久しぶりにFC東京の試合を見に行ったら、ランコ・ポポヴィッチ監督に「しばらく来なかったじゃないか」と叱られてしまった(はい、これからちょくちょく行きます)。

そう、たしかに久しぶりだった。J1第24節のFC東京対横浜F・マリノス戦である。9月に入ったこの日、東京に雨が降ったのも久しぶりだった。おかげで気温が下がり(キックオフの時点で約25度)、そのせいか両チームとも動きは良かった。夏場はいつもそうだが、味の素スタジアムの芝生は張り替えたばかりで根付いていないので柔らかい。かなりやりにくかったはずだが、両チームともそういう影響をあまり表に出さず、最後まで走りきった。

試合は、前半、中澤佑二のミスをルーカスが引っ掛けてFC東京が先制(ゴールは、田辺草民)。その後、横浜が反撃に出る時間帯もあったものの、FC東京が終始試合をコントロールして、結局、3−1でFC東京が快勝というゲームだった。面白かったのは、FC東京が3バックを採用していたことだった。もっとも、ポポヴィッチ監督自身が「他のチームの3バックに比べれば、われわれの3バックはより攻撃的なはず」と言ったように、最終ラインからパスをつないで攻めるというFC東京が今シーズン一貫して目指しているスタイルやコンセプトには変化があったわけではない。

最終ラインは(右から)加賀健一、高橋秀人、森重真人。右に徳永悠平、左に椋原健太が高い位置に張っている。最近おとなしくなってしまっていた徳永だが、オーバーエイジ枠でオリンピックに参加したことが刺激になったのだろうか、すっかり元気を取り戻しており、横浜戦も正確なクロスでルーカスが決めた2点目をアシストした。この試合で僕が注目したのは、3バックのセンターに入った高橋のプレーだった。高橋は、Jリーグ全体を通じて今シーズン最も進境著しい選手の1人で、高橋と長谷川アーリアジャスール、そして長期離脱から復帰した米本拓司の3人のセントラルMFの存在がこのチームの核になっている。中央の安定があるからこそ、攻撃的サッカーが展開できるのだ。

高橋は、日本代表にも招集されている。まだ、出場機会はそれほど与えられていないが、すっかりメンバーには定着。9月11日のイラク戦に向けても招集されている。この数年、遠藤保仁と長谷部誠ですっかり固定された日本代表のMFは、そろそろバックアップあるいは次世代の成長を考えないといけない時期だが、細貝萌らとともに、高橋も「ポスト遠藤、ポスト長谷部」を狙える位置にいると言える。

FC東京では、セントラルMFに余裕があるせいもあって、高橋は守備的MFとしてもセンターバックとしても起用されている。この日の横浜戦では3バックのセンターというポジションにあって、守備能力の高さを存分に発揮していた。マルキーニョスあたりとの1対1のマッチアップでもまったく負けることなく、高い打点のヘディングのクリアなどは見事なものだった。3バックのセンターに、MFとしてもプレーできる高橋が入っているということは、高橋がラインから離れて前に出て、徳永と椋原が下がってサイドバックになれば、すぐに4バックに変更することができるということでもある。

そこで、たとえば米本か長谷川あたりをはずして、前線の選手を入れることもできる。いや、選手交代をしなくても、試合の流れによって3バックと4バックを自由に使い分けることも可能になる。長谷川は攻撃的MFとしても、あるいはFWプレーできるからだ。そういうことができるようになれば、FC東京の戦術的な幅はだいぶ広がるはずである。あるいは、MFもDFもできる高橋なら、3バックの最終ラインより一段高い位置に置いて、「フォアリベロ」としてプレーすることもできる……。

最終ラインの後ろで守備に専念するリベロ(英語や日本語では「スイーパー」が守備専門、「リベロ」は攻撃に出る選手という使い分けがあるが、イタリア語では守備専門の選手も「リベロ」と言う)ではなく、ラインの前にいてラインの前で相手のパスをカットし、攻撃の起点にもなるのがフォアリベロだ。日本では、馴染みのないポジションだが、かつて浦和レッズでギド・ブッフバルトがフォアリベロをやっていたことがある。そんなことを考えながら試合を見ていたのだが、結局、最後まで高橋が「3バックのセンター」というポジションから離れることはなかった。

そこで、試合後の記者会見でポポヴィッチ監督に「高橋はDFとMFのどちらに適性があるのだろうか?」と質問してみた。そうしたら、「まだ、プランの段階なのだが」と前置きして、ポポヴィッチ監督も「4バックのときのフォアリベロが合っていると思う」と言うのだ。自分もやっていたポジションだし」と、ポポヴィッチ監督。そう、かつてイビチャ・オシム監督の下、グラーツがチャンピオンズリーグに挑戦した時代に、ランコ・ポポヴィッチは3バックのセンターをやっていた。スイーパーではなく、フォアリベロ。ラインと協力して、ボールを奪うとすぐに攻撃のスイッチを入れる、そのキーパーソンがポポヴィッチだった。

「今シーズン中には、高橋秀人のフォアリベロを試すことはできるか?」と尋ねたところ、「トライしてみる」とのこと。これは、今シーズンの楽しみではある。今後、カップ戦などでテストされるのではないだろうか?

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授