中2日で試合が続く短期決戦の五輪は、初戦の重要性が非常に高い。96年アトランタ五輪以降の過去4大会を振り返っても、初戦を勝利した96年アトランタと2000年シドニーは1次リーグ最終戦まで突破の可能性が残り、シドニーだけ準々決勝に進出することができた。しかし、2004年アテネと2008年北京は初戦の入りに失敗。そのままあっけなく予選敗退を余儀なくされた。「五輪はホントにあっという間に終わることを痛感させられた。だからこそ初戦をしっかりと戦わないといけない」と吉田麻也(VVVフェンロ)も話していた。今回のロンドン五輪も26日のスペイン戦(グラスゴー)次第でその後の展開が大きく変わるのは間違いなかった。

とはいえ、相手はスペインである。シャビやイニエスタ(ともにバルセロナ)のいるA代表ほどの老獪さはないにせよ、MFマタ(チェルシー)やGKデ・ヘア(マンチェスターU)、ジョルディ・アルバ(バルセロナ)らを擁するスター軍団が手ごわいのは明らかだった。攻守両面で不安定さを感じさせる関塚ジャパンが勝ち点3を取れるとは考えにくかった。ところが、フタを開けてみると、日本は立ち上がりからスペインを圧倒した。ボールポゼッション率こそ大差をつけられたものの、1トップの永井謙佑(名古屋)、2列目の清武弘嗣(ニュルンベルク)、東慶悟(大宮)、大津祐樹(ボルシアMG)の4人が激しく相手を追い回し、アグレッシブにボールを奪いに行く。

その無尽蔵の運動量と速さ、球際の厳しさに相手は驚きを隠せなかったようだ。スペインのパス回しを封じるために関塚隆監督が練ったと見られるこの策が面白いように的中し、日本は次々とカウンターを繰り出した。とりわけ、永井のスピードと裏を取る動き出しの鋭さは見る者をくぎ付けにした。「相手がボールを運ぼうとしたら全部取ってやろうと思って、一生懸命走った」と彼は言う。その動きは確実に相手を翻弄する。前半41分にイニゴ・マルチネス(アトレチコ)を一発退場に追い込んだのも、永井の動きに手を焼いた彼がペナルティエリア少し手前で強引に止めようとしたから。3〜4回あった決定機をモノにできなかったのはストライカーとして課題が残るものの、今回の目覚ましい働きは高く評価すべきだろう。

永井や清武がビッグチャンスを逃す中、貴重な1点を叩き出した大津のフィニッシュの力も光った。昨年11月の最終予選・バーレーン(マナマ)・シリア(東京・国立)2連戦でのゴール、そして21日の五輪前哨戦・メキシコ戦での決勝弾と大津はここぞという場面で得点を奪える力がある。今回も扇原貴宏(C大阪)の右CKに反応し、ポッカリ空いたスぺースを見逃さず、巧みに右足を合わせた。「ドイツに行って攻撃の選手は結果が全てだとよく分かった。練習でもシュート1つ入れると、みんなすごい反応をする。そういう部分が自分には足りなかった」と話す彼は、誰よりも得点に強いこだわりを持っていたに違いない。1年間のドイツでの経験がスペイン戦というかつてない大舞台で出たのだ。彼の決定力は今のチームに不可欠。それだけに、負傷の状態が気がかりだ。

そして、中盤で危ない場面をつぶした山口蛍(C大阪)、そして最終ラインをしっかりと落ち着かせた吉田と徳永悠平(FC東京)の両オーバーエージの奮闘も見逃せない。スペインが一番の強みである中盤の構成力を生かし切れなかったのも、彼らのつぶしの速さに戸惑った部分が少なくない。5月のツーロン国際トーナメントで惨敗を喫した際、この3人はチームに帯同していなかった。関塚監督も3試合で7失点を喫した時、守備の重要なピースを揃えないといけないと痛感したことだろう。あの段階で守りの課題を露呈したことが逆に幸いした。南アフリカワールドカップ直前に負け続けた岡田ジャパンもそうだったが、本大会前は問題点を洗いざらい出した方が好き結果につながるのかもしれない。

そんな好材料と相手の調整不足が重なり、日本は国際大会で初めてスペインに勝った。それも96年アトランタの「マイアミの奇跡」のような偶然性の高い勝利ではなく、互角以上に渡り合って得た勝ち点3だった。5大会連続で五輪に出ていることで、今の関塚ジャパンには教訓にできることが沢山ある。日本サッカー界の長い年月の積み重ねが、彼らを急成長させる一因になったのだろう。

ただ、ここで満足していたら意味がない。次のモロッコ、最終戦のホンジュラスから確実に勝ち点を挙げて、まずは準々決勝に進むことに集中しなければいけない。初戦勝利でその可能性は飛躍的に上昇した。うまくいけば、シドニー世代でさえなしえなかった4強入りもありえるかもしれない。それを夢物語にしないためにも、しっかりとコンディションを整え、ベストに近い状態を維持することが先決だ。大津と酒井宏樹(ハノーファー)のケガは心配だが、こういう時こそバックアップを含めた総合力が問われる。今後の戦いに強く期待したい。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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