Jリーグの序盤戦、新監督を迎えたチームの明暗が分かれている。「暗」の代表がガンバ大阪だとすれば、最も成功しているのがランコ・ポポビッチ監督に迎えたFC東京だろう。

ポポビッチ監督は昨年JFLの町田ゼルビアを率いてJ2昇格を成し遂げた名指導者だ。だが、昨年の町田を見ていると、春先はチームが未完成で「アグレッシブに前にボールを入れろ」と言われると、同じようなリズムで縦にパスを入れるだけといった状態だった。夏ごろになって、ようやくスムースにパスが回るようになり、シーズン終盤戦になると相手によってやり方を変えることまでできるようになってきた。1年を通してチームが変貌していく様は見事だったが、「チーム作りには時間がかかる」ということも感じさせられたのだ。

だから、FC東京もしばらくは時間がかかるのかと思っていたが、どうやら、僕が思っていた以上にチームの完成度は高いようだ。もっとも、JFL(当時)の町田と今のFC東京を比べるのは無理かもしれない。FC東京は、長くJ1でプレーしていたチームであり、昨年も見事にJ2で優勝してJ1に復帰した。選手も、代表クラスの選手が何人もいるわけで、昨年の町田とは経験値に大きな違いがある。

ポポビッチ監督も昨年までの蓄積をうまく利用しながら、同時に新機軸も繰り出して、順調な船出につなげたようだ。……それが、ACL第2節の蔚山現代戦を見ての感想である。FC東京は、じつに見事な試合運びで、大人のサッカーを見せてくれたのだ(80分までは、であるが……)。

蔚山現代は予想外に慎重な試合運びをしてきた。前線で李根鎬(イ・グノ)が走り、やや低い位置に長身(196センチ)の金信旭(キム・シンウク)を置く。そして、右から家長昭博、左から金承龍(キム・スンヨン)が仕掛ける。たしかにこの4人の攻撃力は高い。しかし、中盤でFC東京のパスをカットすると、すぐにパスを前線の4人に付けて、攻撃は専ら前線の4人に任せきりなのだ。人をかけて攻めることはせずに、安全に、そして効率的にカウンターからのゴールを狙ってきたのだ。

それに対して、もしFC東京が前がかりで攻め込んでしまうと危険な状態になる。たとえば、先日、オリンピック予選の最終戦で、U-23日本代表はバーレーン相手に前半から攻め急ぐ場面ばかりが目立ったが、FC東京はそんな失敗はしなかった。相手が守ってカウンターを狙ってきたのに対して、こちらも慎重にパスを回し、相手を走らせることで対抗。じっくりと落ち着いてチャンスを待った。そして、37分にCKから得点を決めて見せたのである。徳永悠平のシュートは、相手が足元にタックルに来たところを詰まった状態で苦し紛れに打ったようなシュートであって、幸運な得点ではあったが、そのCKを取った攻撃を含めて、たしかにあの得点はFC東京が攻撃の手を強めることによってつかみ取ったものだ。

後半も、1点のリードを利用してしっかりとパスを回してゲームをコントロール。疲労で足が止まった蔚山現代に、ほとんど付け入る隙を与えなかったのだ、80分までは……。その後に起こったことは弁解のしようもないだろう。「集中力を欠いた」と言うべきか、「ピッチ上で眠っていた」と言うべきか(ポポビッチ監督は「勝ったと思って試合をやめてしまった」と表現した)。しかも、そんなミスを2度も繰り返してしまったのだ。

しかし、何度も言うが、最後の10分間を除けば、FC東京は80分間、大人のゲーム運びで完全に試合をコントロールし続けたのである。ポポビッチ監督は蔚山現代戦で米本拓司を先発起用した。負傷で1年間を棒に振った米本。先日の名古屋グランパス戦の90分に交代出場して数分プレーしただけだった。

そんな状態では完璧なプレーを期待することはできない。実際、開始直後は試合勘が失われているようでパスのタイミングも遅れ気味。米本が狙われてボールを奪われ、ピンチを招く場面も何度かあった。だが、19分に相手ボールの浮き球をうまくヘディングで落としてチャンスにつなげた場面があったが(最後は石川直宏のシュートで終わった)、このプレーですっかりリズムを取り戻したようで、その後はパスのリズムも改善されていく。FC東京の先制ゴールも、米本が左サイドの石川に開いた好パスから梶山陽平につながり、そこで得たCKから生まれたものだった。後半に入ると疲れが出たようで(これは「ゲーム体力」の問題)、ゲームから消えてしまったが、そこでポポビッチ監督はすかさず長谷川アーリアジャスールに交代させた。

そもそも、Jリーグ開幕の大宮アルデージャ戦までは梶山がボランチで、長谷川がトップ下だったのを、前半の25分が経過したところで両者の位置を入れ替えたのが、今のFC東京の好調を生んだのだ。トップ下に入った梶山が生き生きとプレーするようになり、ボランチの位置で長谷川のフィジカルの強さも生きたのだ。その長谷川と、進境著しい高橋秀人がボランチにいて、そこに守備力(対人能力)に優れた米本も復帰すれば、中盤の安定度は大きく上がるはず。ややリスキーではあったが、米本を先発させ、フィジカルの強い韓国チーム相手にも十分通用することを見極められたのは大きな収穫だろう。

ところで、ウィークデー開催のためナイトゲームとなることの多いACLだが、この日は秋分の日ということもあって14時キックオフだった。FC東京は3月17日のJリーグ第2節は名古屋と19時キックオフで試合をしているから、試合と試合の間隔は72時間なかったことになる。これに対して蔚山現代は16日に試合をしており、FC東京は不利な状況で戦っていたわけだ。しかも、ナイトゲームの後のデーゲームでは調整も難しかっただろう。もし火曜日にデーゲームでACLを戦うのであれば、直近の試合もデーゲームで日程を組むべきではなかったのだろうか?

それが最後の10分間FC東京の選手たちがピッチ上で眠ってしまった原因ではないだろうし、「キックオフ時間が違っていたら勝てた」というわけでもないが、しかし、勝負事というのはあくまでもディテールにこだわっておくべきだと思うのだが……

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授