Photo:ロイター/アフロ

川崎宗則の今シーズンを語るとき、いい尽くされた、語り尽くされてきたフレーズでも、ついつい使いたくなってくる。「運も実力のうち」――。そして、それを今、存分に生かしてい る。

「命を燃やすに燃やしたい」と、ブルージェイズとの契約が決まったとき、31歳は胸の内を独特に表現した。そして、それを今、体現している。
師として仰ぐイチローがシーズン途中で去り、出場機会に恵まれぬまま、マリナーズから契約の意思がないことを告げられても、諦めることはなかった。ひと冬の間、福岡で練習を続けながらオファーを待った。声をかけたのが、ブルージェイズ。オープン戦も中盤にさしかかる3月12日のことだった。昨年のサイ・ヤング賞投手R・A・ディッキーを始め、ブルージェイズは球団史上最大といわれる規模の補強を敢行、シーズン前は最激戦地区といわれるア・リーグ東地区の本命に推す声も高かった。その補強の目玉がメジャー屈指の身体能力を持つといわれる遊撃手ホセ・レイエス。盗塁王を3回も獲得し、首位打者にも輝いているスター選手だ。アレックス・アンソポロスGMはいう。「川崎とはレイエスが故障した場合の保険的な意味合いで契約した」

当然、マイナー契約。スプリングトレーニングに合流したのが3月18日。調整遅れを心配された。だが、「昨年のうちから、すぐにでも試合に出られる状態にあった」と、いうのが彼の返答。信じ難いことだった。代役とはいえ、4月からレギュラーとしてプレーする姿など、とてもイメージできるものではなかった。
ところが――。レイエスが二盗を試みた際、左足首を捻挫してしまう。それも重度のものだった。開幕から2週間も経たない、4月12日のことだ。復帰はオールスター以降と診断された。ここでブルージェイズには次のような選択肢があった。現有戦力でのやりくり、トレードの仕掛け、マイナー選手の昇格。しかし、レギュラー三塁手のブレット・ローリーが故障者リストに入っていて内野手はすでに手薄状態。トレードも厳しかった。アンソロポロスGMは語る。「開幕直後はどんなチームも戦力がどのように機能するか判断する時期。トレードの仕掛けが最も難しいタイミングだった」

そこで、メジャー経験を持つ川崎に白羽の矢が立ったというわけだ。遊撃だけではなく、昨年は二塁も三塁もこなし、そのうえ緊急時の捕手としての練習もやったことがある。この使い勝手のよさが昇格の決断を後押しした。川崎は瞬く間にチームメイト、ファン、さらには地元メディアの心を掴む。常に、全力。予想に反して、開幕から躓き、最下位に低迷するチームの中にあって、そのエネルギッシュなプレーぶりとともに、笑顔を絶やさない明るさで、チームは活性化されていく。川崎は地元メディアに、こう語っている。
「ジョークや笑いが多すぎるといわれるかもしれないが、それが自分だ」

しかし、周囲はそのような捉え方はしていない。
「彼のエネルギーはチームとってポジティブに働いている。バントもできれば、盗塁もできる。彼は実にスマートな選手でもある」と、ジョン・ギボンズ監督。 ブルージェイズは長距離砲の並ぶ打線だ。ホームランは飛び出すが、反面荒いバッティングも目立つ。そんな中で、川崎は特別な選手となる。とにかく、よく粘る。5球続けてファウルを打ち、11球投げさせた挙句、フォアボールで出塁したこともある。ブルージェイズでは稀なことだ。その姿に、ファンが大喝采を送った。スタンドにはファンが「カワサキ・コーナー」という一角まで作った。あとは、結果を出し続けること。レイエスが戻ってくるまでの約2か月。運を手繰り寄せた川崎は「命を燃やすに燃やす」のである。

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出村 義和
法大社会学部、ユタ州立大学ジャーナリズム科卒。ベースボールマガジン社で週刊ベースボール編集長などを務め、渡米。ニューヨークを拠点に長年に渡って取材・執筆を行う。05年夏、拠点を日本に移し、日米間を往復しながら現地取材を続けている。09年からJ SPORTSでMLB実況中継の解説を務める。著書に『メジャーリーガーズ』(小学館文庫)など。スポーツジャーナリスト。

お知らせ

◆川宗則が所属するブルージェイズ戦放送予定!!
メジャーリーグ中継2013 ブルージェイズ戦 生中継予定
05月10日(金)08:05〜12:00 レイズ vs. ブルージェイズ J SPORTS 4
05月11日(土)08:05〜12:00 レッドソックス vs. ブルージェイズ J SPORTS 3
≫メジャーリーグ中継2013の詳しい放送予定

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