まさに、「清武マジック」だった。と言っても、あの日本代表の清武弘嗣のことではない。清武弟、福岡大学4年の清武功暉のプレーのことである。

全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)の準決勝、福岡大学は関西学生リーグ優勝の阪南大学と対戦した。1回戦で桃山学院大学に勝利した後、福岡大学の乾真寛監督は「次は明治大学が来てくれればいい」と言っていた。福岡大学は、3年前にこの大会で決勝に進出しているものの、エースの永井謙佑がフル代表に招集されて出場できずに敗れて、準優勝に終わってしまっている。その時の対戦相手が明治大学だったから、「そのリベンジをしたい」と言うのである。そして、「その後は阪南大学が来てくれればいい」と乾監督。阪南大学とは今年の夏の総理大臣杯で対戦し、2-2で引き分け、PK戦で敗れているのだ。だから、明治、阪南を倒せば、「いっぺんにリベンジができる」というわけである。

そして、福岡大学は準々決勝で明治大学を倒し、思惑通り、準決勝で阪南と対戦することになった。ところが、キックオフ直後から、風上を取った阪南大学が猛烈な勢いで福岡大学に襲い掛かった。そして、27分、CKからのこぼれ球を神門拓弥が強烈に叩き込んで、夏の大会と同じように阪南大学が先行する展開となったのである。

福岡大学にとって、風下の前半は我慢の展開だった。しかも、1回戦で足首を傷めた影響でエースの清武(弟)はベンチスタートだった。福岡大学は、大学ナンバーワンDFの牟田雄祐(187センチ)をはじめ、長身選手が揃ったチームだ。前半33分から出場した山崎凌吾(186センチ)を含めれば、フィールドプレーヤーだけで185センチ以上が4人である。そうした、フィジカル的に優れた選手が多い中で、清武は最もテクニックがあり、技巧的なドリブルがうまいし選手だ。また、兄の弘嗣と同様に、遠いサイドのスペースを使う柔らかなパスも持ち味だ。周囲にフィジカル的に優れた選手が多いだけに、清武の存在はこのチームで大きなアクセントになれる。

その清武が不在で、前半の福岡大学はカウンターの形も作れず、前半はシュートがゼロに終わっている。もっとも、阪南大学の方も、45分間押し気味の試合を続けながら、牟田と大武峻(187センチ)の福岡大学が誇る大型ストッパーを突破できず、シュート5本、得点1に終わってしまったのだ。

前半の試合展開は、たしかに阪南大学が圧倒的に優位だった。だが、その阪南大学が1点しか取れなかったこと、前半の阪南大学は明らかに飛ばしすぎだったこと、そして、後半は福岡大学が風上に立つことを考えれば、試合がそのまま終了するとは思えなかった。問題は、清武がどの程度プレーできるのか。どの時点で清武を投入してくるのか、だった。

乾監督は、後半のスタートから清武を入れることも考えたという。だが、「とりあえずは、岸田和人と山岸の大型ツートップで押し込んでから」と考えて、清武投入のタイミングを図ることにしたという。じっさい、後半の立ち上がりこそ、風下に回った阪南大学が勢いを持続したように見えたが、次第に福岡大学が押し返す、そんな展開となった。そして、57分、満を持して、清武が投入された。

清武は4-2-3-1の左MFに入ったのだが、交代直後、まだ本来の左サイドに移動する前に右サイドでボールがタッチを割って、福岡大学ボールのスローインとなった。そして、そのボールを清武が拾った。そして、清武がロングスローを入れると、大武がヘディングで落とし、飛び込んだ田中智大が倒されて、福岡大学にPKが与えられた。清武のファーストプレーが、このロングスローだった。そのPKを岸田が決めて、まずは同点。

さらに62分には、左サイドでドリブルをしかけた清武からのボールを岸田が足で合わせてゴール右隅に流し込んで逆転すると、さらに65分には右サイドで山崎がボールを奪い、田中が岸田とのワンツーを決めて、3点目。福岡大学はなんとわずか6分間(清武が投入されてからなら8分間)で、3点を奪って大逆転。その後の阪南大学の猛攻を最後は5バックにして守りきり、見事、夏の大会のリベンジを果たしたのである。

1点リードしながらもまったく慌てず(夏の大会では2点リードされてから追いついた実績もある)、しっかりペースを取り戻したところで、清武を入れてリズムを変え、一気に3ゴール。見事な逆転勝利だった。それも、思い描いていたとおりのシナリオによる逆転だった(もちろん、本当のシナリオは風下の前半を無失点で切り抜けて、後半のどこかで山崎、清武を投入しての勝利だったのだろうが……)。

大学選手権は準々決勝で関東勢3校が破れてしまう波乱の展開となった。とくに、前年優勝校であり、今年も関東大学リーグで連覇を果たしている専修大学が敗れたのは大きな驚きだった。しかし、関東勢で唯一残った早稲田大学は準決勝第2試合で鹿屋体育大学を5-0と一蹴。2013年1月6日に東京・国立競技場で行われる決勝は、早稲田大学対福岡大学という顔合わせとなった。

明治大学、阪南大学に勝って、思惑通りにリベンジを果たした福岡大学。名門中の名門、早稲田を倒して大会初優勝を狙うことになる。2週間後の決勝戦には、清武弟も万全の状態で復帰するはず。質実剛健同士のぶつかり合いが予想されるが、そんな中で清武が意外性溢れるプレーを見せてくれれば、福岡大学の優勝もありうる。九州という地方リーグ所属の大学が優勝すれば、これは間違いなく「快挙」であろう。聞けば、ラグビーの大学選手権では、関西勢が弱体化し、関東勢が圧倒的に優位にあるらしい。それに対して、関東、関西以外にも強い大学が多数存在するというのは、これは日本のサッカー界にとっては大きな財産と言っていいだろう。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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