大迫勇也のハットトリックで鹿島アントラーズが劇的な勝利を収めたスルガ銀行チャンピオンシップ。こう言ってはスルガ銀行さんには大変申し訳ないのだが、意義のよく分からない大会ではある。Jリーグ・ヤマザキナビスコカップの優勝チームと、南米連盟主催のコパ・スダメリカーナの勝者が対戦する……。必然性のまったくない大会だ。そして、出場チームは真夏の暑い時期に連戦を強いられる。鹿島アントラーズは、次の第20節ベガルタ仙台との試合を中2日で戦わなければならないのだ。いくら、鹿島や仙台が涼しい所だとしても、これは、リーグ戦のことを考えるときつい。

いや、ホームで戦う鹿島はまだマシである。対戦相手のサンパウロFCの場合、条件はさらに過酷である。ドイツで試合をしてから、8月3日にポルトガルでベンフィカとの親善試合を戦い、そのまま日本に移動という超強行日程。8日間で4試合目だそうだ。そして、帰国して2日後には公式戦、ブラジル全国選手権が始まるというのだ。そんな状況では、両チームともとても本気の戦いなどするはずはないと思われる。

ところが、前半、鹿島が2点を先行したこともあって、サンパウロも次第にギアを入れ直して、後半は本気モードで鹿島を圧倒。2−2の同点に追いつき、その後も何度もチャンスをつかみ、逆転の3点目が生まれるのも時間の問題かと思われた……。そんな矢先に、中央から柴崎岳が放ったシュートがサンパウロのDFに当たり、そのボールがさらに大迫に触れてコースが変化して決まるという幸運なゴールで鹿島に勝利が転がり込んだ。

後半は、本当に熱戦だった。じつは、このスルガ銀行チャンピオンシップ。「意外」と言っては失礼なのだが、毎年、かなり面白いゲームが見られる大会なのである。南米側が、かなり本気だからだ。昨年も、チリのウニベルシダード・デ・チレ(以下UDC)が来日して鹿島アントラーズと戦ったのだが、やはり2点を先制した鹿島に対して、UDCが追い上げ、2−2の引き分けからPK戦にもつれ込んで鹿島が勝っている。南米らしからぬ、堅固なチームプレーに徹したUDCが本気で戦っていた。この大会が熱戦になるのは、南米人特有の勝利へのこだわりのせいでもあろう。とくに、南半球の人々は北半球との戦いではつねに本気だ。

また、今年の場合は鹿島と縁の深いブラジルのサンパウロだったこともゲームが白熱する要因だったのかもしれない。なにしろ、鹿島の監督のトニーニョ・セレーゾは、サンパウロが初めてリベルタドーレス杯で優勝して、東京・国立競技場でのトヨタカップでバルセロナと戦ったときの中心メンバー。いわば、サンパウロのレジェンドの1人ということになる。そして、サンパウロの監督はパウロ・アウトゥオリ。こちらは、鹿島の元監督である。互いに知っている同士。「負けられない」という気持ちはさらに強くなったのだろう。「本気度」は、トニーニョ・セレーゾ監督の会見を聞いても分かった。トニーニョ・セレーゾは、会見室に現われると、一人で語り始めた。試合展開から、1人ひとりの選手の出来。交代の意図。さらに、大迫がPKを失敗した場面……。

鹿島は2−1と追い上げられた61分に大迫が倒されてPKを獲得。大迫が蹴ったものの、サンパウロのGKロジェリオ・セニにストップされた。だが、ロジェリオ・セニは明らかに大迫が蹴るより早く飛び出しており、レフェリーがやり直しを命じた。そこで、「やはりキッカーは交代すべきだ」とトニーニョ・セレーゾは考え、指示を出したそうだ。しかし、選手たちは大迫に再び蹴らせることを選択。2本目は、立ち足を踏み込んだところで芝生がめくれてしまい、大迫のキックはクロスバーのはるかに上を通過してしまった。

そんな、失敗の場面まで、トニーニョ・セレーゾは語りつくし、もはや記者団からは試合に関する質問は一つも出なかった。トニーニョ・セレーゾは、一発勝負のタイトルマッチだから、「堅実に試合をするように」と試合前から指示していたのだという。試合開始時のサンパウロの中盤は大きなダイヤモンド型。4人のうち、ガンソはトップ下というより、ほとんどFW的な位置取り。そして、ウェリントンを底に置いて、ロドリゴ・カイオとマイコンの3人がボランチである。それに対して、鹿島は小笠原満男と柴崎岳の2人ボランチ。その、中盤での数的劣勢をサイドハーフのジュニーニョと遠藤康がよく戻ってカバーしてくれたとトニーニョ・セレーゾ。監督がまず語ったのは、ハットトリックの大迫ではなく、中盤での守備だったのだ。

たしかに、前半の立ち上がり、かなり押し込まれた鹿島だったが、中盤で相手の攻撃をしっかりと受け止め、危ない場面は作らせず、逆に小笠原の大きく正確なサイドチェンジでチャンスを作ることによって、リズムを取り戻した。3−2の派手な点の取り合いの試合だったものの、トニーニョ・セレーゾ監督にとって何よりも嬉しかったのは、自分の指示通りに堅実な試合をして、中盤を支配できたことだったというわけである。そして、なんとジュニーニョは、この試合のために前節のJリーグ、大宮アルディージャ戦で温存していたのだという。トニーニョ・セレーゾにとって、このスルガ銀行チャンピオンシップは、リーグ戦で主力の1人を温存させてまで取りに来たタイトルだったというわけだ。

幸運も味方に付けてハットトリックを演じた大迫。そして、チームがリズムを取り戻してからは、センスの良い長短のパスを繰り出した柴崎の若手2人も活躍。着実に進歩している姿を南米の強豪相手にもしっかりと示してみせた。「すぐに代表定着」は難しいかもしれないが、2人が将来の日本を背負って立つ逸材であることは間違いない。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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