PP:ジャンプが決まる上で加点される=「失点がない」理由を、【ジャンプのフォーム】の面から伺います。アスリートには、まずは理想のフォームを目指して、それが身についてきたらフォームを意識せず力みなく動けるようにする、という段階がありますが、羽生選手は今まさに「理想のフォームで体が動いている」と思います。

澤田:毎回同じようなタイミングで同じように動けていますね。

PP:フォームも特別で、通常であれば「助走→踏切→回転→着氷」と分かれている運動が、助走から着氷まで連動して一体になっています。

澤田:そうですね、パキッパキッパキッというよりはスーーーーッと流れるように。

PP:この流動するフォームによってモーションが途切れず、「全体の流れ」「エフォートレス(簡単に行っている)」「高さと幅」「ランディング(着氷)の伸び」というジャンプ加点要件のクリア(8項目の内4つクリアでGOE+2の評価となる)にも繋がっていくと思いますが、どうやってこのフォームになっているのでしょうか。

澤田:例えば、羽生選手のトゥループだと、(1)左足で前向きに入ってきて(2)左足のスリーターン(後ろ向きになる)(3)(スケーティングレッグを)右足に替えて左足のトゥを突いてジャンプ、という手順です。その場合は、(2)のスリーターンをした後に、いったん腰を止めるためにモーションが停止することが多いです。(3)で左足のトゥを突こうとすると、どうしても体が左に流れて「(踏切の前に)回ってしまう」ので失敗になります。でも、彼は腰を止めなくても体が回らないぐらい『強靭な体幹』を持ってしまったのではないでしょうか。他の選手もそれが出来ないこともないと思うんですけど、試合だとリスクがあるので。停止したほうが確実に飛びやすくなります。

PP:町田樹さんに「ジャンプはガッツで回せ!転倒しても、回って基礎点を残せ」というアンソニー・リュウコーチの教えを伺ったのですが、羽生選手も踏切がうまく行かなかった場合はガッツで!回していると思います。それも体幹の強さでしょうか。

澤田:『軸が細い(=回転ピッチが速い)』こともあります。羽生選手のトゥループだと、トゥを突く時(踏切)に左腕を一気に開いて、後から右腕がついて来る。男子だとその体を締めるモーションでビュンッと回れる選手が多いです。スピンもそうなんですけど、「開いているものを閉じると加速する」んです(開くことがテイクバックとなる)。羽生選手は「閉じる」のもはやいですね。右腕を引きつけるはやさでさらに加速が出来ます。

PP:間合いのハヤサうまさを感じますね。

澤田:「このままでは失敗する」という場合でも、加速をつけられるので回れます。

PP:回った後降りるのにも、羽生選手が着氷で減点となる動作をこらえるのは「足首と膝の柔軟性を使って持ちこたえている」と以前解説して下さいましたね。

澤田:小さい頃から練習してきて身についた感覚ですね。例えば、空中姿勢によって「この傾きだったら絶対コケるから、なるべく肉の多いところで降りよう」とか、感覚的に受け身を取れるようになります(笑)回転して開く(降りる)モーションは6種類あるジャンプで全て同じなので、いかにそれぞれの入りを覚えて全種類同じように回れるか、という精度も関係していると思います。

PP:練習量が表れているんですね。

澤田:数を相当やっているんだと思います。

PP:【羽生結弦選手の演技を、どういうノリで見ればいいのか】、今皆さん分からなくなっているんじゃないかな、と思うんですよ(笑)

澤田:「どういうノリで」?(笑)

PP:NHK杯・ファイナルと急にグンッとはるか彼方まで行ってしまい……お知らせなくある日スペースシャトルが発射して宇宙に行っちゃった、みたいな。気持ちの準備が出来ていなくて、置いてけぼり感がすごいです(笑)

澤田:(笑)

PP:もちろん、この四回転5回の構成も、これまでコンディンション良く競技生活を送ることが出来ていたら、もっと前のシーズンに出来たと思いますが、11-12シーズンから怪我や病気もあって、ジャンプ構成はここ3シーズンでなかなか上げられなかったので。御本人は言われていないですが、状態が悪くならないように1試合1試合祈りながら……「その状態で出られるのか?」というコンディションの試合もありました。そんな中ソチ五輪で金メダルも取り、不撓不屈で頑張ってきたっていう、そんな羽生選手へのこれまでの想いをどうすればいいのか分からないというか(笑)

澤田:確かに(笑)

PP:演技についても、全選手が毎試合パーフェクションを目指している、それは分かるんですけれども、でも羽生選手はもう2回「これ以上ない」ことを果たしてしまって、これ以上何を期待すればいいのかと……。

澤田:(笑)私が見どころだと思うのは……羽生選手のプログラムは、音に振付が合っているんです。ジャンプも、入りのステップから着氷まで音に合わせています。今季のフリー『SEIMEI』にもその意識が強く見えるんですよ。

PP:ジャンプも含めて全てのエレメンツの加点要件になっている【音楽との調和(element matched to the musical structure)】ですね。ジャンプさえも、演技構成点の「(採点表の表記)IN(interpretation)」=音楽表現に使うという、別次元の取り組みになってきていると。

澤田:ジャンプ等のエレメンツ以外のところでも、振り向く動作であったり、プログラムを通して、小さい音まで彼は動きで見せています。それは何回演技を見てもほぼ誤差がないように感じるんですよ。会場だと小さい音までは聴えにくいんですけれども、今大会はアメリカのボストン開催なのでテレビで観戦される方が多いと思います。是非良い音響で、「この音に合わせてこの動きをしているんだ」と感じ取りながら見ると……羽生選手との一体感も出るのではないでしょうか(笑)

PP:(笑)ボストンワールドでようやく羽生選手に追いつけそうです!

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