3-0で試合が後半にさしかかると記者席で話題になった。「日本が韓国にこれだけ完勝したのがいつ以来か」という話題である。少なくとも、21世紀に入ってからこんな勝ち方は一度もなかった。ジーコ監督のときに2回勝っているはずだが、あの永井雄一郎の超ラッキーゴールで勝った試合と、終了間際にCKから中澤佑二が叩き込んだ東アジア選手権での勝利。どちらも薄氷の勝利である。

その前をたどっていくと、フランス・ワールドカップ予選で2-1で勝った試合があるが、あの時は、「韓国がすでに予選突破を決めた後だった」という条件付の勝利だった。ドーハでのアメリカ・ワールドカップ予選で韓国を破った試合は、内容は完勝だったが、得点は1-0の僅差だった……。

というわけで、結局、結論は1974年9月に日本が4-1で勝った日韓定期戦以来ということになる。なんと、まだ釜本邦茂と吉村大志郎が活躍していた時代である。韓国は、それほどの強敵なのだ。

しかし、札幌の試合は完勝だった。もちろん、趙広来(チョ・ガンレ)監督が嘆いたように、前半のうちにDFの金英権(キム・ヨングォン)が負傷交代してしまって守備面でバランスを欠くなど、韓国に不運もあった。だが、試合内容は完全に日本のものだった。

それをもたらしたのは、選手たちのアグレッシブな姿勢だった。開始早々、ブンデスリーガの開幕戦でゴールを決めたばかりの岡崎慎司が積極的にドリブルで仕掛けてシュート。その後も、岡崎は自ら仕掛けていく姿勢を崩さなかった。長谷部誠は、中盤で広いエリアをカバー。内田篤人もサイドをえぐっていく。立ち上がりは、受身に回った左サイドも、駒野友一がひさしぶりの左サイドの感覚を思い出し、香川真司との距離感を確立すると逆に押し込み始める。

1人ひとりの選手が、自信を持って、積極的にプレーしているのが分かった。ヨーロッパでプレーする選手たちは、もう韓国を恐れることはない。とくに大きく成長したのは、DFの吉田麻也だった。1月のアジアカップでセンターバックとして起用された当時は、高さを生かして撥ね返すことで精一杯といった感じだったが、今では韓国のFW相手にも落ち着いて対応できているだけではなく、パス供給も正確性を増した。

日本の右サイドが機能した理由の1つは、吉田から長谷部や本田に正確なパスが供給されたことがあった。ヨーロッパのクラブで出場機会を得た選手たちの成長ぶりは著しい。もっとも、今の日本代表の中で何者にも替え難い選手は、やはりJリーグに所属している遠藤保仁である。今回の日韓戦も、また遠藤というプレーヤーの価値を再認識させられた試合だった。

中盤でのリズムを作るパスワークは、いつものこと。そして、先制ゴールにつながったあの絶妙なパスである。右サイドで攻め込んだ日本がいったんボールを奪われるが、きれいなタックルで、そのボールを奪い返したのが遠藤だった。そして、右サイドに走りこんだ長谷部に渡すような顔をしながら、一瞬ボールをキープ。そして、タイミングを計って、ボールの勢いを殺したパスを正確に李忠成の足元に入れたのだ。このボールを李がワンタッチで香川に送り、香川は落ち着いて、ボールを浮かせて、DF2人をかわして先制ゴールを決めた。

ゴール前での香川の落ち着きとテクニックもすばらしいが、僕は遠藤が李にパスを出した瞬間に「こりゃ、すごい」と叫んでいた。ACLの決勝トーナメント1回戦でセレッソ大阪と対戦した試合でも、右サイドでキープした後、タイミングをズラして、あのときは宇佐美貴史だったと思うが、やはりペナルティーエリア内に走りこんだ味方に正確に渡したパスがあって、そのときも僕は観戦メモに大きく「!!」を書き込んだが、今回のパスもそれと同じように見事なパスだった。

さて、完勝した日韓戦ではあったが、同時に課題も明確になった。1つは、前線から積極的にプレスをかける守備が機能してはいたものの、それをかわされて突破された場合の対応である。前線が前からプレスをかけているとき、当然、DFラインも上げているから、ラインの裏には大きなスペースがある。ラインの裏を気にする日本のDFが、チェックに行くのをためらっていると、どんどん裏に走りこまれてしまう。20分ごろ、2回そういう形で決定的な形を作られている。

もちろん、そういう場面で韓国ほど人数をかけて攻め上がってくるチームはアジアにはないだろうが、しかし、誰か1人は間合いを詰めていかなければいけない。プレスをかわされて前線にボールが渡った場面で、誰が当たりに行って、誰がカバーに入るのか……。DFの間の約束をしっかり作っておかなければならない。あるいは、そういう場面では(カードはもらわないように気をつけながら)反則で止めてしまうという割り切り方も必要かもしれない(コパ・アメリカで優勝したウルグアイは、その判断がうまかった)。もう1つの反省材料は、後半の最後の15分間、韓国に何度も攻め込まれ、決定的なピンチを招いたこと。韓国のFWに、もう少しシュートの正確さがあったら、2点くらい取られて追い込まれていたかもしれない。

最後にこういう形になってしまった原因は、日本のFW、MFが疲れて足を止めてしまったこと。前線とDFラインが間延びして、大きなスペースができてしまう。スペースがある状態では、個人能力のある韓国の選手が力を発揮するのは当然のことだ。日本側も、選手交代を駆使して建て直しを図ったのだが、遠藤と長谷部が退くと、代って入った選手はリズムを取り戻すことができなかった。つまり、守備の面でも遠藤という存在の絶対性が再確認されたわけだ。

誰が出ても同じようなパフォーマンスができるようにしたいものだが、来月にはもう3次予選が始まってしまう。遠藤と長谷部だけは欠けることのないように、そして彼らが90分を通じてプレーできるコンディションを維持できるように祈りたいものだ。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授