東日本大震災で3月の強化期間が短縮され、7月のコパ・アメリカ(アルゼンチン)も辞退が決定。9月から始まる2014年ブラジルワールドカップアジア予選前の日本代表の活動は6月のキリンカップ2試合(1日・ペルー戦=新潟、7日・チェコ戦=横浜)と8月10日の日韓戦(札幌)しかなくなった。約10日というまとまった時間が取れる6月は非常に重要な強化の場。このタイミングでザッケローニ監督が誰を選ぶかで、今後のチーム作りが見えてくるため、27日のメンバー発表には大いに注目していた。

ザック監督の会見に先立って配られた25人のリストを見て、軽い驚きを覚えた。南アフリカワールドカップ16強の立役者である松井大輔(グルノーブル)、阿部勇樹(レスター)の両ベテランの名前がなく、1月のアジアカップ(カタール)に参戦した岩政大樹(鹿島)、柏木陽介(浦和)も落選していたからだ。代わって19歳の宇佐美貴史(G大阪)がついにA代表に初抜擢され、無名だった柴崎晃誠(川崎)、西大伍(鹿島)も名を連ねていた。しばらく代表から遠ざかっていた安田理大(フィテッセ)、関口訓充(仙台)、興梠慎三(鹿島)も復帰するなど、世代交代が一段と鮮明になった印象を受けたのだ。

南ア以降、中澤佑二(横浜)、田中マルクス闘莉王(名古屋)、中村憲剛(川崎)らベテランを徐々に外していったザック監督。今や30代選手は遠藤保仁(G大阪)1人だけになった。「中澤や闘莉王は安定感もあり、完成された選手。これ以上の成長は必要ない」と会見でも言い切っており、ここから先は若い世代で戦っていくという決意表明を改めて行った格好だ。

かつて2002年日韓ワールドカップを率いたトルシエ監督が当時20歳前後の黄金世代を重用したように、外国人指揮官というのは若手を好む傾向が強い。個々の伸びしろが大きく、自分の色を出しやすいからだ。成功した場合に「若いチームを大きく成長させた」と大きく賞賛されるし、失敗しても「選手が未熟だった」という言い訳が立つ。百戦錬磨のザック監督にはそういう計算が少なからずあるはずだ。

指揮官の若返り策に異議はない。実際、今の日本の20代前半の選手たちは著しい成長を遂げている。欧州へ出て行った長友佑都(インテル)や内田篤人(シャルケ)もこの1シーズンの経験で自信をつけ、逞しさを増しているからだ。槙野智章(ケルン)のように試合に出られなかった選手もより困難な環境で自分自身のあり方を考えただろう。「彼らは宇佐美ほどではないが伸びしろがある」とザック監督は語ったが、確かにもう一段階の成長はありえるだろう。「大切なのは過去ではなく未来」という言葉を繰り返し使ったところにも、若手への大きな期待が強く感じられた。宇佐美を筆頭に、チャンスを与えられている選手たちには、指揮官にしっかりと応える義務がある。

そんな中、唯一、若返りが進まないポジションがある。遠藤が担っているボランチだ。24日のアジアチャンピオンズリーグ・セレッソ大阪戦でG大阪は敗れたが、豊富な運動量と攻守両面へのアグレッシブな動き、ボールを持ってリズムをつける力など、彼の存在感は頭抜けていた。「遠藤だけは代えが利かない存在」というのはザック監督、協会関係者の共通認識ではないか。

遠藤本人はまだまだ若手に負けるつもりはない。パフォーマンスも高いレベルを維持しているから問題ない。だが、ザック監督としては彼に依存しているとイザという時が怖い。そこで、この半年間は柏木を育てようとチャンスを与えてきたが、彼は今季のJリーグで思うような活躍を見せられないでいる。そこで今回は柴崎を選び、「遠藤の後釜」としての可能性を模索する思惑だろう。

柴崎は国見高校時代に2度の選手権制覇を果たすなど、当時から注目された素材だった。国士舘大学を経て2007年に東京ヴェルディ入り。ここでは攻撃的なプレーが目立っていたが、安定感に欠ける嫌いがあった。けれども、今季川崎フロンターレに移籍し、中村憲剛とともにプレーすることで、ボランチとしての新たな才能を開花させつつある。J1で頭角を現しつつある人材にザック監督は目をつけ、代表の中盤を担える選手にすべく鍛えようとしているはずだ。

宇佐美、西を含めて、新戦力が使えるメドが立てば、日本代表の選手層もさらに厚くなる。フレッシュな面々に出番が与えられるとすれば、集合から間もなく日程的に厳しいペルー戦が有力。本田圭佑(CSKA)、長友、吉田麻也(VVVフェンロ)の合流が30日夕方になるため、ザック監督の中では7日のチェコ戦をベスト布陣で戦うシナリオが描かれていると見られるからだ。

果たして柴崎らが何らかのサプライズを見せてくれるのか。まずは新潟での動向をしっかりと注視したい。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。