ぼくは、自分の体に入れ墨やタトゥーといった類いの彫り物を入れていない。単に、それらをファッションとして楽しむ世代に生まれなかったというだけのことなのかもしれないけれど、その他にも大きな理由は二つある。

第一にして最大の理由は、自分の飽きっぽい性格だ。一度彫り物を入れてしまうと、「龍には飽きたから虎に変えよう」というわけにはいかない。右肩に入れた桜吹雪は季節外れだから、新たに左肩に鯉の滝登りを入れようなどということになると、体中が騒々しいことになってしまう。他所の人が「誰某命」というような女性の名前を彫ったなんていう話を聞くと、他人事ながらソワソワして落ち着かない気分になる。

第二の理由は温泉だ。生来、出不精のぼくも、温泉に旨い酒となると、たちまち重い腰を上げる。日本では、入れ墨・タトゥーお断りの温泉は多い。入れ墨とタトゥーの違いはどのように定義されるのか知らないけれど、せっかく足を運んだ源泉掛け流しに入れないのはつまらない。ゆえに、そういったものに積極的に興味を持ったことは、これまでない。もしデイビッド・ベッカムが引退後の道楽として日本の秘湯巡りにはまりでもしたら、さぞかし大変な思いをするだろうなあ、と今からいらぬ心配をしてしまう。

しかし世の中、色んな人がいるもので、中には比較的気軽に、思いつきというか、勢いみたいなもので彫り物を入れる人もいるみたいだ。先週末デイリーメールに掲載された記事によると、とある熱心なリヴァプールファンの男が、今季マンチェスター・シティから移籍してきたディフェンダー、コロ・トゥーレのパフォーマンスを多いに気に入り、早速右足の甲に“KOLO TOURE”とタトゥーを入れたとのこと。

まあ、これだけでは勿論ニュースにはならない。何と、タトゥー職人がスペルを間違ってしまい、足の甲にバッチリ彫り込まれたその名前は“KOLO TOURO”だったのである。記事では、このタトゥー職人は「実は隠れエヴァートニアンだったのかもしれない」としているが、真相はどうあれ後の祭りである。何しろ、コロ・トゥーロと彫られてしまっているのだ。

この、悲劇なのか喜劇なのか今ひとつ判断に悩む話を聞いたこの男の知人がツイッターにあらましを投稿したところ、どうやらコロ・トゥーレ本人の知るところなったらしく、“信じられないね。俺、名前を変えようか”とリツイート(と言うのでしたっけ?)したらしく、更に続けてその哀れな男に会おうと持ちかけたばかりか、次に出場する試合では“TOURO”とプリントされたユニフォームを着ようかと申し出たのである。

男の傷心を僅かでも和らげようというコロ・トゥーレの気さくな気遣いは、その男の心ばかりか、世知辛い世の中をも多少温めてくれる。8月末のカップ戦で負傷退場し、その後はゲームから遠ざかっているコロ・トゥーレだが、戦列に復帰する際は、その背中にプリントされた名前に注目したい。

登録名と一字違いのユニフォームを着るのがリーグの規則に抵触するのかどうか知る由もないけれど、故意ではなく過失による間抜けなスペルミスは許されているようなので(マンチェスター・ユナイテッドのアンデルソンが“アンデスロン”とプリントされたユニフォームを着て試合に出たのは記憶に新しい)、過失という態で出場すれば“TOURO”でも問題ないように思える。もし、それが実現すれば、リヴァプールファンの間で、“TOURO”とプリントされたレプリカユニフォームが売れるなんていう事態に発展するかもしれない。そうなれば、この憐憫タトゥー男の受けた心の傷も更に癒されることになろう。

どうもツイッターというのは、面倒くさそうなイメージが先に立ってしまい、自身の怠惰から興味を持てずにいるのだけれど、こうして良心や人間味が運ばれるツールとして機能しているのを見ると、一面的な部分だけをピックアップして変に一般化するのは良くないなと自省の念を抱いたりする。まあ、そんなこと、言うだけ野暮なのかもしれないけれど。

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平床 大輔
1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」アメリカで過ごすも、1994年のアメリカW杯でサッカーと邂逅。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿。

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