごく納得したんですね。だから今ほんとに何の不満もなく、晴れやかにあの演技を振り返って見れますね。

——そうなんや、いや素晴らしいですよ

町田:後悔はないです。

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【町田樹 前編】12月11日(火)午後10:00 -
【町田樹 後編】12月18日(火)午後10:00 -

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フィギュアスケートを”文化”にまで昇華したいと真摯に語る町田さんは、宮本さんからの「フィギュアスケーターにとって最も必要な素質は?」という質問に対して、「技術を磨き続けることのできる職人気質、あくなき探求心とともに、表現力を磨くための知的感性、そして一発勝負に臨む勝負師としての心構え」と答え、宮本さんと熱いフィギュアスケート論を交わします。

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