日本中を熱狂と興奮の渦に巻き込んだロンドン五輪。4位に入った男子サッカー代表を力強く牽引したのが、類稀な得点感覚を持つアタッカー・大津祐樹だった。世界王者・スペインから大金星を挙げる原動力となったシュート、そして準決勝・メキシコ戦でのワールドクラスのゴールに魅せられたファンも多いことだろう。

その大津がボルシアMGからVVVフェンロに新天地を見出したのは8月末。夏の移籍期限終了間際の出来事だった。すでにエールディビジは開幕していたが、吉田麻也のサウサンプトン移籍など昨季までの主力数人が去ったこともあり、トン・ロストフ監督のチーム作りは難航。VVVは予期せぬ苦境を強いられていた。

それだけに大津に寄せられた期待は大きかった。「祐樹は得点感覚が非凡だし、スピードある突破もできるいい選手」と認める指揮官は当初、ジョーカーとして彼を起用していたが、10月21日の第9節・フェイエノールト戦でついに初スタメンに抜擢。右アタッカーとしてピッチに送り出した。

移籍5試合目にして待望の先発の座をつかんだ大津は攻撃の起点になりつつ、2点目をお膳立てする活躍を見せた。ところがチームは2-0から2-3に逆転され、またも今季初勝利を逃してしまう。大津本人も「自分の力が足りない証拠」と悔しさをむき出しにした。

そんな彼のもとを訪ねて今回、インタビューを試みた。オランダという新天地でもがき苦しみながらも成長を続ける22歳の若き点取屋の胸中に迫った……。

■オランダに求めた新天地「サイドにいる自分は勝負しやすい」

――まずロンドン五輪後、VVVフェンロへの移籍した経緯を簡単に伺えますか?

「移籍のことはあまりコメントできないんですけど、五輪前からボルシアMGには残る意思がないことを伝えていました。僕自身、出場機会が大事だと強く思っていたし、フェンロに行って試合に絡めることは自分にとってプラスだと考えました」

――五輪のチームメートだった吉田麻也(サウサンプトン)選手の存在もあって、VVVのことはよく知っていたのでは?

「情報は入ってました。実際、来てみるとユニフォームが黄色と黒で『ああ、柏レイソルっぽいな』と(笑)。スタジアムの雰囲気も似てるなと思いましたね。フェンロの町も過ごしやすいです。みんな『フェンロは小さい』って言っていたからどうなんだろうと思ったけど、駅前にちゃんと町があるし、たまにドイツからレイソルの元チームメート・酒井宏樹(ハノーファー)が訪ねてきたりもして結構、快適に暮らしてますよ」

――オランダのサッカーはドイツとどういう部分が違うと感じましたか?

「ドイツの場合は堅実に守るのがベースで、オランダは攻撃重視。タテに速いですね。サイドにいる自分も勝負はしやすい印象です。ただ、攻撃で人数をかける分、どうしても守備の方はリスクが大きくなる。でもサッカーというのは国によってやり方も違うし、その国のやり方をうまく生かしながらやることが大事だと思ってます」

――大津選手が移籍した8月末の時点で、VVVは1分2敗と低迷していた。そこで自分はどのようにプレーしようと考えていたのですか?

「トン・ロストク監督に『僕は真ん中でも右も左もできます』と言ったこともあって、途中出場の時は左右両方のサイドで起用されました。負けている時間帯の投入が多くて難しさはあったけど、短い時間でも点に絡んで結果を出すことだけを考えてました。今季のVVVは失点が多いけど、それなら僕ら攻撃陣が3点4点取って勝つしかない。そのくらいの気持ちでチームを引っ張っていこうとね」

――そうなれば理想的ですけど、今季のVVVは得点力不足がかなり深刻ですね(9試合終了時点で通算得点は9)。個人で2点以上取っているのは、FWのウチェ・ヌウォフォル(9番)とセンターバックのマルセル・セイプ(19番)の2人だけですが。

「タテタテに急ぎすぎちゃうところがあるんで、もう少し時間を作りながらつなぐことをしないといけないと思います。自分もつなぐ起点にならないといけない。ボールを落ち着かせる役割というのは大事ですね。ロンドン五輪の時なんかは、みんな近くでボールを受け合って連動してた。そういうイメージに近づけたらいいんですけど」

――そういう話をするためにも、コミュニケーションが大切になりますね。

「コミュニケーションが大事なのはよく分かってます。試合中にはつねに自分の意思を伝えようとしてるし、相手が言うことも理解しようとしてる。サッカーは言い合わないとうまくいかない。それはドイツだろうが、オランダだろうが、どこにいても同じです。言葉に関してはこっちに来て英語の勉強を始めたところ。ちょこちょこ意味も分かるし、まあ、スムーズにやってます」

■初先発もチームは逆転負け「失点が多いなら点を取るしかない」

――9月15日の第5節・NEC戦でオランダリーグデビューを飾ってから4試合は後半途中からでしたけど、10月21日の第9節・フェイエノールト戦でようやく初先発。4-2-3-1の右MFでフル出場を果たしましたね。

