岡田武史監督が率いる杭州緑城の日本での最後の練習試合、大宮アルディージャとのプレシーズンマッチを観戦してきた(そのために、長居でのアイスランド戦が終わってから、夜行バスで東京に戻った)。

結果は2-1で大宮の勝利。前半の13分に杭州の汪嵩が左からのクロスをヘディングで決めて先制。そのまま後半も時間が過ぎていったが、63分にU-23日本代表の東慶悟が交代で入ったとたんに大宮がリズムを取り戻し、66分に、こちらはU-23韓国代表のチョ永哲がミドルシュートを決めて同点にすると、その3分後には東のスルーパスから得たCKをつないで最後は再びチョ永哲が押し込んで、大宮が逆転に成功した。

両チームとも2週間後にリーグ戦開幕を控えた段階で、もちろんコンディション的には良い状態ではないし、U-23代表組(東とチョ、それに同じく韓国の金英権)はチームに合流して間もないし、ボランチの新外国人カルリーニョスも負傷で来日が遅れて、コンビネーションはまだまだだと言う。だが、そのカルリーニョスの幅の広い動きとボランチらしいロングパスの展開も見られ、なかなかの好ゲームだった。

岡田監督が「大宮が本気でやってくれた」という言葉、そのままのゲームだった。

さて、杭州緑城だが、前半の立ち上がりこそ大宮のパス回しに劣勢に追い込まれたものの、大宮の中盤でのミスに助けられて次第に前からプレスをかけることができるようになり、フィジカル的な優位を生かして何度も大宮ゴールに迫った。たとえば、先制ゴールの場面、汪嵩(中国代表)はほとんど助走もつけずにジャンプして速いクロスに合わせた。守備面でアプローチが遅れて、大宮の選手をバイタルエリアでフリーにしてしまう場面もあったものの、45分を通じてむしろ杭州のゲームといった展開だった。

だが、後半に入ると大宮がパススピードを上げたことで、杭州は後手に回ってしまう。そして、東が登場すると、トップ下2列目からの鋭いパスについていけず、また、東がゴール前に飛び込むのをまったく捕らえられなくなっていく。意外性のあるプレーにとまどっているのだ。大宮の戦術的変化についていけなかったのだが、まあ、それはどんなチームにもあること。

本当に問題なのは、ミドルシュートで同点にされた後の反応だ。「さあ、これからが本当の勝負」と考えて、落ち着いて戦いに戻るべきところなのに、同点ゴールですっかり浮き足立って、すぐに逆転のゴールを許してしまったのだ。そして、逆転されたことで精神的にキレてしまった状態。相手をつかまえられなくなり、さらに中盤での激しい、乱暴なタックルが目立ってくる。警告こそ、前半1枚、後半1枚ですんだが、中国らしいラフプレーにスタンドからも怒号が飛んだ。

岡田監督が「集中が切れることが多い」と言う通りの若さ丸出しの試合運びだった。もっとも、日本での長期合宿で疲れもたまっているだろうし、この日の杭州緑城は本来のセンターFW(システムは4-3-3)が負傷欠場で、MFの謝志宇をトップ起用した。パスをさばくのはうまいが、ポストプレーもできないし、シュート力もなく、まったくCFらしいプレーができなかった(僕は、岡田監督がそういうタイプの選手をトップに起用して「ゼロトップ」でも試みているのかと思って、ずっと見ていたが分からず、会見で質問したら「CFタイプは他にいないんだよ」ということだった)。

そんなハンディキャップはあったとしても、ゲームに向かうメンタリティーはまだまだ改善の余地が大きいようである。「試合前にロッカールームでゲームに興じていた」といった記事も読んだし、なかなか、これからメンタル的に鍛えていかなくては国際舞台での活躍は難しいだろう。もっとも、岡田武史という人物は、そういう選手のメンタリティーを変えていくのを最も得意としている指導者の1人である。札幌でもそうだったし、横浜Fマリノスでもそうだった。かつて、横浜時代にインタビューしたときに、岡田監督は自慢げに言っていたものだ。

「最初は『グラウンドを回れ』と言うと、コーンの内側を走っている選手がいたが、すぐにきちんとコーンの外側を走るようになった」と。

岡田監督が「手ごたえ」を語っているということは、杭州緑城の選手たちも練習場での振舞いは変わってきているのだろう。だが、真剣勝負の場で、「最後まで手を抜かない」、「リードされても粘り強く戦う」といったことを身につけさせるにはかなりの時間が必要となるだろう。かつて、東アジア選手権が重慶で開かれたときに中国代表のトレーニングを見に行ったことがある。それこそ、言われたことを淡々とこなすだけの練習であり、あちこちで手を抜いて軽く流している選手ばかり。そんな状態だった。しかも、監督もコーチも、そんな選手たちの手抜きを「見て見ぬふり」をしてしまっていた。僕は「これでは、中国代表が強くなることは当分あるまい」と確信したものだ。

そんな中国人選手のメンタリティーを変えていこうというのが、岡田監督に与えられた最大のタスクなのだ。しかも、その仕事は時間との競争でもある。岡田監督の就任は中国でも歓迎されているようだ。今では、中国人は経済でも、政治でも、軍事でも、そしてスポーツでも日本に対して優越感を抱くようになっている。だが、事サッカーに限っては、中国人たちも日本の成功を素直に認め、日本に学ぼうとしている。岡田監督が歓迎されたのも、当然であろう。

だが、シーズンがはじまっても結果が伴わなかったら、すぐに「なんで日本人なのだ」といった批判が湧き上がってくることだろう。すぐに結果を出すためなら、回りくどいことはせずに、彼らの持つフィジカルの強さを生かして、イケイケのサッカーをする方が手っ取り早いことだろう。時間をかけて、メンタリティーを変えていくのには、当然、時間がかかる。

手っ取り早く勝利を目指すのではなく、メンタリティーの変化を求めながら、同時に結果を出す……。難しい仕事だが、それこが岡田武史という男が常に求めてやまない「チャレンジ」ということなのであろう。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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