[写真]田中史朗 選手

あの風貌にだまされてはいけない。今季よりスーパーラグビーのハイランダーズに加入した田中史朗をよく知る人は、みな一様にそう口を揃える。もしかしたら入場券売り場で10歳下の年齢を申告しても通用しそうなベビーフェイスの裏には、類いまれなる闘争心が隠されているからだ。

京都市立伏見工業高校時代に田中を指導した高崎利明監督は、入学当時の田中の印象を「小学生が入ってきたような感じだった」と振り返る。洛南中でもラグビー部に所属していたものの、中学ラグビーが盛んな京都では決して名の売れた選手ではなかった。日本一を目指し多くの逸材も集う名門、伏見工業ラグビー部にあっては、必ずしもとびきりの存在ではなかったのだ。

「体も小さかったし、ホントにラグビーできるんかな、と。僕の中では正直、大きな期待をしていたわけではありませんでした。パッと見て光るところ?まったくなかった(笑)」(高崎監督、以下コメントは同)

2年生に上がった頃からSHのレギュラーとして試合に出場するようになったが、それでも「例年のSHに比べれば、能力的には普通かそれより下だと思っていた」と高崎監督は言う。そんな田中にとって転機となったのは、秋の花園予選決勝でライバル・京都成章に12−17で敗れた試合だった。

「あの時、フミの出来が悪かったんです。僕は何も言わなかったし責めてもいないけど、あいつは自分のせいで負けたと感じていた。その試合を境に、取り組み方が変わりましたね。新チームになってからは自分からすごく前に出てくるようになった。初めて本気で悔しいと思ったんでしょう」

そしてこの頃から高崎監督は、徐々に覚醒する田中の才能に気づき始める。

「新チームでスタートしてしばらくはいいペースでいってたんですが、あるとき急にうまくいかなくなったことがあった。それで原因をよく見てみると、フミのさばきが早くてFWがついていけてなかったんです。そのへんからですね、ああ、こいつは力があるな、と思うようになったのは」

同世代のSHには啓光学園の三井大祐(早稲田大→東芝)や、大阪工大高の吉田正明(関東学院大→豊田自動織機)、東福岡の和田耕二(法政大→トヨタ自動車)など下級生時から全国レベルで活躍する選手が多く、高校3年になって頭角を現した田中は、高校日本代表の候補合宿には招集されなかった。しかし冬の花園ではスピーディーな球さばきと鋭い出足の防御で伏見工を牽引し、チームはベスト4に進出。そのパフォーマンスがセレクターの目に止まり、同年のU19日本代表に選出され世界選手権にも出場した。京産大に進学した翌年はU19代表のキャプテンとして2年連続で世界選手権に出場、U19スコットランド代表を破る金星も挙げている。

外見からは想像がつきにくいが、学校生活では「まあやんちゃ坊主でした(笑)」(高崎監督)という田中。グラウンド以外では、他の先生からしょっちゅう怒られる生徒だったようだ。

「授業中に怒られても、『僕は卒業したら実家の農業を継ぐので、工業の勉強はいいです』と言い返したり(笑)。ラグビー部のコーチの松林拓が担任だったんですが、大変やったみたいですよ。でも練習は1年のときから熱心でした。負けん気が強かったし、すごく努力していた。そこで怒られることはなかったですね」

日本人初のスーパーラグビープレーヤーとして檜舞台に立った教え子の姿を見て、「野球で言えば野茂英雄がメジャーリーグに行ったのと同じ位置づけ。ものすごいことをやっていると思う」と称える高崎監督。「ただ残念なのは、あいつにそんなオーラがまったくないこと」と苦笑する一方で、日本ラグビーの新たな歴史を切り開いたパイオニアに対し、こんなメッセージを送る。

「SHというポジションだからこそ日本人が使ってもらえる部分はあると思うし、だからこそ海外のSHにはないものを見せてほしい。もうひとつ、今後はフミに続く人間がどんどん出てくるわけだから、スーパーラグビーでプレーしたというだけで終わらず、その後の人生をしっかり歩んでほしい。道を切り開いた人間としての責任が、あいつにはあると思っています」

いまでも時々ふらりと母校を訪れては、所属チームのラグビー用具や実家で収穫された野菜などを差し入れしてくれるという。トップ選手に成長した現在でも肩肘張らず、飄飄とした雰囲気はかつてのまま。それもまた、田中史朗の魅力のひとつと言えるだろう。そして、だからこそ今回スーパーラグビー入りが決まった時も、高崎監督は特別にお祝いをしたりはしなかった。

「ほめるとまたすぐ調子に乗りよるからね(笑)」

そう言って笑う高崎監督の声には、田中に対する敬意と愛情があふれていた。

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直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。

お知らせ

■スーパーラグビー 2013 〜南半球3カ国スーパークラブリーグ〜 放送予定■
04月19日(金)18:35 J SPORTS 1 生放送 第10節-2 #36 ワラタス vs. チーフス
04月20日(土)16:30 J SPORTS 1 生放送 第10節-3 #37 クルセイダーズ vs. ハイランダーズ
04月20日(土)24:00 J SPORTS 1 生放送 第10節-4 #38 シャークス vs. チーターズ

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