メジャーでの日本人投手の好投が続いています。その中でも、田中将大、岩隈久志、上原浩治らの決めダマとして知られているのが「スプリットフィンガー・ファストボール」です。今回は、日本人投手と切り離せない関係にある、この球種の歴史的背景についてご説明したいと思います。

最初に述べておきたいのですが、「スプリットフィンガー・ファストボール」を省略する場合は「スプリッター(Splitter)」と表記・発音すべきで、日本のメディア関係者が活字や電波上でも「スプリット(Split)」としているのは感心しません。日本語では、複数の単語で構成される名詞句を省略する場合は、最初の単語だけ発音する場合があります。「携帯電話」を「携帯」、「コンタクトレンズ」を「コンタクト」と発音しても、日常の会話ではまず問題はありません。しかし、それが新聞記事などで活字になる場合やニュースでアナウンサーが発音する場合は、必ず「携帯電話」や「コンタクトレンズ」となっている筈です。したがって「スプリット」は正しくなく、省略するなら「スプリッター」と表記すべきです。

また、「かつての野茂英雄や佐々木主浩のフォークボールと混同されていないか?」という意見もあるかと思いますが、メジャーではフォークボールを投げる投手は極めて少ないこともあり、「スプリッター」と一括されることが一般的です。

さて、前置きが長くなりましたがスプリッターの歴史を振り返ってみましょう。

この球種の元となるフォークボールが考案されたのは20世紀初頭であったようですが、当時の投手のレパートリーとしては、速球と唾や異物を付着させるスピットボールが中心でした。ところが、1920年にスピットボールが禁止(その時点で投げていた投手は既得権として使用を認められました)され、1925年には反発力の強いライブリーボールが採用され、一気に投手不利となりました。これにより、変化球考案ブームが起こります。そして1950年代には投手コーチの配置が一般的になりました。

それらを背景に、長くお蔵入りしていたフォークボールが1970年代に復活します。当時、カブスのマイナーリーグのコーチだったフレッド・マーチンが、握りを浅くすることで「制球が難しい」「肘を痛める」などの問題点を緩和した「スプリッター」を考案し、ブルース・スーターに教え込んだのです。この球種を武器に昇格を果たしたスーターは、殿堂入りも果たす大投手に成長しました。

そして、これを1980年代前半に普及させたのは当時タイガースのコーチだったロジャー・クレイグで、彼の教えを受けたマイク・スコットは、それまでは平凡な投手でしたがこの球種で大変身。ノーヒッターを達成するやらサイ・ヤング賞を受賞するやら・・・彼のスプリッターはあまりにキレが鋭く、終始「スピットボールでは?」との嫌疑が付いて回ったほどです。

スプリッターの特徴はフォークボールほど大きく落ちない半面、制御が容易なことです。三振を取れずとも打者はボールの上部を叩き内野ゴロになることが多いため、クレイグはこの球種は「性行為に似ている」と言っています。「完璧ではない場合もそれなりにイイ」からだそうです。

いずれにせよ、スプリッターの習得で「大バケ」した投手は少なくありません。例えば、カート・シリングなどはキャリアの前半は平均レベル・プラス・アルファの投手で、年間200奪三振は一度もありませんでした。それが1997年に突如319奪三振を奪いました。翌年もジャスト300奪三振。一般的には、これはロジャー・クレメンスに「遊んでばかりいてはダメだ。精進しろ。」と諭されたことがきっかけとされていますが、訓話だけでは急成長できません。本当の理由はスプリッターを用いるようになったことです。

そんなスプリッターも1990年代に入ると廃れてきます。それは、やはり「肘を痛める恐れがある」とのことで、サークルチェンジというチェンジアップに取って代わられました。サークルチェンジもストンと落ちますが投げた瞬間から球速が遅く、スプリッターのように速球に見え急に落下するものではありません。日本人投手がスプリッターで大活躍しているのは、アメリカの選手がマイナー時代含め、この球種に対処した経験が少ないことも影響していると思われます。

最後に、スプリッターの亜流を紹介しておきましょう。それは、1998年のセーブ王(46セーブ)トム・ゴードン(ドジャースのディー・ゴードン二塁手の父)らが用いていた「フォッシュ・ボール(Fosh Ball)です。これはスプリッターの握りで投げるチェンジアップで、由来は「速球(Fast ball)と死んだサカナ(Dead Fish)をミックスしたようだから」という良く分からない説と、あまりにやっかいで「Full of S○○t(ウ○チまみれ)のようだから」という説があります。

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豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

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