「もともといいコンディションを維持していたんですけど、インターナショナルブレイク中の練習試合で90分出て結果も出したんで、監督が使ってくれたんだと思います。スタメン起用される前から相手の出てくるタイミングが分かるようになってきてたし、ドリブルの仕掛けも通用すると思ってた。そういう自分の長所をどんどん出したいと考えていました」

――そのフェイエノールト戦で、VVVは前半の早い時間帯に2点を取りました。大津選手も右サイドバックのフース・ヨッペン(24番)の2点目をアシストしましたね。

「前半はいい形で攻撃できていたし、僕自身もタイミングよく仕掛けられていたと思います。アシストした場面もオランダリーグの感覚に慣れてきたから、フースにうまくパスを出せたと思う。フースとはお互いボールを持った時にサポートのことは言い合ってるし、俺を動かしたかったら指示をしてと言っているんで、いい関係を築けているのかなと感じてます」

――非常にいい入りをしていたのに、前半終了間際の不可解な判定によるPKで1点を返されて歯車が狂い始め、後半開始直後にも2失点目を献上。最終的に3点目を取られて逆転負けという信じがたい結末になりました。

「失点した時、周りを見ると、もう負けたかのような顔をしている選手がすごく多かった。勝てていないチームはそういうネガティブな雰囲気になりがち。J2に降格した時のレイソルもそうでした。VVVというクラブは『ここでアピールしてビッグクラブに羽ばたいてやろう』と考える選手が多い分、バラバラになりがちな部分もありますよね。だけど、そんなマイナス面ばかり見ていても何も解決されないし、3点取られるんだったら4点5点取ればいい。自分も3点目のチャンスがあったし、シュートを外してる。そういう課題を克服していくしかない。自分が結果を出せばチームを勝利に導くことができるし、僕自身もいい方向に行く。そう思ってます」

――確かにVVVは本田圭佑選手がCSKAモスクワ、吉田選手がサウサンプトンへ行ったように、「若手のステップアップの場」という色合いの強いチーム。その分、個々のエゴが出やすいですよね。フェイエノールトの3点目につながった後半19分のヌウォフォルの強引なシュートなどはひとつの象徴。彼にパスを出した大津選手がいい位置でフリーになっていたのに、ボールは来なかったですね。

「その場面のことをウチェに『なんでパスを出さなかったんだ』と聞いたら『ずっとボールをもらえなくて、フラストレーションがたまっててシュート打っちゃった。ごめんな』と言ってましたね(苦笑)。でもウチェのシュートは決まってた可能性もある。もちろん自分に出してくれたら決めてやるという気持ちはありましたけど、彼の判断に関しては決してネガティブには捉えてません。一番ダメなのは、あの中央の位置からのシュートが失点に結びついたこと。そこは修正しないといけないし、絶対にあんな状況を作っちゃいいけない。あの失点がウチェのせいになるんなら、FWはシュートなんか怖くて打てませんよ」

――確かに試合中に大きなスペースがポッカリできたり、DFの寄せが甘くてシュートを打たれるようなシーンがあって、守りの不安定さが随所にうかがえました。

「守備のことは監督も指示していたし、後ろの選手たちも分かってると思います。その問題を抜きにして、チームが勝つためにはどうしても得点が必要。失点がすごく多いなら、その分、点を取るしかない。ディフェンスラインが助けてくれる試合もあるわけだから、僕は結果にこだわるしかない。得点も大事だし、アシストとかゴールに絡むプレーを増やすことですね。そういうチャンスの回数が多くなれば必ず勝てると思います」

■現状をポジティブに捉える大津「ネガティブな要素はひとつもいらない」

――大津選手はロンドン五輪代表でもゴールという結果で自分の存在価値をアピールしてきました。その経験は大きいのでは?

「五輪のことはもう終わった話。あの大会はドイツで1年間やってきたことが全てだったし、大津祐樹の人生の通過点でしかない。自信になったとかも特にないですね。とにかく今はVVVでやってるから、1試合1試合勝つことに集中していきたいです」

――本田選手、吉田選手のように大津選手がVVVで活躍し、より大きな舞台に飛躍することを多くの人々が期待していますが。

「先のことは考えてないです。VVVの選手は確かにそういう例が多いけど、今はまだ1勝もしてないし、何も言える立場じゃない。まずは活躍してチームを勝たせるところからだと思います。VVVは今、最下位だから、絶対に1部残留させるつもりでやっていきます。ひとつ勝利できれば、きっと流れは変わる。監督も自分のゴールを期待してくれてるのは分かってるんで、それに応えられるように頑張ります」

――大津選手はどこまでもポジティブですが、その原動力は?

「ネガティブな選手は上に行けないと強く思うから。自分が今までサッカーをやってきてネガティブな要素はひとつもいらないなと感じています。もちろん自分だって試合に負ければネガティブになることもある。そうじゃない人間はいませんからね。だからこそ、気持ちを切り替えて次に向かうことが大事なんです。今の自分はやっとフル出場して、チームにもフィットしてきたところ。これからも前を向いてやっていきますよ」

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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