終了間際にデンプシーが決めた同点ゴールにより、劇的な幕切れとなった北ロンドンの大一番は、雪の舞うしとやかな風情とは裏腹に、熱のこもった印象深いゲームとなった。今季のプレミアリーグをリードするマンチェスター・ユナイテッド相手に、試合全体で考えてほぼドミナントといえるゲームを披露したのだから、(それがマン・ユナイテッドのゲームプランであったとしても)スパーズもたいしたものである。これが一過性的な勢いに過ぎないのか、それとも、とうとう新生スパーズが真価を発揮し始めたということの証明なのか、その辺は時間が経ってみないと見えてこないのかもしれないけれど、今のスパーズがなかなかなビッグディールであることだけは間違いあるまい。シーズン後半戦へ向け、ビラス・ボアスのチームは、楽しみの一つとしてカウントしておきたい。

そんな充実の雪中試合は、日本人ファンにとってはちょっと残念なゲームでもあった。終止苦戦を余儀なくされ、最後は背景の雪に消え入るかのようにしてルーニーと交代した香川の姿に無念を感じたファンも少なからずいたのではないだろうか。それも、サイドでの起用という、役不足なんていう言葉が思い浮かぶような不完全燃焼的フットボール観戦を強いられる起用法ではなく、堂々トップ下での起用であっただけに、その無念さもひとしおである。確かに先制点のシーンでは、中盤でボールをはたいてゴールに絡むことはできたが、その後は守備に追われるシーンばかりが目立った。チーム全体が守備に重心を置いていたので、それもまたやむを得ないところではあったのだけれど、代わって出てきたルーニーと比較してしまうと、フットボーラーとしての全体的なパッケージングやスケール感に於いて、香川はまだ見劣りしてしまう。

いや、ルーニーとて、この試合でなにをしたわけでもない。それどころか、チームはリードを守り切ることができず、結果的には同点ゴールを許している。しかし、それでも、ルーニーがピッチ上に存在し、ちょっとしたパス交換をするだけで、そこから浮かび上がるフットボールの絵図はスケール感を増すし、何か非日常的なシーンに遭遇できそうな予感は高まる(結局この試合では、そんなシーンには出くわさなかったが)。そんなルーニーの姿を見ていると、感慨がこみ上げてくる。それは、ルーニーに対するものではなく、ルーニーが君臨する環境で自身のレーゾンデートル(存在価値)という杭を打ち込もうとする香川に対するものである。リアルタイムでその香川の姿を追うことのできるフットボールファンは、まことにラッキーと言わねばなるまい。

香川が試合に出場すると、何かと引き合いに出されるのが、現地メディアのレイティングである。これは安直ではあるが、有効な情報だ。斯く言うぼくも、わりと小まめにチェックしている。一番お世話になっているのが、スカイスポーツの採点ページ。ここのは何しろ見やすい。全選手顔写真入りで(これは結構大きなファクターである)、タブを切り替えるだけで、レイティングから、分析、スタッツ、レポートなんかを行き来できるので至便である。スカイスポーツのレイティングは、もう随分前から日本でもしばしば紹介されているので、ファンの方々にはすっかり御馴染みになっているのではないだろうか。

>>スカイスポーツ、トッテナムvs.マンチェスターU戦のレイティングはこちら

ぼくがこのスカイスポーツのレイティングで最も感心するポイントは、採点そのものではなく、その横に添えられた寸評である。選手一人につき、単語2個から10個ほどのごく短い言葉で評価がくだされているのであるが、この寸評を読むのがぼくにとってちょっとした愉しみになっている。と言っても、ここに掲載されている評価の正確性を当てにしているとか、そういう観点から利用しているのではない。身も蓋もないことを言ってしまえば、10人いれば10通りのフットボール観があり、10通りの論評があるのであって、そもそも絶対的な寸評などというものは存在し得ないのである。

では、何が愉しいのか。その文字数の少なさである。90分プレイした選手(もちろんそうでない選手もいるが)を数個の単語で表現してしまおうという、その大胆かつ無謀な試みが面白い。限られた単語数の中で的確な説明が求められる状況にあって、寸評の筆者は稀に説明文的な語句を離れ、読者の想像力を働かせるべく、時に詩的に、時に叙情的に言葉を綴っているのである。小の言葉で大の効果を生む。これは、俳句や川柳に近い世界観である。スカイスポーツのレイティング・サイトでは、なるほどねえ、と思わせつつ、広がりのある表情豊かな語感の寸評とたまに遭遇することができる。

ちなみに、スパーズ戦の香川の採点は6点で(スターティングメンバーでは最低点)、「闘志盛んながら、カードをもらわなかったのはラッキーだったか」という寸評が添えられている。確かに、際どいシーンがいくつかあった。レフェリーがクリス・フォイでなかったら、カードが出されていただろう。ただ、的を射た意見ではあるが、寸評としては面白味に欠ける。文全体がきちっとした箱に収まっており、言葉が閉じられている。同じユナイテッドの選手で思わず笑ってしまったのが、この試合で4点という最低点を与えられてしまったヴァレンシアで、こちらは“No impact(インパクトなし)”と単語二つでバッサリと袈裟懸けに切られている。同じ閉じるのでも、ここまでピシャリと閉じられていると、逆に歯切れが良くて気持ちが良い。

スパーズ側はどうか。同点ゴールを決めたデンプシーは7点で、「終盤のゴールまではそこそこの出来」と評されている。まあ、その通りである。寸評として、特筆すべきところはない。これに対し、ちょっとした技巧を感じさせたのがデフォーに対する寸評で、「いつもの切れ味を欠いた」と短く評されているのだけれど、“切れ味”を意味する“cutting edge”という言葉には“最前線”という意味合いも含まれるので、暗にアデバヨル不在によりスパーズの前線の切っ先が鈍ったことを仄めかしているのでは、と思わず穿った見方をしたくなってしまう。

一番悪かったのが、5点で“Kept things simple”と評されたハドルストーンの寸評。これは、直訳すると、「物事をシンプルに保たせた」ということになるのだけど、書き手の真意を酌むと、「余計なことはしなかった」と解釈するのが正解なのではないかと思う。そうなると、5点という採点も説得力を帯びてくる。ぼくも、普段からつい余計なことをしてしまいがちなので、この“Keep things simple”という言葉が自分自身に向けられているように感じられ、胸に響いた。

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平床 大輔
1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」アメリカで過ごすも、1994年のアメリカW杯でサッカーと邂逅。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿。

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