Jリーグの第12節。清水エスパルスと対戦した浦和レッズは、守りの意識がひじょうに高かった。このところホームで結果が出ていないこと、相手の清水が好調なことを考えて、そういう決断をしたのだろう。清水のストロングポイントであるアウトサイドを、浦和の両サイドの平川忠亮と梅崎司がしっかりとケアした。攻撃でも、浦和が本来目指しているはずの、パスを回して、後方の選手がしっかり攻撃参加する積極的な攻めは封印。MFの阿部勇樹やDFの永田充、さらにGK加藤順大あたりからのロングボールを多用した(ちなみに、GK加藤のロングパスの正確性は特筆物。あのパス能力はワールドクラスと言っていいだろう)。

そして、41分、最終ライン近くまで戻っていた柏木陽介が相手のパスをカット。そこから右の平川に長いボールを送り、平川のクロスにマルシオ・リシャルデスが飛び込んでCKを奪い、CKのボールを阿部が押し込んで先制。結局、このCKからの1点を守りきった浦和が逃げ切った。収まらないのは清水のアフシン・ゴトビ監督で、会見の最後に皮肉をチクリと利かせた。「浦和のような戦い方をして勝つより、清水のように攻撃的に戦って負けた方がマシ」と。

そして、浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、ゴトビ監督のその発言についてどう思うかと聞かれて、「私は同業者を批判するようなことはしない」と切り返した。翌日のJリーグは、FC東京とサガン鳥栖の戦いだった。まず、好調の鳥栖がすばらしいサッカーを展開して、42分、51分に得点して2-0とリードした。鳥栖の素晴らしさは、その守りにある。集中して相手を囲み、パスコースを切って、ボールを奪う。そして、何より素晴らしいのは守っているときも、つねにボールを奪った後の攻撃のことを考えていること。たとえば、59分の2ゴール目がそうだ。

中盤のやや左サイドでMF早坂良太がパスをカット。その瞬間、右サイドでは水沼宏太が走り出していた。そして、早坂もパスカットした瞬間に水沼を見て素早く展開。そのままフリーで持ち込んだ水沼のクロスに、逆サイドから走り込んできた豊田陽平がGKの権田修一と交錯しながら決めたもの。ボールを奪ってから、4〜5秒でのゴールだった。だが、ここで諦めなかったのがFC東京の勝因だ。前半からよく動いていた鳥栖の足が止まったのにもつけ込んで、54分に投入された渡邉千真がハットトリックを決めて、なんと3-2と逆転してしまったのだ。

逆転勝ちしたFC東京のランコ・ポポヴィッチ監督は上機嫌であり、こちらはゴトビ監督とは違って余裕で「鳥栖はすばらしい守備をした。互いに良いところを出し合った好ゲーム」と相手を称えるコメント。しかし同時に「2点リードされても、自分たちがやり続けてきたサッカーを貫き通して、アイディアを出し続けたことが勝因」と誇らしげに語った。それから、ポポヴィッチ監督の話は思わぬ方向へ発展していった。

「バイエルンはゲームを支配し続けたが、アイディアを出し続けられなかったんだ。ずっとバイエルンを応援していたが、良いサッカーをした方がいつでも勝つわけではないからね」と、日本時間この日の早朝に行われた、チャピオンズリーグ決勝の話になったのだ。「良いサッカーつまり攻撃的なサッカー」という観点から言えば、良いサッカーをしていたのは、間違いなくバイエルンだった。僕はアルゼンチンとかイタリアのサッカーが好きな人間だから、守備的なサッカーも面白いと思う。

アルゼンチン人にとって最も痛快なのは、1990年イタリア・ワールドカップラウンド16のブラジル戦だ。ブラジルがキックオフ直後から攻め続けたが、シュートが何度もポストに当たるなどして、どうしても得点できない。一方、足を負傷したマラドーナはほとんどプレーに関与することもできない。そうして0-0のまま迎えた80分、それまで死んだふりをしていたマラドーナが突然ドリブルを開始。ブラジルDF全員を引き付けて無力化してから、逆サイドでフリーのカニージャにパス。カニージャが落ち着いて決めて、アルゼンチンはカウンター一発でブラジルを破ったのだ。

満身創痍のチームでも、弱小チームでも、頑張って守ってカウンターの一発で強者を倒す。それも、サッカーというスポーツの一つの魅力である。まあ、チェルシーも、そういうやり方でバルセロナとバイエルンを連破して優勝したわけだが、「そんな勝ち方はけしからん」とランコ・ポポヴィッチは言いたかったのだろう。僕も思う。やっぱりあんな勝ち方で優勝してしまってはいけないんじゃないか?それも、イタリアやアルゼンチンがやるんだったらともかく、いつもフェアプレーを標榜しているイングランドがあれをやってはいけないんじゃないか?まあ、今後、イングランドのメディアなどから、どんな論評が出てくるか注目したい。

しかし、ポポヴィッチも言うように、そこで勝てなかったのは「アイディアを出し続けられなかった」バイエルンの責任でもある。ホームスタジアムでの試合で、しかも、あれだけボールを支配していたのだ。セントラルMFのシュバインシュタイガーとか、サイドバックのラームなんかも、もっと攻撃参加できなかったのか。延長になど持ち込まれないように90分決着を目指すべきだったのではないか。そんな風にも思えるのだ。浦和のカウンターに沈んだ清水にしてもそうだ。

確かに、清水がボールを動かして攻める時間は長かった。だが、シュート数は浦和の12本に対して、清水はたった5本だったのだ。これでは、ゴトビ監督の批判も説得力を欠く。チェルシーが「やり過ぎ」だったのは間違いない(少なくとも、あのやり方で優勝までしちゃうのはまずい)。だが、サッカーにはいろいろな戦い方があっていいと思う。鳥栖のサッカーは(とくに鳥栖というクラブが地方の財政的にも小さなクラブなのだから)素晴らしかったし、APOELニコシアのようなクラブが、レアル・マドリードに対して守備的なサッカーするのも当然だ。

積極的にボールを支配し、パスをつないで、人数をかけて攻める「良いサッカー」を誇りにしているチームには、ぜひ、そういうサッカーで守りを固めるチームを破って見せてほしいものである。バイエルン相手に腰が引けた戦いをしてPK戦で敗れてしまったレアル・マドリードにも苦言を呈しておきたいし……。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授