「U-17ワールドカップは96ジャパンの展覧会。彼らがどこまで戦えるかが非常に楽しみ」と、吉武博文監督は10月1日にJFAハウスで行われたメンバー発表会見で自信のほどを伺わせていた。

2年前のメキシコ大会では94年生まれ以下の南野拓実(C大阪)、石毛秀樹(清水)、岩波拓也(神戸)、中島翔哉(東京V)らを率いてベスト8入り。その自信をひっさげ、指揮官は前回を上回る「ファイナリスト」という目標を掲げて96年生まれ以下の選手たちを指揮してきた。2012年9月に行われたAFC・U-16選手権(イラン)では、ウズベキスタンに惜しくもPK戦で敗れたものの2位で世界大会へ進出。その後の1年はさらに選手を見極め、入れ替えを図りながら、今回のUA大会への準備を着々と進めてきた。

吉武監督の採用する基本布陣は4-3-3。だが、杉本太郎(帝京可児)や杉森考起(名古屋ユース)らトップに入る選手はフリーマンの位置づけで、中盤に下がってビルドアップに参加し、最終的にゴール前に飛び出していく役割を担っていた。つまり、事実上の「0トップ」と見ていい形である。彼ら攻撃陣が流動的に動き、パスをつなぎながら主導権を握って攻める「バルサ流のスタイル」が、敏捷性や運動量という日本人の長所を一番出しやすい…。指揮官はそんな信念を持っているのだろう。

94ジャパンもバルサ流で世界に衝撃を与えたが、96ジャパンはそれをより研ぎ澄ました進化形といっていい。前回のチームにいた岩波や植田直通(鹿島)のような185儖幣紊猟洪帆手がおらず、今回は160〜170兮罎両柄なフィールドプレーヤーが並ぶ集団だっただけに、吉武監督はバルサ流をより押し進める必要があったのかもしれない。今大会の戦いを見た関係者からは「選手の動きがまるで機械のようにオートマティックだ」と声が出るほど、U-17日本代表の切れ味は鋭かった。

組織的な戦いを押し進める指揮官は、試合ごとに大胆すぎるほどメンバーを入れ替えた。昨年のAFC・U-16でMVPを獲得したエース級の杉本でさえも、スタメン出場したのは21日の第2戦・ベネズエラ戦だけ。18日の初戦・ロシア戦、24日の第3戦・チュニジア戦、そして28日の決勝トーナメント1回戦・スウェーデン戦はスーパーサブとして投入されていた。

「誰が出ても力の落ちないチーム」を吉武監督は目指していたし、選手個々の力の差はないという自信を持っていたのだろう。確かに21人の戦力でファイナリストまで勝ち上がろうと思えば、全員を有効活用しながら1つ1つの勝負をモノにしていく必要がある。それを本当に実践しようとしたのは勇気のあること。主力選手を固定化させたがる日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督とはまさに対照的だった。

そのスタンスで本当にベスト16を突破し、ベスト8、ベスト4と勝ち抜いていければよかったのだが、残念ながら結果は出なかった。スウェーデン戦ではボールポゼッション率が75%にも達しながら、相手の2つのカウンターに屈した。特に残念だったのが2失点目のGK白岡ティモシィ(広島ユース)のキャッチミス。それがなければ、相手が後半自陣ゴール前に強固なブロックを作ることもなかっただろうし、もう少し日本の攻撃陣もペナルティエリア内に侵入できただろう。1-1で延長までもつれこんでいたら、走力に勝る日本が走り勝っていたに違いない。それゆえに前半の戦い方が悔やまれた。

指揮官は選手たちをフラットに見て、前線に三好康児(川崎U-18)、杉森、永島悠史(京都U-18)を入れる決断をしたのだろうが、後半からの小川紘生(浦和ユース)、杉本、三好という並びの方が迫力と打開力があった。これも「たられば」の話だが、頭からこの3人を出していたら、日本が先制して勝っていた可能性も少なからずある。スウェーデン戦からは勝負のかかった一発勝負になるのだから、チームの核となる選手は少し固定して使う方ばベターだったかもしれない。今回に限っては指揮官の選手起用が裏目に出てしまったようだ。

こうして96ジャパンの挑戦は終わりを告げたが、大事なのは選手たちの未来だ。非常に組織的だったこのチームは「突出した個の力」が見えにくかった。杉本や小川らはいい味を出していたが、彼らが別のチームでどういう活躍を見せてくれるか気になる。そして三好や杉森らは2020年東京五輪の主力になる世代。今回の敗戦をバネにして大きな飛躍を遂げてほしいものである。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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