11月に入り、高校サッカー選手権出場校が徐々に決まりつつある。すでに青森山田や盛岡商業、山梨学院、星稜、奈良育英などの強豪校が全国大会に駒を進めている。選手権がユース年代の最高の大会ではなくなって久しいのに、90回を数える歴史ある大会のせいだろうか。やはり全国大会が近づいてくると、ワクワク感が芽生えるものだ。

その一方で、Jユースカップもスタートしている。今年から始まった高円宮杯U-18プレミアリーグを見ると、東日本はコンサドーレ札幌、ヴェルディ川崎、清水エスパルスが現時点で上位3強を占め、、西日本に至ってはサンフレッチェ広島を筆頭に上位5位をJクラブが独占している。この通り、タレント力もチームの総合力もJクラブ優勢なのに、Jユースカップは選手権ほど話題に上らない。やはり長年の歴史と伝統は重いものなのだろう。

このように、高校サッカーと比較され、「Jクラブは優れた選手をかき集めているのに選手を伸ばせていない」と批判されることの多いJクラブの指導者は今、どんなことを考え、追い求めているのか。つい先日、それをダイレクトに聞くチャンスがあった。その相手は東京ヴェルディユースの楠瀬直木監督。昨年と今年の日本クラブユース選手権を連覇し、プレミアリーグでも2位につけるトップクラブの指導者である。

実はこの楠瀬監督は帝京出身。熊本大津の平岡和徳監督の1学年上に当たり、82年鹿児島高校総体で全国優勝の経験もある。その後、法政大学を経て、読売クラブ、本田技研でプレー。引退後が長い間、ヴェルディ小山サッカースクールで指導しており、2009年にはJFA・S級ライセンスを取得した。小山時代には小島秀仁(浦和)を教えた経験もある。その彼が2010年から東京Vユース監督に就任。今年で2年目を迎えている。

「今のJクラブは僕のように高校サッカーでみっちりしごかれた経験のある監督が多いんです。だから高校のいい部分も知ってるし、Jクラブの問題点も分かってる。僕らみたいな高校サッカー経験者が、高校からいい部分を吸収し、両方のよさを融合させていくことも大きな仕事。両方の橋渡し役になるべきですよね」と彼は話を切り出した。

ユース年代の指導者が今、真剣に考えるべきなのは、日本サッカー界が毎回ワールドカップに出場できる安定した力をつけることだと強調する。そのためには韓国に勝利しなければいけない。8月の日韓戦(札幌)で3-0と圧勝したように、選手がA代表になった時点で韓国をつねに圧倒できるようにしたい。楠瀬監督はそう考えているという。

「そのために、指導者のレベルアップを考えないといけないと思うんです。Jクラブや高校サッカー強豪校の指導者は勉強する機会もあるし、経験も積んでいますけど、全てのユース年代の指導者が同じレベルかというと、必ずしもそうは言えない。今はバルサ流だパスサッカーだと戦術論がすごく多いけど、実際のところは戦術や選手の成長より勝利を第一に考える傾向がまだまだ強いんです。選手を伸ばすためにはスキルを高め、個の能力を上げていかないといけないのに、それができていないケースも少なくない。ユース年代の指導者全体の層が厚くならないと、韓国にコンスタントに勝つのは難しい。僕はそう感じています」と楠瀬監督はしみじみと語っていた。

確かに、彼の意見は一理ある。日本サッカー協会は指導者講習の機会を増やしているが、都道府県から推薦されなければライセンスを取れないコーチも多い。日本特有の閉鎖的な環境を打ち破るため、あえて海外に出て行った指導者もいるほどだ。有名クラブや高校で教える人以外のコーチをどうレベルアップさせていくか。そのあたりをもう少し真剣に考えることは重要といえる。

楠瀬監督が語っていたもう1つの大きなテーマは、子供たちを取り巻く大人たちに関してだった。モンスターペアレンツが増えたといわれて久しいが、保護者らの対応に頭を悩ませるチームは確かに多い。監督やコーチなど現場指導者が直接話さず、GMや強化担当者が保護者とコミュニケーションしているチームもあるという。子供たちを強く逞しく、そして礼儀正しく育てたいなら、周囲の大人が黙って見守る努力も大切ではないか。これはJクラブや高校サッカー強豪校のみならず、ユース年代全体のテーマだろう。

「そういう課題はありますけど、全体としては日本のユース年代はいい方向に行ってると思うんです。Jクラブも挨拶や生活の基本をうるさく言うし、フィジカル強化や走りなど追い込むこともやっている。数年前までは『Jクラブはきちんと選手を育てていない』と言われましたけど、歴史がなくて規模が小さい分、瞬時に変わることができるよさもある。僕らも前向きに変わっていると思うし、Jクラブから代表になる選手ももっと増えていくはずです」と楠瀬監督は強調した。

彼の言う通り、才能あるJクラブ出身者が日本のトップを担うようになる日は果たしていつ来るのか。大きな期待を寄せつつ、今後の動向を冷静に見続けていきたい。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。