200人近い選手がいっせいに走りだし、20前後のチームがそれぞれの思惑に従って駆け引きを展開する。しかも天候や地形、道路状況、メカトラブルや集団落車の影響をもろに受ける――。こんな自転車ロードレース競技では、実力の高い有名選手が、常に勝つとは限らない。予想外の勝者は、いわば日常的に誕生する。

だからだろうか。ジャイアントキリングという言葉に、いまいちピンとこない。例えば今年のパリ〜ルーベでは、完全なる無印のマシュー・ヘイマンが、同大会4勝の大チャンピオン、トム・ボーネンをスプリントで下した。世界で5本の指に入る重要なモニュメントクラシック大会に、勝者として永遠に名前を刻みつけた。この文だけを見れば、立派なジャイアントキリングである。近年をざっと見ただけでも2011年ブエルタのフアンホセ・コボ、2012年ジロのライダー・ヘシェダル、2013年ブエルタのクリス・ホーナーと、事前に大穴選手としてさえ名前の上らなかったベテランたちが、グランツールの頂点に立ったこともある。たしかに、とてつもない番狂わせには、違いない。

しかし、彼らのタフさや勇敢さを賞賛はするが、奇跡の勝利や歴史的快挙と煽り立てることはできない。だって100年以上も前から同じような歴史は繰り返されてきたし、このシーズン中にも、何度だって同じようなジャイアントキリングを目撃することになるのだから。そしておそらく、彼らは2度と、同じ番狂わせを繰り返すことはない。

番狂わせのままで終わらせなかった選手もいる。もっとも「予想外」と騒ぎ立てたのは外野だけで、本人や親しい関係者たちは全く驚かなかったそうなのだけれど。

それが2011年ブエルタで総合2位に食い込んだクリス・フルームだ。第10ステージの個人タイムトライアルで区間2位に入り、チームリーダーのブラッドリー・ウィギンスを押しのけて、リーダージャージを着用した。「え、どうしよう。ボクがブラッドリーを倒したの?それは、つまり、ボクが悪いんだね……」と困惑した26歳の青年を見て、多くの自転車関係者も困惑した。「フルームって、誰?」と。

たった1日でウィギンスにリーダージャージを譲り渡すが、その後もフルームが、山岳アシストを誠心誠意務める姿は目撃された。しかし超がつくほどのエリートトラックレーサーにとって、スペインの山は勾配が厳しすぎた。欧州屈指の急勾配アングリルで遅れを喫し、第17ステージでウィギンスは完全に優勝争いから脱落した。一方その第17ステージで、後の総合覇者コボを相手にフルームは一騎打ちを繰り広げ、手に汗握るサスペンスの果てに山頂スプリントで区間勝利をもぎ取った。アマチュア時代に欧州ビッグレースで活躍した痕跡もなければ、プロ入り後だって南アフリカと日本という、いわゆる「自転車後進国」で1勝ずつ手にしただけ。そんなケニア生まれのイギリス人にとって、生まれて初めてのグランツール区間勝利だった。「どこからともなく来た者が勝った」、と欧州のメディアは書き立てた。

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