試合前には中嶋一貴、塚越広大の搭乗するフォーミュラカーが爆音を響かせてトラックを周回し(等々力競技場は、よくあんなことを許可するものだ!)、ハーフタイムにはオープンカーに乗った西城秀樹が「ヤングマン」を歌いながら場内一周……と派手なショーが繰り広げられた川崎フロンターレ恒例の「川崎市制記念試合」だったが、裏腹に試合内容はエキサイティングとは言い難いものとなった。

ヴィッセル神戸の堅い守備を川崎が打ち崩せず、逆に77分、それまであまり攻めの形を作れなかった神戸の都倉賢がバロテッリばりの強烈なミドルシュートを突き刺し(おまけに、バロテッリを意識したのか、シャツを脱いで警告をもらう)、先制。結局そのまま0-1でアウェーの神戸の勝利に終わった。試合全体としては、たしかに、川崎ファンでなくても、「いまいち」の内容だった。

だが、試合を部分的に見ると、これはこれで非常に興味深い試合と言うことができた。つまり、風間八宏監督就任後、川崎が目指しているパスを徹底的につないで崩すサッカーと、徹底的にそのパスのカットを狙い続けた神戸の狙いが、うまく交錯したのである。風間監督も、一方の神戸を率いる西野朗監督も、ともにシーズン途中で就任し、チームを立て直しながらの采配である。まだまだ、監督が思い描く完成形には遠いことは間違いない。

ヴィッセル神戸の狙いは、キックオフ直後から明白だった。相手陣内深いところから積極的にプレッシャーをかけ、前線の選手たちが川崎ボールを追い掛け回す。そして、ボールを奪って、カウンターでゴールを狙うのだ。開始25秒で、右サイドから野沢拓也が上げたクロスが逆サイドに飛び、吉田孝行が落としたボールを左サイドバックの相馬崇人がシュートと、それなりにフィニッシュに至る。そして、4分には野沢のFKから相馬が抜け出してヘディングシュートを放ったがこれはオフサイド。

もっとも、22分に都倉がフリーになって右サイドからシュートした場面で、つぶれながら中央で都倉にパスをつないだ森岡亮太が足首を捻挫して26分に交代。森岡は左サイドがオリジナルポジションだったが、再三中に入ってゲームメークをしていただけに、この交代は神戸にとって痛手。ボランチの田中英雄と大屋翼は攻撃の組み立てができるタイプの選手ではないので、以後、神戸はなかなか攻めの形が作れなくなっていった。

しかし、前からボールを追い回す積極的な守備はその後も有効だった。26分には川崎の左サイドバックの田中淳一からの横パスを吉田がカットするなど、神戸は高い位置でパスカットすることで何度かチャンスを作っていた。神戸のプレッシングはなかなかよく考えられたものだった。

試合後の会見で西野監督が語ったところによると、この試合がJ1初出場となる川崎の左サイドバックの田中淳一は関西では有名な攻撃的なサイドバックなので、彼に上がらせず、逆に田中淳一を守備に追い込み、彼の裏のスペースを狙ったのだという。あるいは中村憲剛にはプレスに行っても、なかなかボールは奪えない。そこで、中村には多少持たれてもいいから、中村からのパスのカットを狙う……。

もちろん、「企業秘密」の部分もあるだろうから、西野監督の説明がすべてではないだろう。だが、神戸が、こうしたしっかりとした狙いを定めて、プレッシングをかけ続けたということはよく分かる。ボールを奪った後にしっかりとつなげれば、大きなチャンスを作れただろうが、しかし、森岡が不在となったこともあって、神戸はなかなかパスがつながらなかった。この辺りは、まだまだチーム作りの途中といったところだろうか。

しかし、川崎相手に積極的な守備をしかけて、何度か狙い通りパスカットできたのは大きな成果と見るべきだろうし、西野監督の表情も(もちろん「勝ったから」ということもあるが)満足そうなものだった。しかし、川崎の風間監督の方は「神戸のプレッシングに苦しんだ」とは一切認めない。「(うちの選手たちは)あれをプレッシングだとは感じていない」と風間監督。「ただ、足元に入ったボールを『止める技術』が足りなかっただけ」なのだと言い張ったのだ。

そして、止める時にボールの置き場所を考え、その時に敵の位置をしっかり認知し、ボールのどの部分をタッチすればコントロールできるかを考えれば、「止める技術」はプロ選手でも向上するのだという。たしかに、風間監督就任以来パスの意識を徹底したため、川崎は足元へのパスをスピードを殺さずにコントロールしながら、ボールを運べるようになってきている。しかし、それを相手のマークが厳しく、スペースも時間も与えられない相手ゴール前でもできるようになるのか……。風間監督が言う「止める技術」がレベルアップするのには、どのくらいの時間が必要なのだろうか……。

とにかく、理想のサッカーを追求して徹底的にパスをつながせる風間監督。そして、現段階では理想とははるかに遠いので守備の構築(ただし、引いて守るのではなく、前線からプレッシャーをかけ続ける積極守備)を優先し、川崎のメンバーとパスワークを分析、研究して、ゲームプランに落とし込んできた西野監督。西野朗が、あれほどリアリストだったのか!1点リードで迎えた最後の時間帯には、トップの吉田の脚がつってしまったせいでもあるが、西野監督は吉田に変えてDFの河本裕之を投入して5バックで守備固めも図ってきた。ガンバ大阪時代には、あまり見かけなかった逃げ切り作戦まで披露した西野監督だった。

冒頭にも書いたように、試合全体としては地味なスコア、地味な内容の試合だった。だが、両監督の理想と現実あるいは思惑。そして、両監督が持っていたこの試合での狙いは何か、そういったことを考えながら観戦すると、これはなかなか見ごたえのあるゲームだったと言える。試合というのは、もちろん全体を見るべきなのだが、時には「全体」ではなく「部分」を見ると面白い場合もあるのだ。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

お知らせ

◆7月3日(火)22:15 J SPORTS 1 川崎フロンターレ vs. ヴィッセル神戸
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