ヨルダンで関塚ジャパンのシリア戦苦杯を見てから、久しぶりにドイツに来ている。今やドイツは日本人有望選手の宝庫。7日のドイツカップ準々決勝で格下・キール相手にゴールを奪った香川真司(ドルトムント)を筆頭に、多くの選手たちがレベルアップにまい進している。

今季大躍進を遂げている古豪、ボルシア・メンヘングラッドバッハ(MG)で昨夏からプレーする大津祐樹もその1人。昨年11月の2012年ロンドン五輪アジア最終予選、バーレーン(マナマ)・シリア(東京)2連戦で立て続けに得点し、成長ぶりを大いに印象づけた彼だが、8日のドイツカップ準々決勝、ヘルタ・ベルリン戦ではまたもベンチ外を強いられた。今季ブンデスリーガでも20試合中出場はわずか2試合、ベンチ入りも4試合と強豪の分厚い選手層に阻まれている状態だ。

その大津を訪ねて、9日にボルシアMGの練習場へ足を運んでみたが、彼は激しい競争にさらされていた。ドイツカップでメンバー入りした18人がランニングなど軽いメニューをこなす傍らで、控え組は1対1や5対5などを通して練習とは思えないほど熱のこもった一挙手一投足を見せていた。

大津がボールを持つたび「ユーキ」という声が周りからかかる。仲間たちはドイツ語が完璧に理解できない彼と意思疎通を図りつつ、「シュートに持ち込むところは自分でいく」という強い気持ちを押し出す。フィニッシュの迫力、スピード、パワーは控え選手でもJリーグレベル以上だった。「自分は今、物凄い競争の中にいる。目に見える結果を出さないと評価されない」と大津は11月に帰国した際も強調していた意味が、1時間足らずの練習からもよく分かる気がした。

その後、本人と少し話をすることができたが「今は19番目くらい。ベンチ入りするかしないかの瀬戸際なんで、本当に毎日の練習からアピールするしかない。他のチームメートを見ても、シュートを1つ外しただけでもすごい悔しがるし、自分のプレーにプライドを持ってるのがよく分かる。僕もこっちに来て爪が割れたり傷ができる回数が多くなったけど、それだけ激しいんです」という答えが帰ってきた。

今季ブンデスリーガでドルトムントやバイエルン、シャルケらと優勝争いを繰り広げているボルシアMGは、彼につけ入るスキを与えないほどアタッカー陣が非常に好調だ。開幕当初、大津のポジションである4-4-2の両ワイドは、得点ランク上位につけるドイツ代表の若手MFマルコ・ロイスとベネズエラ代表キャプテンのファン・アランゴが担っていた。が、ロイスの決定力がグングン上がり、スイス人のルシアン・ファブレ監督はロイスをFWに上げて長身FWハンケと組ませ、攻撃的MFには下部組織出身のU-21ドイツ代表、パトリック・ヘアマンを抜擢した。勝ち続けている今は前線4枚をこの面々で固定している。もともとこの指揮官は手堅いサッカーで勝ち点を稼ぐことに定評のある人物。そんな事情もあって、大津ら他のメンバーは入り込む余地がなかなか見当たらないようだ。

「ファブレ監督は戦術とかポジショニングとかの指導が非常に細かいし、それで結果を出している。ファブレ監督が就任してからの勝率はすごい数字になると思います。監督のやり方を選手たちも理解し、結果を出しているので、簡単にメンバーを変えられないんだと思います。しかも若手が次々と伸びてきていて、次を狙う選手が何人もいる。ボルシアMGはドイツ国内でも下部組織の育成に定評があるチームなんです。だから本当に限られたチャンスしかないけど、どこかで何かのアクシデントが起きるかもしれないし、3分でも5分でも出られればゴールできる可能性もある。そういうチャンスを目指して練習から1つ1つ勝負していくしかないと思っています」と彼は力強く語っていた。

海外にいれば、日本人選手は「外国人助っ人」という位置付けだ。若くても言葉が喋れなくても、明確な結果を出さなければ「使えない選手」ということになってしまう。今、ドイツで最も輝いている香川にしても、2010年夏に移籍した直後にゴールを量産して、一気にユルゲン・クロップ監督の信頼を勝ち得た。大津にとって1学年上ですぐ近くのドルトムントにいる香川は身近な成功例。彼のように得点にこだわる姿勢を持ち続けて、出場機会をうかがっていくという。

ボルシアMGはドイツカップでも4強入りしており、ここからは重要な戦いが続く。主力の負傷やアクシデントが起きれば、どこかで立場の変化があるかもしれない。それを見逃さず、必ず結果を出すこと。それを追い求めていくしかないだろう。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。