現地時間29日(日本時間30日未明)に行われた関塚ジャパンのロンドン五輪第2戦・モロッコ戦。後半39分に歓喜の瞬間が訪れた。

相手守護神・アムシフのロングキックを鈴木大輔(新潟)がヘッドで落としたボールをハーフウェーライン付近で清武弘嗣(ニュルンベルク)がキープ。相手ディフェンスライン裏を突こうと伺っていた永井を見逃さず、前線に絶妙のタテパスを送った。これに反応した永井は、寄せてきたGKの位置を見ながら右足で浮き球のシュートを放つ。次の瞬間、ボールは無人のゴールに吸い込まれていった。清武のパスも、永井のシュートも技ありとしか言いようがない。日頃、感情を表に出さない関塚隆監督が飛び上がって喜びを爆発させるのも当然だった……。

この得点パターンこそ、関塚ジャパンがチーム発足当初から最も得意としていたものだった。思い起こすこと1年9カ月前の2010年アジア大会(広州)。チーム発足直後のこの大会で、永井は50m5秒8の快足を前面に押し出し、相手の裏を取ってゴールを次々と奪った。大会得点王に輝いた彼がロンドン五輪代表のエースになるのは当然のなりゆきだと多くの者が信じて疑わなかった。

しかし、福岡大学から名古屋グランパス入りした永井はプロの壁にぶつかった。ケネディや玉田圭司らがひしめく選手層の厚い名古屋では思うように出場機会が得られず、昨シーズンの夏以降は完全にスーパーサブに位置づけられた。福岡大学時代の恩師・乾真寛監督も「サッカー選手として一番伸びる時期なのに、公式戦でプレーする時間が少なすぎる。このままの状態が続くようだとかなり心配だ」と懸念していたが、案の定、永井のキレとゴールへの嗅覚が鈍り、五輪代表でもジョーカー的に使われるようになる。いつの間にか看板的存在は清武や大津祐樹(ボルシアMG)に取って変わられ、本人も複雑な表情を浮かべることが多くなった。

今年2月のシリア戦(ヨルダン)で値千金の同点弾を奪い、再び存在感を高めたと思われたが、この試合に敗れたこともあって、続く2月のマレーシア戦(クアラルンプール)、3月のバーレーン戦(東京・国立)も控えに回された。何とか予選突破を決めた後も「五輪に行けるかどうか分からない。まずは名古屋で定位置を取ることから始めないといけない」と厳しい口調で語っていた。普段から穏やかでノホホンとしている永井がこんな発言をするのは異例である。それほどまでに本人も強い危機感を感じていたのだろう。

5月のツーロン国際トーナメントもアジアチャンピオンズリーグのために招集されなかったため、それも五輪本大会行きには不利な要素になると見られた。同時期に行われたブラジルワールドカップアジア最終予選に同じ快足をウリにする宮市亮(アーセナル)が抜擢されたこともあり、一段と永井の立場は難しくなった。もちろんザッケローニ監督と関塚監督の視点や要求は異なるが、五輪代表には「A代表へのステップ」という意味合いもあるだけに、すでにA代表に抜擢された選手を呼ぶべきという考え方もある。永井は今季Jリーグではコンスタントに結果を出すなど絶好調ではあるが、これまでの流れなどを加味すると、本大会メンバーから落とされることもありえる…。そう筆者は見ていた。

だが、永井はこうしたネガティブな見方を自らの力で跳ねのけた。キッチリとメンバー入りを果たしただけでなく、レギュラーの座を奪回。本大会に挑む攻撃陣の重要なピースであることを認めさせたのだ。実際、7月11日の壮行試合・ニュージーランド戦(東京・国立)の好調ぶりも光っていたし、前線から凄まじい運動量で相手を追い回していた。その守備力とスピードを生かした飛び出しは確かに今のチームに必要不可欠だ。実際、そんな彼の個性にスペインもモロッコも大いに手を焼いた。あれだけ献身的に走ってプレスをかけに行き、凄まじい勢いでゴールに向かっていくFWはそうそういない。永井は五輪という大舞台で改めて自身の存在意義を示したのである。

モロッコ戦の決勝点の右足に合わせたシュートに象徴されるように、永井は課題といわれたスキルの方もかなり改善されている。それもJリーグでコンスタントにプレーしている成果だろう。「サッカー選手は試合をこなすことが一番の成長につながる」と語る関係者は多いが、まさに彼がそれを実証している。今大会を経験し、永井がどこまで化けるのか一段と楽しみになってきた。

モロッコ戦の勝利はもちろん彼ら攻撃陣のみならず、守備陣の奮闘による部分が大だ。酒井宏樹(ハノーファー)の代役を務めた酒井高徳も非常にいい働きをしたし、権田修一(FC東京)や吉田麻也(VVVフェンロ)も最後の危ない場面で鋭い反応を見せ、チームを窮地から救った。そんな安心材料があるのは指揮官にとっても心強いはずだ。

今後も攻守両面でいいバランスを保てれば、準々決勝を勝ち上がって4強入りできる可能性も広がる。そのためにも、まずはコンディション回復に努めてほしい。8月1日の第3戦・ホンジュラス戦は「1位通過を目指す」と関塚監督は語ったが、メンバーの入れ替えもあるだろう。ここで選手層を厚くしながら、その後に備えてほしいものだ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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