コース図が実際と違う、表示時間が違う、選手の写真と名前のテロップが一致しない――こういういい加減さが“スペインクオリティ”と呼ばれ、ブエルタ・ア・エスパーニャの楽しみの1つとなっている。

スペイン人の名誉のために弁解すれば、近年はずい分減った。私が住み始めた90年代半ばはテレビ番組すら遅延し、放送終了時には1時間近く後ろにズレ込んでいるという信じられない事態が、頻繁に起こっていたが、例えばビジネス化が急速に進んだプロサッカーの試合は今、分単位の正確さでキックオフされている。グローバル化により“アスタ・マニャーニャ”(また明日=明日できることは今日しない)というお国柄では、国際競争についていけないからだ。

だが、ブエルタは長時間放送で終了時間も弾力的だからか、よもやま話もお楽しみのうちという緩い空気がまだ残っている。スペインらしさがデメリットではなく、むしろいかに国の特徴を出すかが差別化に繋がる競技で、サービス精神の表れが放送ミスになっていると考えれば、日本のみなさんは笑って見過ごせるのではないか。

が、このスペインクオリティ、在住者にとっては重大問題である。

例えば、日本人を含む外国人の長期滞在には居住許可証が必要なのだが、その取得のために移民局には住民票の提出を求められる。だが、市役所に行くと居住許可証がないと住民票は出せない、と門前払いされる。スペインは結構な官僚主義の国で市役所と移民局が連絡を取り合うなんてことはしてくれないから、間に挟まれたあなたは伝書鳩のごとく右往左往することになる。

この迷路を抜け出す正解は抗議文であった。「市役所は住民票を出せない、と言っている。文句があるなら市役所に言え。それで俺を国外追放にしたいなら勝手にしろ!」という手紙を代わりに提出したら、すんなり居住許可証が出た。不可能を要求する方も要求する方だが、必要書類抜きで許可を出す方も出す方である。スペインクオリティには、いい加減だから融通が利くというメリットもあるのだ。

いい加減さが撲滅されないのは、最終責任者が不在であるからだ。

責任を擦り付け合う移民局と市役所同様、ブエルタでのテロップミスを突き詰めてもミスを認める者は決して現れないだろう。情報収集部門と映像編集部門の間で「言われたことをやっただけ」という言い訳が何回か繰り返された後、真犯人は闇の中に消える。それで誰も困るわけではない(日本の視聴者は困るかもしれないが)。

かつてスペインのサッカー本の日本語版の制作中に、100以上の事実誤認が見つかったことがあった。そう筆者のスペイン人ジャーナリスト(結構有名な人)に告げると、出版社の方にはクレームなど一件もない、と言う。いい加減な国とは、いい加減さを寛容する国でもある。私がこの国に住み続けているのはスペインクオリティによるデメリットよりもメリットの方が大きいから。緩さが性に合っているのだ。

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J SPORTS 編集部

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