ザッケローニ監督の意図は明らかだった。所属クラブで出場機会の少ない選手を先発させ、疲労のある選手は時間限定。そして、そういう制約の中で試してみたい選手もしっかり使った。本気で「試してみたい」のは、重要なワントップ候補の大迫勇也と柿谷曜一朗であり、センターバック候補の森重真人である。きわめて、ロジカル(論理的)なメンバー構成だったと言っていいだろう。日本とグアテマラでは、チーム力にかなりの差がある。予想通り、立ち上がりから日本がボールを支配してチャンスを作り続ける。グアテマラは5バック気味に守りに入るが、ゴール前での日本のポジションチェンジにマークがつききれず、人数をかけている割にはスペースもある。「守りを固めた相手に対する攻め方」。当然、日本はサイドチェンジを多用して、相手の守備の穴を作ろうとしたし、トップの大迫は何本かミドルシュートを放つ。

日本チームの「攻め方」もロジカルなものだった。ロジカルなメンバー構成で、ロジカルに攻めた……。だが、前半の45分間、結局ゴールは生まれなかった。試合としては、退屈な展開だ。日本チームは、守備にもかなり気を使っていた。なにしろ、このところ大量失点を続けていたのだ。グアテマラのような格下の相手に不用意な失点をしたりしたら、大きな批判を受けることは間違いない。とくにDFラインの選手たちは慎重だった。いや、チーム全体が慎重だった。そして、慎重すぎた。たとえば、サイドチェンジ。1本のパスでたとえば、右の酒井高徳から左の長友佑都にパスが渡る場面はほとんどない。ボランチの長谷部誠を経由して、左右にボールを動かすのだ。だが、そこでも長谷部は無理はしなかった。ボールを受けて、長友に(あるいは酒井に)パスを送るのだが、相手が対応しようとしているときには、必ずいったん最終ラインを経由しての展開となる。このため、せっかくサイドチェンジをしても、時間がかかってしまうために、相手の守備陣はズレながらしっかり対応することができる。「慎重さ」も、もちろん必要なのだが、「強引さ」もほしかった。そんな前半だった。

ロジカルに攻めたものの、退屈な試合になったのにもロジカルな原因があったわけだ。ちなみに、それだけ「気を使った」だけあって、守備はしっかりしていた。4人の最終ラインが、しっかりとラインを作って上げ下げをする。前線の選手も、しっかりと守備を行い、前線と最終ラインの連動もしっかりしていた。さて、こうして膠着状態を打開できないまま前半はスコアレスで終了。ザッケローニ監督は、後半の立ち上がりから柿谷と本田圭佑を投入した。もっとも、ザッケローニ監督自身も試合後に語ったように、これは膠着状態を打開するための交代ではなく、プラン通りの交代である。ただ、ワントップに大迫と柿谷を45分ずつ使おうというのであれば、「前半に柿谷、後半に大迫」でもよかったはずだ。だが、ザッケローニ監督は、後半に柿谷をプレーさせた。そこには、「柿谷は本田と同時に使いたい」という意図があったように感じられる。

それほど、柿谷と本田の関係は良好だった。前半が終了し、ピッチから引き上げるとき、本田と柿谷が2人で熱心に何事か話し込んでいる姿が印象的だった。あの時点で、すでに2人は後半から交代してピッチに立つことは分かっていたはずだ。後半が始まると、2人は、互いを十分に意識してプレーした。柿谷は、海外組も入った本格的なメンバーでの日本代表出場が、8月のウルグアイ戦に次いで2試合目である。宮城のウルグアイ戦では、柿谷本人が遠慮しすぎていたり、周囲の選手たちが柿谷の能力をうまく引き出せなかったりで、あまりフィットしたとは言いがたかった。だが、今回のグアテマラ戦。柿谷は、その能力の高さを示し続けた。先制ゴールが生まれた直後の51分。森重からトップの柿谷にくさびのパスが送られた(これも、いかにも森重らしいパスだ)。そのパスを柿谷はワンタッチで香川に落として、香川がドリブルで右サイドを突破した。

ワンタッチでのボールの処理。まさに、柿谷の真骨頂である。そして、その後も、柿谷はそういったワタッチプレーを何度も披露したし、周囲も柿谷の能力を十分に引き出した。代表実質2試合目で、これだけのプレーができれば、合格点以上だろう。たとえば、相手との競り合いの場面で、わざとスピードを落とし、相手の足を止めて勝負する。そんな余裕のあるプレーも見せた。72分に自陣深くからのカウンターでドリブルでしかけた場面があったが、最初は中盤に大きなスペースがあったのでボールを強く押し出してスピードのあるドリブルで持ち込み、敵陣深く持ち込んで相手のマークが集中してくると、足元にボールを置いて、スピードを緩め、相手のマークを引き付けてから本田にパスを送った。一つひとつのプレーに、そうした意図がこめられていた。守備の場面でも、相手にボールが渡ってしまうと、わざとマークの間合いを広げて相手に前を向かせてタイミングを見て寄せていく……。やはり柿谷という選手は「天才」と言っていいのだろう。

柿谷というポストプレーヤーの存在で、本田もプレーしやすそうだった。多少無理なパスでも、しっかりと収めてリターンを返してくれるという信頼感があるので、本田は早いタイミングでボールを柿谷に送ることができる。柿谷と本田のコンビネーション。これから、試合数を重ねていけば、日本代表の大きな武器となることは間違いない。こうして、日本代表は3-0と完勝。課題とされていた守備も最後まで綻びることはなかった。後半の30分には、ザッケローニ監督は香川を退けて、今野泰幸を投入。スリーバックに変更した。この交代の意図は、いろいろな解釈が可能だと思うが、僕は「久しぶりにこだわりの3-4-3にトライした」というよりも、森重を中央に置いた3バックの機能を試したかったのではなかったのかという気がする。森重はセンターバックとして、相手の攻めを堅実に跳ね返しただけでなく、ラインコントロールを統率していた。吉田麻也と森重の関係も良好だった。そして、最後の時間帯に、ザッケローニ監督は森重を中央に置いた右から吉田−森重−今野というラインをテストしたのだ。これがうまくいくようなら、最後の時間に守り勝つ展開のときに使えるオプションとなるだろう。

まあ、もっとも、この日の相手にはルイス・スアレスはいなかったのだから、無難な守備ができたとしても当然のことなのではあるが……。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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